第2話 二人の少女

「あなた様は……?」

「俺は東雲和哉。別の世界から来た、ニンジャだ」

「シノノメカズヤ……。ニンジャ……?」

「うむ。隠密を旨とする、暗殺特化の職業だ。俺は、前の世界では人類史上最強と呼ばれていたニンジャだ!」


 俺は胸を張って言う。


「……はあ……? そうですか……」


 うーん、嘘だと思われているのか、反応が薄いな。


「いったい、ここはなんだ? お前らはなんでモンスターに拘束されてたんだ? ……その首輪、痛そうだな、外してやる」


 二人の女の子には鎖のついた首輪がついている。

 まるで犬扱いだな。さすがにかわいそう。


「でもこれは頑丈な首輪で……」


 ポニーテールがそう言い、ショートカットの方も、


「えー、これ魔獣の革でできていて、死ぬまでとれないっていわれたんだけど?」


 そう言うけどさ。

 いやいや俺のことをなめてるのか、こんな革と金属を組み合わせただけの首輪、一瞬だわ。

 人差し指と親指でつまんで、


ふん!」


 と気合いを入れると、首輪はあっさり粉砕された。


「そんな……この首輪をこんなあっさり……?」


 ポニーテールの子が外れた首輪を呆然と眺める。


「すっごいすっごい、あんたすっごい! やばい、あんたなに? 勇者? 伝説の勇者なの?」


 首輪がとれたことではしゃぎまくるショートカットの子。


「俺はユーシャじゃない、ニンジャだ! ユーシャだなんて失礼なこと言うな!」


 思わず怒っちゃった。

 しかしこの二人、対照的な性格してるなー。


「さあ、教えてくれよ、なにがどうなってお前らはモンスターに首輪させられてたんだ? ってかお前らの名前から教えてくれ」

「はい……私はカルアと申します……」


 静かな声で答えるポニーテール。ショートカットの子は、


「はいはーい! あたしはねー、リチェラッテっていいまーす! 変な名前でしょー? これねこれね、あたしのおばあちゃんがね、あ、あたしのおばあちゃんはカルロラッテって名前なんだけど、この名前はおばあちゃんのおばあちゃんがね、ツリコラッテって名前なんだけど、それも変な名前なんだよね、というのはおばあちゃんのおばあちゃんのおばあちゃんがね、ある日、湖の中に果物を落として、あ、それがリチェっていう名前の果物なんだけどね、あたしの名前につながる伏線になっているんだけど、とにかくとにかく」


「はいストップ。悪いがその話は後で聞く。……いやごめん、後でも聞きたくないや。で、もう一回聞くけどこの首輪は?」


 ショートカットの子、リチェラッテはちょっとゆっくり話できそうにないので、ポニーテールのカルアに尋ねると、カルアは答えて、


「はい、生け贄の首輪です」

「生け贄?」

「私たちはここから西のマータ村の農民の娘です……。今月のくじ引きで私たちは贄に選ばれて、魔族に引き渡されたのです」


「魔族に引き渡された? どゆこと?」

「ほんとにご存じないんですか? 私たち人間は十数年前の戦争で魔族に完全敗北し、国家は滅亡しました。魔族は人間たちを皆殺しにしないかわりの条件をつきつけてきたのです」


「条件って?」

「はい、繁殖用の人間の若い女を定期的に献上するようにと。魔族にはメスが少ないらしく、こうして人間の女に子供を産ませて増やし、産めなくなると殺して解体して食うのです……。人間は魔族に負けたから仕方がないのです。いまや人類は魔族の奴隷です」


 なるほど、人類と魔族が敵対してたのは昔の話で、いまや完全に掣肘されているってわけか。


「それなのに、あなたは……! なんてことを! 魔族を殺してしまうなど……! 私が、私たちが生贄にならねば、私の村は焼き払われてしまう……」


 そっか、俺が思わず助けちゃったからな。


「魔族ってのはそのへんから湧いて出てくるのか? それともどこか拠点とかあるのか?」

「ここから北に5キロほどのところに古城があります。そこにこの辺り一帯を治める魔族の軍団長がいるのです。魔族の軍団は一五〇〇匹ほど」


「一五〇〇匹といってもさっきのコボルドくらいのもんだろ?」

「いいえ、たしかにほとんどはコボルドやゴブリンなどの低級モンスターですが、中にはケルベロスやジャイアントなど、強力なモンスターもいるのです……ああ、もう終わりです、私たちの村は終わりです……。私はモンスターの子供を産まなければならなかったのです。なのにあなたはなんてことを……!」


「うーん、そりゃ悪いことをしたような……?」

「私たちはこれから二人で古城に行きます」


 カルアがそう言うと、リチェラッテが心底いやそうに顔をしかめて、


「え、あたしも!? せっかく助かったのにいやなんだけど!」

「リチェラッテの馬鹿! それが私たちの責務なの! 自分たちで生け贄になりさえすれば、軍団長のドラゴンナイト様も許してくださるかも……」


 生贄になるはずの娘を俺が魔族を殺して奪還したという形になっているし、このままだと確かに軍団長とやらの怒りを買うのは当然だな。

 責任を感じたので、俺はこう言った。


「ふむ、じゃあ俺のせいでもあるし、そこまで送っていくよ。途中で野生動物とかに襲われたら身を守れないだろ? んで、動物に殺されたらモンスターに身を捧げることもかなわず村もお取りつぶしで皆殺しなんだろ? じゃ、俺が護衛してやるよ、俺が悪かったんだし」

「……ほんとにあなたのせいですからね? じゃあ古城まで私を送り届けてください」


 ショートカットのリチェラッテが明らかに不満そうな顔で、


「えー待って、あたしはいきたくないんだけど。あたし、モンスターの子供なんて産みたくないし、食べられたくもない」


 と言うと、カルアは悲壮な顔で叫ぶ。


「私もそうだけども! 仕方がないじゃない、村のみんなを守るためなの!」


 うん、まあどっちの意見も尊重したいところだがもちろん、こんな少女たちをモンスターから妊娠させられるために送り届ける、わけがない。


 俺は人類最強にして最良のニンジャ。


 一五〇〇匹、ケルベロスにジャイアントにドラゴンナイトか。

 うむ、まあ一五〇〇ならいけるな。


 もう一度言う。何度でも言う。

 俺は人類史上最強にして最良のニンジャ。


 前の世界では、魔王を倒し世界を救ったユーシャですら俺を恐れたほどの存在なのだ。

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