第4話 魔族少将、アルティーナ

 ジャイアント族にはたくさんの種類がいるが、どいつもこいつも強敵だ。

 なにしろ、身体がでかいというだけで、そのパワーには普通の人間では全く太刀打ちできない。

 普通であればパーティを組み、前衛がジャイアントの攻撃を受けて耐えている間に、後衛の魔法使いが攻撃魔法を使って殲滅する、というのがセオリーだ。

 幸い、ジャイアント族には魔法耐性のある種類が少なく、ほとんどの場合、魔法攻撃が有効なのである。


 だが。

 ジャイアント族の中でも、たとえば一つ目の巨人、サイクロプスなどは特に脅威とされる。

 なにしろこいつには魔法が効かない。

 その上、パワーもほかのジャイアント族よりも優れており、知能も高いので不意打ちやフェイントにも対応してくる。

 A級ダンジョンくらいだと、普通にラスボスとして君臨するレベルのモンスターなのだ。


 さて、今俺の前にいるのは、そのサイクロプスだった。

 身長十メートルはあろうかという巨体、緑色の皮膚、めちゃくちゃ発達した筋肉、そして一つ目のでかい目玉でギョロリと俺をにらむ。

 ふむ、ちょっとは手応えのある相手だな。

 俺は胸の前で印を結ぶ。


「忍忍! 忍法、土遁の術!」


 すると俺の身体は、地面にすうっと吸い込まれた。


「はあ? あれ、消えちゃった!」


 カルアの声が聞こえる。

 土遁の術。

 これは、地中を自由に動けるという忍術だ。

 俺だけが自由に動け、敵からは地面は地面のままなので、強力な防御力を誇る上に、そもそも敵からは俺が視認できない。俺からは敵が丸見え、というなかなかチートな術だ。

 案の定、サイクロプスは俺の姿が見えないようだ。

 俺は土の中を泳ぐように進む。

 そしてサイクロプスの足の直下まで来ると、上半身だけ地面から出し、背中に差していた刀でスパッ! とサイクロプスのアキレス腱を切った。


「ぐおぉぉぉ!?」


 なにが起こったかわからない様子のサイクロプス。

 俺はさらにもう一方の足のアキレス腱も斬る。


「アオオオオオオッ!」


 変な悲鳴を上げながら倒れ込むサイクロプス。

 俺はその目の前に地上から出現する。


「き、きさまぁ……」


 驚きの表情を浮かべ俺をにらむサイクロプス。


「うむ、やはりお前ごときでは俺の相手にならんな」


 俺はそう言うと、そのでかい一つ目に向かって、


「忍忍! 忍法氷遁の術!」


 すると全長二メートル、直径二十センチほどの巨大な氷の槍が形作られ――。


「でやぁっ!」


 俺の気合いとともにそれがミサイルみたいに発射され、サイクロプスの巨大な目ん玉に突き刺さり、サイクロプスの頭部を貫通した。

 ぶしゅーーーっ!!

 真っ赤な血液が吹き上がる。

 白い脳漿もまき散らされ、それが俺たちにもふりかかってくる。


「ぎゃーっ! ぎゃーっ! ぎゃーっ!」


 大騒ぎしているカルア、必死になって顔の血をぬぐっている。

 リチェラッテの方は、血と脳漿で顔を汚しながら、


「あははははは! あははははは!! こんな! おもしろーーー!! サイクロプス! 頭がふっとんで死んだ!!! あはははははは!」


 狂気じみた顔で笑ってる。

 ふむ、リチェラッテは俺と同じ種類って感じのにおいがするな、見込みがある。

 カルアは美人なだけでただの人間だなー。

 さて、サイクロプスの死体を前に、俺は大きな疑問を持った。


「なんで、ダンジョンの中にいたモンスターどもと、ここにいるモンスターども、同じ種族なんだ? 別世界のはずなのに?」


 そうなのだ。

 コボルドはダンジョンの中にいたコボルドと同じだったし、オークも魔法使いもサイクロプスもみんな前の世界の令和のダンジョンにいたやつらと同じ種族だ。

 こんなことってあるんだろうか?

 なにか、誰かの意図的なものを感じる……。

 考えている暇はなかった。

 ま、そもそも考えるだけの脳みそを俺はもっていないけどな。

 考える時間があったら目の前にいるやつの首を斬った方が早い。

 さてやってきたのは。


「騒ぎが起こっていると聞いてやってきてみれば、なんじゃこりゃー?」


 空飛ぶドラゴンの背に乗った騎士。

 ドラゴンナイトがやってきた。

 うん、こいつも見たことある。

 ただ、俺が前の世界で見たドラゴンナイトと違うのは、ドラゴンの背に乗っているのが、屈強な男の騎士ではなく、少女だったところだ。


「あ、あ、あ、我がかわいい部下のサイクロプスが……お前か、やったのは!?」


 ドラゴンナイトは見た目は十代前半の、少女というよりもむしろ子供に近い見た目をしている女の子。赤い髪から曲がって伸びる長い角、口元からちらりと見える鋭利な牙。

 小柄な身体にピンク色の甲冑を身につけている。


「お前が、ここのボスか?」

「我こそが魔王様より権限をいただきこの一帯を治める魔族少将、アルティーナである! お前も名を名乗れ!」


忍忍にんにん。俺は東雲和哉しののめかずや。人類史上最強にして最良と呼ばれたニンジャだ。この城を征服しにきた」

「笑止! 人間どもよ、契約を破り、わが魔族に反抗したな! このあたり一帯の人類は若い女を残して全員皆殺しだ!」


「ひぃぃぃ~~~! この人が勝手にやったことなんです、お許しを~~っ!」


 土下座するカルアに対し、リチェラッテは満面の笑みでアルティーナを指さし、


「今度はお前が妊娠する番だ、覚悟しろアルティーナ! うひゃひゃひゃ、きっとお前はママになるぞぉ~~~? 楽しみぃ~~~!!」


 うむ、よいぞその精神性、すでにこいつは俺のお気に入りだな。


「ふざけんな、八つ裂きにしてやる! ゆけ、ケルベロス!」


 アルティーナと名乗ったドラゴンナイトの魔族の将軍がそう叫ぶと、とんでもないスピードの黒い影が俺に襲いかかってきた。




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