第14話 やはり家族ってのは大切だよな


 あれから三か月がたった。

 そのあいだ、俺は女の子たちにニンジュツを教え込んでおいた。

 三か月で使えるニンジュツなんて大したことないが、しかしリチェラッテに限ってはとんでもない才能を持っていて、そりゃもちろん俺にははるかに及ばないにせよ、この短期間でかなりの戦力に育っていた。


「いやーカズヤ、この忍術ってやつサイコー!! これでむかつくやつ全員ぶっ殺していいんだよね!?」


 満面の笑みでそう聞いてくるリチェラッテ、


「いやだめだ、俺が殺していいって言ったやつだけだ、俺が殺していいと言わない限り、殺しちゃいけないぞ」

「ちぇーーーー」

「もし殺しちゃいけない奴を殺しちゃったら俺がお前のママを殺すからな。そこだけご留意いただければ幸いに存じます」

「さようでございますか、じゃあ許可がでなきゃ我慢するね」


 うん、やはり家族ってのは大切だよな、脅す側にとってはさ。

 ちなみにカルアには真っ白でふわふわなドレスを買い与えてやった。

 本人は、


「きゃーーーーーっめっちゃ綺麗っ! 素敵! 私美人! 超美人! みてみてみて!」


 そう言ってスカートのはしっこをつまんで膝を折って挨拶するカーテシーの真似事をしてみたり、その場で回転してスカートがぶわっとなるのを楽しんだり、なんかまあ大喜びしていた。


「だって、私今まで農民の娘だったもん。こんないい服着たことないから、うれしー!」

「えー、あたしのニンジャ装束だってかっこいいもん」


 カルアとリチェラッテはそんなことを言い合っている。

 リチェはくノ一だから、俺の黒装束とは違って真っ赤な布地のくノ一姿。

 うん、目立つけどかわいいからいいんじゃない?

 ま、平和でよかろう。



 そんなある日。


「うう~カズヤ~もうお城の財政はめちゃくちゃなのじゃ……」


 魔族少将、アルティーナがしょんぼりして報告してきた。

 いや違った、いまやアルティーナは魔王の娘だというのに魔王軍を裏切って俺の配下になっていた。だからこの俺がニンジャ少将という地位を与えてやったのだった。

 ニンジャ少将ってどういうことだか、俺にもわからん。なんとなくだ。

 アルティーナは甲冑をぬいじゃえば角と羽が生えているだけの金髪の少女にしか見えない。

 ま、年齢はこれでも70歳くらいだというんだから、人間とは感覚が違うんだろう。モンスターにはよくあることだから別に実年齢がどうだろうと関係はない。


「で、なんだって? 財政?」

「そうなのじゃ。カズヤの命令で、魔王様への税も今まで通り払っておるであろう?」


「まあそうしないと魔王軍と人間の教会とのあいだで挟み撃ちになるからなあ。表面上だけでも魔王への忠誠と納税はやっといてくれ、、な」

「その上カズヤが人間からの徴収も禁止して、しょうがないから蓄えを放出してなんとかやりくりしておったんじゃが……これ以上はもう財政が持たないのじゃ。頼む、人間の町を襲わせてくれ。このあたりには大きめの町が四つほどあるから、一度ずつ略奪すれば財政も立て直せるし、減った食料も人間でまかなえるし……」


 そう。

 ここは勘違いしてはいけないのは、教会の司祭はクズだったけど、だからといって魔族であるこいつらだって人間の敵であるのは間違いないのだ。

 その気になれば人間を殺すのになんの躊躇もしないし、人間を食う習慣だって普通にある。

 司祭から人間の奴隷(主に若い女)を買い入れていたけど、無理やり献上させていたわけではないだけで、金銭で人間を奴隷にしていたこと自体は代わりないわけ。

 この世には俺も含めて悪人しかいないのだ。

 その中で誰が一番悪い奴かで、覇権を握る人間が決まる。

 もちろん俺が一番悪い奴にきまっている。

 俺は人類史上最強にして最良のニンジャであり、勇者が恐れたほどの狂暴な男なのだ。


「よし、じゃあそろそろ動くか。ええと、こないだ行った一番大きな町が北の町、そのほかに南と東と西の方面にそれぞれ町があるんだな」


「うむ、そうじゃ。それぞれが城塞都市になっているが、まあ我ら魔族との闘いで城塞などほとんど破れておる。修繕も許しておらんしな。で、人間どもを束ねる教会の本部は北の町にあってそこが一番大きい。人口は十万人ほどか。こないだカズヤが行って司祭や騎士団ともめたのがそこじゃ。あとの町はそれぞれ三万人から五万人ほどの町になっておるぞ。そのほかは小さな村々が点在している感じじゃな」


「よし、じゃあまあ南の町から始めるか」

「始める……なにを……?」


「アルティーナ、まずは残りの城の備蓄を大量に竜車に乗せてくれ。俺とカルアとリチェラッテ、そしてくノ一として訓練した女の子数十人も一緒に連れていく。魔族は人質以外連れて行かない、向こうの聖職者を油断させるためだな。アルティーナって、下々の人間たちに顔ばれしてる?」

「そりゃ威圧のための軍事パレードとか何度もしたし、知っておるやつはたくさんおるはず」


「じゃ、アルティーナもおいで。一緒に南の町の貧しい人たちを救いに行こう」

「????? どういうことじゃ?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る