第13話 贅沢したい


 さて、百人もの女の子を村に連れ帰ったが、もともと百人の人口しかいない村にそれだけの人間を流入させて普通に暮らせるわけがない。

 仕方がない、一度アルティーナの居城にみんなで戻ることにした。

 せっかく魔族の奴隷扱いから解放されたというのに、今度は人間たちに拒否されるとか、女の子たちも災難だよなー。


「あ、あのー、私たちはこの村に残ってもいいんですよね?」


 カルアが尋ねる。

 まあカルアとリチェラッテはもともとこの村の人間だったわけで、そりゃ別にいいけども……。


「見たところ、お前らの村も貧しそうだったじゃないか。どうやって食い扶持かせぐんだ?」

「そ、それは農作業とかで……」


「税金もとられるんだろ?」

「教会に納めないと……」


「うーん、勧めないな。もう俺は教会の騎士団を焼き払ってしまった。カルアとリチェラッテの顔も見られてるし、教会のやつら、下手したらあの村を襲撃してくるぞ? むしろ村のみんなも城に避難してきてくれた方がいい」

「そんな……じゃあいったい私たちはこれからどうやって生きていけば……」


「うむ。仕方がないな、俺に考えがある。人間どものボスはあの司祭なんだろ? ちょうどいいや、暴力と信仰こそがすべてのソリューションってことを教えてやるよ」


 人間たちのあの町を征服するにあたって、二つの方法がある。

 ひとつは、アルティーナの部下の魔族たちを率いて、人間たちを再征服すること。

 これが一番簡単だ。

 騎士団といってもその兵力はしょせん数百、俺の力とアルティーナ配下の1500の魔族で襲えば、あっという間に殲滅できるだろう。

 んでもって司祭はそのままにして傀儡にするか、または首をすげ替えて別の人間をトップにして教会組織をそのままいただいてしまえばいい。


 前にいったが、組織を一からつくるってのは大変だからな、人間の組織と魔族の組織をそのままにして俺がトップにつくってのが一番具合がいい。

 ただこれをやってしまうと力の均衡が完全に魔族が人間を上回る。

 まあ現状そうなっているのでいいといえばいいんだが、人望のない俺が組織のトップに立つにあたってそうなると今度はアルティーナをかつぎあげる魔族や人間が出てくるだろう。


 そうなると俺の地位が危うい。

 まあ俺の実力からして殺されることはあるまいが、放逐くらいはされるかもしれん。

 正直一人で戦い続けることもできなくもないけど疲れるし、食い物は食わないとさすがの俺も死ぬし、一人で山賊みたいなことをして生き抜いてもしょうがないし、俺は組織のトップとして贅沢したい。


 贅沢したい。


 昔の拳法漫画の世紀末覇王や自称聖帝みたいに女を侍らせていいもの食って庶民をいじめてすごしたい。


 あとアルティーナはやっつけたが、今度は魔王軍の本体も俺を攻撃しにくるだろう。

 そのときに手持ちの戦力がアルティーナの部下だけというのもつらい。


 となれば、もう一つの方法をとることにしよう。

 人間の手で、人間の教会組織を力と信仰で乗っ取るのだ。

 となると、今のところ人手が足りないな。

 都合のよいことにこの世界の大気にはマナが満ちている。俺がいた現代日本のダンジョン内と同じだ。

 ってことは俺の持つニンジャとしてのスキルも教えることができるのだ。

 あとはその使い方を教えてやればよい。


「カルア、リチェラッテ。俺がお前たちにニンジュツを教えてやる。ほかの女の子たちにもだ」


 百人単位でニンジャ……いや、くノ一部隊を作って、政治・軍事・宗教三方向から教会組織をのっとってやる。この俺が手ほどきをすれば、魔王軍にも対抗できる戦力ともなるだろう。


「いいな、お前たちもくノ一……いや、女ニンジャになるんだ」

「やったーーーーーーー! やったやった! 魔族もむかつく騎士たちも忍術で全部ぶっころしてやるよーーー!!」


 大喜びのリチェラッテ。めっちゃはしゃいでいるな、うむ、よいくノ一になりそう。

 ところがカルアの方は、


「はあ? はあ? はあ? 私、生まれてこの方農作業したことしかないし、どっちかというと農作業もきついくらい体力ないし、病弱だし、やる気もないし、あのー、いやなんですけど。忍術とか敵と戦うやつでしょ? いやなんですけど。掃除とか料理とかだけしながら平和に静かに暮らしたいですけど」


 うむ、お前ならそう言うと思ってた。


「うーん、しょうがないな、じゃあお前は忍術覚えなくていいよ」

「あーよかった」


「その代わり、神様の啓示をうけた聖女になってもらう」

「はあ? はあ? はあ? はあ?」


 ふふふふふふ。


 俺には人望がない。

 人望がなければ力で人望を持つ人間をみこしに据えればよいのだ。



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