第12話 独立宣言

 騎士団。

 それは教会お抱えの軍事力だそうだ。

 もっと正確に言うと、教会の影響力をつよく受けている修道会の騎士たちの軍団。

 幼いころから軍事の訓練を受け、その一人一人の力は並みの魔物をしのぐという。

 あるものは剣で鉄をも切り裂き、あるものは魔法を用いて敵を攻撃し、そしてほぼ全員が修道僧でもあるところから、もちろん皆が回復魔法の使い手でもある。

 魔王軍との戦いで消耗したとはいえ、現在人類が持ち得ている中でも最大の軍事力の一つだという。


 そいつらが、百人単位で俺たちの十五台の竜車を襲撃してきたのだ。

 まずは客車を引く竜が数頭、魔法によりピンポイントで殺された。

強力なドラゴンであれば人間の攻撃に一撃で沈むなどありえないのだが、このドラゴンはしょせん荷物をひくための最弱の種なのだ。

 倒れる客車、女たちの悲鳴。

 女性たちが倒れた客車から放り出される。


「きゃーーーっ!」


 悲痛な叫び声が飛び交う。

 みなケガを負っているようだった。

 ケガだけですめばよかったけど、女が一人、地面の石に頭を打ち付けて動かなくなった。

 っていうかあれ、脳みそがはみ出ちゃってるよ、死んじゃったよ?

 女たちの悲鳴がさらに大きくなる。

 みんな恐怖で泣いちゃっているよ?

 まるで守り切れなかった俺が悪いみたいな気分になるじゃないか。

 せっかく俺が魔族から助けてやった女の子をなにこんなに簡単に殺しちゃってくれてるの?


 俺は竜車をとめ、客車の上にひょいと飛び乗って騎士たちを見る。

 みな、騎馬に乗り、プレートアーマーで完全武装している。

 兜で顔は見えない。


「これはどういうことか!?」


 俺は大声で叫ぶ。

 すると、騎士の中からひときわ豪華な鎧を着た男が前に出てきた。


「司祭殿の命令である。魔王様に仇なし、魔王様の部下を攻撃するばかりか、魔王様の財産であるところの女たちを魔王軍から連れ去るなど、魔王様とその配下たる人類への反逆である!」


 なるほど。

 俺は頭悪いからよくわからんけどさー。

 俺は一度客車の中に戻ってカルアとリチェラッテに聞く。


「つまり、あれだよな、俺が生きてると司祭にとって都合が悪いってことだよな」


 それにこたえてカルアが言う。


「そうですね、つまり私たちを魔王軍に奴隷として売り払ってそのお金は自分の懐に入れ、民衆には献上を強いられたとヘイトは魔王軍におしつけたってことですね」


 つづけてリチェラッテも言う。


「しかもさー。あたしらみたいな貧しい村の貧しい娘にインチキくじで当ててさー、きっとあれ、自分の親類縁者の女の子には絶対にくじが当たらないようになっているんだよ」

「で、貧乏人の他人の娘を売った金はぼろもうけってことか。それがばれるとやばいから俺たちを殺しに来た……と」

「そうなるねー」


 ふむ。

 あーやだやだ。

 俺、町にいったら村でそうだったようにみんなに超喜ばれて超ほめられると思ってたのに。

 こうやって善意でやったことをうんこで返されるのが人間一番腹立つんだよな。

 俺はもう一度竜車の客車の上に立つ。

 脳をぶちまけちゃった女の死体を見る。

 彼女がなんか悪いことしたかなー。

 狙うなら俺一人でいいよなー。

 これは、おしおきだな。


 たとえ人間相手だって逆らうなら仕方がないじゃないか。


忍忍にんにん! 忍法、火遁の術(最強)!!」


 俺は騎馬で俺たちを囲もうとしている集団に忍術を放出した。

 ごおおぉぉぉぅっ!

 まあ一言で言えば火炎放射だ。

 動画とかで自衛隊の火炎放射器の映像とか見たことあるだろうか?

 あれを三倍くらいにしたのが火遁の術(最強)と思ってもらっていい。

 届く範囲は数百メートル、その炎は幅三メートルにも及び、俺はその火炎放射を左右に振りながら放出し続けたのだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!! 熱い、熱い、助けてくれぇ!!」


 誰が助けるというのかね。お前らの誰もケガした女の子に目もくれなかったじゃないか。


「おらぁもっとくらえええええ! でやあああああ!!!」

 

 さらに炎を強める。

 騎士たちの中でも、火炎耐性の魔法を使えないやつらはあっというまに馬ごと燃えていく。

 プレートアーマーを身に着けているからわからんが、まあ焼肉に変わっているのは間違いないだろう。

 極上の焼肉だ、あとで竜にでも食わしてやるか。

 リーダーらしきのを含む数人の騎士たちはなんらかの魔法を使ったのか、生き残っている。

 剣を抜きはらい、


「おのれ、悪魔の術だな! 神の名において――」


 俺は瞬時にその懐へと入り込む。

 面頬の奥の目と視線が合う。


「一つ聞きたいんだけどさー。罪のない女の子を魔族に売ってその金を着服したり、なんなら女の子を地面に転がして殺しちゃったりするの、許す神様なのかな?」

「う、うるさい!」


 剣を振り下ろす騎士のリーダー、遅い遅い遅い。

 俺は背中から刀を抜くと、いとも簡単にその剣を持つ右手を切り落とした。

 噴き出す血、


「ぬおおおおおっ! 神よ、わが痛みに慈悲を! 回復ヒール!」


 騎士は回復魔法を自分にかける。


「ふーん、その回復魔法をまずあの女の子にかけてあげるだけの慈悲がお前にあったなら死なずにすんだのにな」


 俺はそういって今度はそいつの首を斬り落とした。

 首を失った身体は血を噴水みたいに吹き出し、その身体をのせた馬がのんびりと向こうへと歩き続ける。

 俺は手に持った騎士の首の面頬をあげた。

 なかにはきたならしいおっちゃんの生首。


「おい、お前の神様はお前の首に慈悲はかけないのか?」


 聞くが、もちろんもう何も答えることはできない。

 俺は興味を失って首を投げ捨てた。

 残りの騎士たちに向かって俺は叫ぶ。


「おい! 司祭に伝えろ! 今後俺たちはお前ら教会とも敵対する! 魔族の魔王軍とも、人間の教会組織とも独立した勢力として、いずれお前らの勢力を殲滅してやるからな!」


 そう、これが俺の、俺たちの、独立宣言となったのだった。



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