あの日の昼

なんで誰も起こしてくれなかったんだ?しかし、そんな疑問は一瞬で消え去った。そんなことはありえない。だったらドッキリとか?いや、ドッキリだとしても前日にしっかり寝ていたので、こんな時間まで寝ていられるわけがない。そういえば、今は何時だろう。僕はそっと時計の方に目を向けた。


……時計の針は0時で止まっていた。僕は震える手を抑えながらスマホで時間を確認した。やはり止まっていた。

「そうだ。窓の外を見れば人がいるかもしれない」

そんな言葉をぶつぶつと呟きながら、少しでも心を落ち着けようと、窓の外を覗いた。すると、学校の前にあるマンションに電気がついている部屋がいくつかあり、詰まっていたものが吐き出されたように、「はぁ…」とため息をついた。その音と重なるように廊下の方から足音が聞こえた。人ではないもっと何か小さいものが歩く音だ。僕は恐る恐るドアの硝子越しに廊下を覗いた。


……犬だ。それは柴犬で真っ白な身体に…。

僕は息を呑んだ。しばらくして、胸に手を当ててゆっくりとドアを開けた。すると犬はこちらの方に「ワン」と吠える。敵意などは感じられなかったが、犬は階段とは反対側にいたため、犬の方に行かずとも学校から出られることができる。しかし、犬は僕をこっちへ来いと呼んでいるような気がした。

僕はまた動けなかった。そうやってまた"選択"を迫られて、それを選べない自分に嫌気がさし、その場の状況や恐怖心を差し置いてただ悔しかった。でも、ここでは誰かがまた通りかかってくれるなんてことはない。僕は彼女みたいな優しさも余裕さも持ち合わせてはいない。自分に正直に生きている。だから僕は…


小さな声で「ごめん」そう呟いた時、犬の表情は少し明るかったように見えた。僕は犬とは反対方向に走った。誰もいない学校の階段を駆け下りて、玄関へ向かった。しかし扉は閉まっていた。そして玄関の硝子に反射して黒い犬がこちらを見ていた…。


僕はビクッとして手に持っていたシャーペンを落とした。隣の席の人が僕を見てクスッと笑った。僕は寝ていたらしい。ただ、夢のことははっきりと覚えていて、どこかスッキリしなかった。そんなこんなで、授業が終わり放課後になった。ふとスマホを見ると数分前に岬さんからメール通知が来ていた。


「岬 結菜です。とりあえずメールしてみたんだけどあんまり使い方に慣れてなくてLINEで話しませんか?」というメッセージとLINEのQRコードが写真で送られていた。僕はいきなりQRコードなんて送ってしまうのかと少し危惧するも、男として追加しないなんていう選択はなかった。その後は緊張しながらも「追加させて頂きました。初野です。ありがとうございます」などという意味のわからないメッセージを送り、帰路に就いた。


途中コンビニに寄って飴玉とサイダーを買い、飴玉を口に咥えながら家に帰った。家に着いてまずリビングに行き、日課のゲームタスクを熟すこなす。ひと仕事を終えて、スマホを見ると岬さんからメールが届いていた。


岬「今日学校間に合った?笑」

初野「遅刻した笑」

初野「先生に怒られるし授業中怖い夢を見るしで大変だったよー」

岬「え?」

岬「私も今日怖い夢を見て体調が悪くなって早退したの」

初野「えほんとに?」


詳しく夢について話していくと、二人とも今日助けた犬が夢に出てきたということが分かった。調べてみると、学者カール・G・ユングが提唱している"シンクロニシティ"という概念があり、二人が同じ経験などをすると同じ夢を見ることがあるというもので、二人が同じ夢を見るという話は心理学的に有り得ない話ではないらしい。


岬「今夜は夢で会えるかもね?」

初野「そうだね笑」


といったやり取りをしていると、外はすっかり暗くなっていた。僕は今日起こったいつもとは違う出来事のことや明日もLINEでやり取りできるかなどと考えているうちに、寝てしまっていた。


目が覚めると、僕は再び真っ暗な教室にいた。いきなりのことで混乱したが、しばらくして前とは少し状況が違っていることに気がついた。


僕の隣の机で誰かがうつ伏せになって眠っていた。

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