第11話 襲撃
カルアやリチェラッテの村から十キロほど。
そこに、そこそこ大きな町があった。
周りを壁で囲まれた、城塞都市だ。
とはいっても中心部にある城は十数年前の魔族の攻撃によって破壊され、ぼろぼろになって放置されている。
「竜だ! 竜だぞ⁉」
「魔族の方々が来たのか? 何の用で……」
ざわめく町の人々。
竜が引く客車に乗って俺たちはまっすぐに教会へと向かった。
城と違って、教会は立派な建物だった。
つい数年前に建て直されたばかりだそうだ。
ふーん、そんな余裕があるんだな。
カルアとリチェラッテ、そしてファモーを連れて、俺は司祭への面会を申し入れた。
★
司祭は、きらびやかな衣装に身を包んだ、厳かな雰囲気をまとった四十歳くらいの男だった。
「なるほど。たしかにこれは魔族少将アルティーナ様のサイン。そして、そこにおわすワーウルフのファモー殿とも以前私はお会いしたことがあります。間違いないようですな」
「そうだ。城にいる人間の女性を奪還してきたんだ、そちらで収容してもとの出身地へと返してくれ」
俺がそう言うと、司祭は目をすがめてこう言った。
「それはできませんな」
「なぜだ?」
「なるほど、確かにあなた様……シノノメ殿といったか、あなたは魔族少将アルティーナ様を降伏させたのでしょう。しかし、それは魔王軍全体を敵に回す行為。いくらあなたが強いと言っても、十万人と称する魔王軍相手には塵も同然。あなたと一緒に沈没しなければならないいわれはありませんぞ」
「つまり?」
「魔王様に使いをだし、あなたとアルティーナ様を討伐していただきます。そうなる前に、シノノメ殿、あなたも魔王様に恭順の意を示し、奪還してきたという女たちを魔族に返すのをおすすめいたしますぞ」
ふーん。なるほど。
俺は難しいことはよくわからん。
だが、つまり、この司祭は魔王軍の手下ってことでいいわけだな。
ここでこいつをやっつけてもいいんだが、一応俺も人間のはしくれだ、魔族ならともかく人間相手にあんまり大暴れもしたくはない。
できれば平和にことをすすめたい。
「わかった、今日のところは引き下がるよ。ところで、司祭さん、不穏な話を聞いたんだが……」
「なんですかな?」
「あの女たちの話によると、あんた、女を献上……というか、魔族に『売っていた』らしいじゃないか? その分の金品はどうなってるんだ?」
「何の話ですかな? 我々は魔王軍に女性を献上しているのです。これは税のようなものですので、その見返りの金品など、いただいてはおりません。あまり失礼な言いがかりをつけると、あなたを異端審問にかけねばならなくなりますぞ」
ははは、笑わせる、これはやってんなあ。
「ほーん。もうひとつ。これはリチェラッテ――この女の子から聞いたんだが、近隣の若い女性を集めて誰が献上されるかを決めるとき、くじ引きしたそうだが、そのくじに細工がしてあったそうじゃないか? 箱からくじを引く方式だったそうだが、リチェラッテとカルアが引くときに、うまいこと箱自体をすりかえてたと聞いたが?」
「まさにそれこそいいがかり。そんな貧乏人の娘の言うことを真に受けてはなりませぬぞ」
「ほーん。まあいいや、今日のところは村に引き下がるわ」
まったく話にならんな。
ちょっと善後策を考えるか。
俺たちは竜車に乗って、来た道をカルアたちの村へと引き返すことにした。
その前にアルティーナから巻き上げた金貨を使って食料を買いこんだりしたが。
そして、村への帰り道。
俺たちは人間の騎士団の襲撃を受けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます