第15話 死ぬまで踊り狂わせてやる

 南の町。

 町はずれの広場。

 カルアが白いドレスを身にまとい、大きな声で叫んでいた。


「私は神の声を聞いたのです! 神はこうおっしゃいましたぁ! カルアよ、お前が世界を救うのだ! 人間と魔族は手を取り合い、協力して生きていけるのだと!」


 うーん、カルア、やらせてみたらノリノリじゃん。

 そのカルアの周りには人だかり。

 カルアの説教を聞きに来た、というよりも。

 俺たちはそこで食料を配っていたのでそれ目当ての人々だ。

 今は停止させているけど、もともと人間は魔族に支配されていて、その過酷な税の取り立てもひどいものだった。

 よほどの上流階級でもない限り、食い物に困っている人たちばかりだ。

 そこに、俺はアルティーナに城の倉庫を開けさせ、肉や穀物を人々に配っていたのだ。


「みなさぁぁん! 人と魔族は協力できるのですぅ! 神がそうおっしゃっているのですぅ! 神が私にそうおっしゃったのです! 私が神の声を聞いたのです! 見てください、この食料を! これは魔族少将アルティーナ殿が提供した食料です! 神の声を聞いた私の言葉に、ついに魔族少将アルティーナ殿が共感されたのです! 魔族少将アルティーナ殿も神の言葉に耳を傾けたのです! そうですね、アルティーナ殿!?」


 めちゃくちゃ芝居がかった言い方でアルティーナに話を振るカルア。

 一方のアルティーナは、なんか恥ずかしそうにうつむいて、


「ま、まあそうじゃな……。うん、人間どもの神とちょっとは仲良くしてやってもよいかの……」


 なんだこいつ、実はあがり症か、かわいいやつめ。

 そんな間にもどんどんと食料を配る俺たち。

 人だかりはますます多くなり、そしてカルアの言葉に耳を傾ける者も少なからずいた。


「神様の声を! 私は聞いたのです! 神のいう通りにすれば、われわれは幸せの国へといたれるのです!」


 まあもともとそういう信仰があったらしい。

 ので、俺がカルアにそう喋らせているのだ。

 もちろん、カルアが実際に神の声を聞いたとか、そういう事実は一切ない。


「おお、本当にあれは魔族少将アルティーナ様……」

「ということは、あの少女のいうことは本当なのか?」

「魔族も我々の神と手をとりあおうとしている……?」

「この暗黒時代が終わろうとしているのか……?」

「神が、本当に神があの少女を遣わしたのか……?」


 未来にまったく希望が持てない、魔族の支配下となった人類に、俺は希望というともしびをつくってやったのだ。

 もちろん、そんなのは嘘の希望だ。

 しかし、人間と言うのは嘘でも希望があれば踊ってくれる愚かな生物だからな。

 死ぬまで踊り狂わせてやる。

 俺がこの世界のトップにたって贅沢しほうだいにするための第一ステップなのだ。

 と、そこに騎士を伴った聖職者が俺たちのところへとやってきた。


「これは、どういうことですかな……?」


 この街の司祭だ。

 ってことは、ここの実質トップだな。

 懐柔するか、脅すか、殺すか。

 会話しだいだなあ。

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