第3話 無条件に人類の味方する

 モンスターどもの拠点は、石でできた小さな古い城だった。

 もともとは人間が築城したものらしい。

 一応実戦に使われることを想定して設計されたらしく、川と山に挟まれた要害に建てられている。

 古城に続く道には見張りと思われるコボルドが五匹ほど。

 みな槍を持っている。

 俺はカルアとリチェラッテとともに堂々と正面から近づいていった。


「何だ? 人間か? どうした?」

「やあこんにちは。今月の生け贄の女を連れてきたぞ」


 俺がそう言うと、コボルドたちはいぶかしげな顔をして、


「俺たちの仲間が迎えにいったはず――」


 だがその言葉をそいつが最後まで言うことはなかった。

 首がぽとりと落ちて、頭をなくした胴体がばたりと倒れた。


「!?!?!?!?」


 身構えるコボルドたち、でもこんな下級モンスター、術を使うまでもない。

 残り四匹、全員の首を斬るのに二秒もかからなかった。

 地面に転がる五つの首、五つの胴体、そして緑色の血液があたりに飛び散っている。


「はあ? はあ? 私、言いましたよね? 私たちが生け贄にならないとうちの村がモンスターたちにつぶされるって、言いましたよね?」


 黒髪のポニーテールを振り乱して俺に抗議するカルア、


「うん、申し訳ない、あんまり弱そうなのでつい……。しょうがないから、中に入ってモンスターのボスに謝ろう」

「はあ? はあ? はあ?」

「いいから、行こう」


 俺はカルアの手首をひっつかんで引っ張っていく。


「おい、リチェラッテもついてこいよ」

「はーい。正直、ちょっとおもしろそうな展開になってきた」


 リチェラッテはわくわくした表情でそう言った。

 うん、期待していてくれ。おもしろいほど簡単になで切りにしてやってやるからな。

 おっと、古城の門までくると、そこには門番。

 豚の化け物、オークだ。五匹いる。


「やあこんにちは。今月の生け贄の女を連れてきたぞ」


 俺がそう言うと、オークたちはいぶかしげな顔をして、


「俺たちの仲間が迎えにいったはず――」


 だがその言葉をそいつが最後まで言うことはなかった。

 首がぽとりと落ちて、頭をなくした胴体がばたりと倒れた。


「!?!?!?!?」


 身構えるオークたち、でもこんな下級モンスター、術を使うまでもない。

 残り四匹、全員の首を斬るのに二秒もかからなかった。

 地面に転がる五つの首、五つの胴体、そして青色の血液があたりに飛び散っている。

カルアが叫んだ。


「コピペ!? コピペなの!? なんなの!?」


 いや、コピペではない。でもこんな下級モンスター相手にバラエティ豊かな戦闘で魅せてやるほどのお人よしじゃないんだ、めんどくさいじゃないか。


「悪いなあ。こいつら、いくらなんでも弱すぎに見えちゃったからつい」

「え、待って、うちの村、これ皆殺しになるんですけど?」


 真っ青な顔でそう言うカルア。


「いやいやいや、冷静に考えてみてくれよ。これから俺がここの城のモンスターを全滅させるわけだよ? だれがあんたの村を皆殺しにするんだ?」

「はあ? はあ? はあ?」

「まあいいからついてきなって」

「ちょっと待って離して! やめて!」


 いやがるカルアの手首を引っ張っていく俺。


「えっへっへー、いいね、こういうことにならないかなーと妄想してたらほんとになったよ、王子様が助けにくる妄想! まあもう国は滅んで王様も王子様も魔王軍に処刑されてるけど」


 うきうきと俺についてくるリチェラッテ。

 さて、城門は立派な作りをしていて、内側からかんぬきがしてあるみたいだ。

 別に破壊してもいいけど、ちょっとめんどくさい。

 ここはニンジャらしく、城壁をのぼろうじゃないか。

 んー、鈎のついた手縄、もってたっけかな。


 そうそう、忘れていた。

 無限風呂敷も一緒に転移してきていたんだったな。

 これはSSS級ダンジョンのラスボスを倒したときに手に入れた、超レアアイテム。

 ほぼ無限にものを入れられていつでも取り出せる、チートアイテムだ。

 これがなくてもなんとかなるけど、あるならもっと簡単にこの城を落とせるだろう。

 ま、俺はエリクサーをもったいなくて結局使わずに99個ためちゃうタイプの人間だからアイテムを使いまくることはしないんだけど。

 有用なアイテムは消耗品が多いし、せっかくのコレクションを消費したくないからな。

 手縄くらいならいくらでも使っていいけどさ。

 そんなわけで俺は、手縄の鈎をブンブンと回転させてぶん投げ、城壁にひっかけた。

 ん? 待てよ、片手で手縄を持つと、俺の腕は二本しかないから女の子二人を同時にはこべなくなるな。

 しょうがない。


「よいしょっと」


 俺は女の子二人を両肩にかつぐ。


「ひぃぃぃ~~~こわいいぃぃ~~~なんなのお?」


 カルアは半泣きだ。


「あははは! やっばい、楽しー!」


 リチェラッテははしゃいでいる、こらお前らあんまりバタバタするな、危ないぞ。


「じゃ、行くぞ」


 二人をかついだまま、俺は大ジャンプ。

 あっという間に城壁の上だ。


「はあ? はあ? はあ? じゃあさっきの鈎付きの縄、なんで投げたの!?」


 カルアの問いに、俺はキメ顔で言った。


「確かに。いらんかったわ。ダンジョンの中だと城壁のぼるとかやらないから……。自分の能力を見誤っていたわ」

「いったいなんなのこの人、もう魔族よりこの人の方が怖くなってきた……」


 カルアが青ざめた顔でいうが、失礼な。


「なんなのって、これからこの城を攻略するんだよ。SS級ダンジョンよりは簡単なはず」


 とかいってたら、おっとローブをまとった人間の集団が俺に気づいたようだ。

 いや、こいつら人間っぽい姿をしているけど中身はこれ人間じゃないな。

 禍々しい魔力を感じる。魔族だろうな。


「なんだお前は!? 怪しいやつ! 手を上げてひざまずけ!」


 ローブをまとった魔族が俺たちに向かって叫ぶ。


「ひぃぃっごめんなさいいい」


 カルアは俺の手をふりほどいて土下座。


「あらー、魔法使いの魔族だよー。けっこう手強いよー」


 のんびりとそう教えてくれるリチェラッテ。


「おい、そこの男! お前もだ!」


 魔法使いの言葉に俺は忍術で返す。


「忍忍! 忍術、火遁の術(強)!」


 ごおぉぉぉぉっ!!

 俺の手のひらから猛火が放出され、魔族どもは火に包まれる。


「ぐぎゃあああああ!!」


 あっというまに真っ黒な炭になっていくローブの魔族たち。

 こういうのは先制攻撃で殺しちゃえば相手がなんであれ関係ないね。


「ひぃぃぃぃ! あ、あなたいったいなんなの? 人なの?」


 カルアがおびえた顔で俺に聞く。


「失礼だなあ。人間だよ。ま、俺のパーティメンバーもみんな俺のことを『人間の心がない』『普通の感性を持ってない』『一緒にいるとこっちが頭おかしくなる』ってよく言ってたなあ。心配はいらないよ、基本的には俺も人間だから無条件に人類の味方するからさ。基本的にはね」

「基本的には!? じゃあ基本じゃないと?」

「逆らうなら人間でもしょうがないじゃないか」

「ひぃぃい~~~人でなし~~~」


 ほんと、失礼なやつだな~。

 あ、向こうからジャイアントがやってきたな。

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