第2話 人生一度きりのチャンス
おかあさん : 「裏口から逃げるわ。いくわよ、ヴァルテル!」
KP : 走りながら、お母さんは説明します。
おかあさん : 「聞いて、ヴァルテル。この町は軍隊に襲われているわ。同じキリスト教徒である、十字軍が攻めてきたの……!お父さんは……交渉にいったけれど……多分……」
ヴァルテル: 「うん…!」と、泣きべそをかきながら、お母さんにしっかりとしがみつきます。
KP : お母さんが逃げ込んだ先は、庭の壁がある場所でした。
一見、裏口などない場所です。
おかあさんは、あなたを壁のところにおろします。
ヴァルテル : 「お、おかあさん?」
おかあさん : 「ヴァルテル。これを渡すわ……持っていて」
KP : ここで黄昏色の鍵を渡されます。
お母さんはあなたを包むように背を抱き、
その鍵をあなたの手に握らせて、呪文を唱え始めます。
KP : すると、壁だった場所がじわじわと下がっていきます。
だんだんと下がるその壁が、あなたが飛び越えられそうな高さになると、
お母さんは手で飛び越えるように指示します。
ヴァルテル : 託された鍵をしっかりと首から下げて、
おかあさんの指示に従い、壁を飛び越えようとします。
KP : この壁はDEXのハード成功でないと、飛んでいけません。
何かしらの工夫があれば、難易度が下がるでしょう。
ヴァルテル : 近くに木は生えていますか?
KP : 生えてます。
ヴァルテル : では、木にロープを結び付けて
それを手掛かりにしながら壁をよじ登ろうとしてみます。
KP : わかりました。レギュラー成功に成功度が下がりました。
KP : 判定どうぞ。
【ヴァルテル……コロコロ (DEX)1D100<=60 出目 82 ⇒ 失敗】
KP : 失敗ですね。遠くから馬の掛けてくる音がします。
KP : もう一度どうぞ。
【ヴァルテル……コロコロ (DEX)1D100<=60 出目 43 ⇒ レギュラー成功】
KP : 飛び越えました!
KP : 貴方が飛び越えると、ひゅっと壁が上にせり上がって躓いてしまいます。
なぜでしょうか? 先ほどまで下がろうとしていた壁が、上がっていたのです。
それは、お母さんが詠唱をやめたということでした。
ヴァルテル : 「おかあさん!? おかあさん!」と、振り返って叫びます。
KP : 振り返ると、お母さんと誰かが対峙している気配がします。
??? : 「お前の家の秘密を暴かせてもらった。右腕はどこだ?」
おかあさん : 「あなたにそれを応える気はありません」
(プレイヤーのメモ) : 家の秘密、「右腕はどこだ」
ヴァルテル : ヴァルテルは静かに息をのみ、声に耳を傾けています。
??? : 「フン……ならば、分かっているだろうな!
この私を怒らせたことの報いを受けるがいい!!!!」
KP : お母さんは何事か呪文で対抗しようとします。
しかし、突如と血が飛び散る金属音がします。
KP : そしてあなたが見たのは、母親の首が宙に浮き壁を越えて切り離された瞬間でした。
ヴァルテル : 「ひっ……、」と目を大きく見開き、その場で硬直します。
母親の首は壁のこちら側に飛んできた、という認識で大丈夫ですか?
KP : 演出はお任せしますよ
ヴァルテル : では、目の前に落ちてきた母親の首を震える手で抱え上げます。
「おかあさん……? うそだ!
おかあさん、おかあさん、こんなの悪い夢だ……」
と、次第に冷たくなってゆく母親の首を見つめて
自分に言い聞かせるように何度も繰り返しています。
KP : 抱きかかえられた母の首からは、もう返事はありません。
あの温かい祈りの場も、ご飯のにおいも
霊廟から見た夕焼けとお花の二色のコントラストも。
もうないのです……
ヴァルテル : ぼろぼろとこぼれる涙で視界がゆがみますが、
母親の首をぎゅっと胸に強く抱きしめ、なんとか立ち上がります。
「にげなきゃ……おかあさんが
僕を逃がしてくれたんだから、逃げないと……!」
KP : 奥は水路になっているようです。入りますか?
ヴァルテル : 母親の首を大切そうに抱えたまま、水路に入ろうとします。
KP : 貴方はざぶざぶと、水路の中を行きます。
お母さんの首を抱変えながら。ざぶざぶ、ざぶざぶと……
次第に水路は暗くなり、意識を失ったのか、それとも水路で前が暗くなったのか。
あなたは真っ暗の中へ、消えていきました。
…
……
………
目が覚めます。
KP : 起きると、そこは見知らぬ船上の甲板の上でした。
気絶したのかよくわからないまま、あなたは甲板の上に寝かされています。
手元にあったお母さんの首はなく、よく見れば鍵もありません。
ヴァルテル : 「……! おかあさん!?」
飛び起きて目で周囲を探し回った後、慌てて胸元を探り、
どちらも失われていることに気付いて愕然としています。
傭兵テオン : 「なぁんだ、ぼうず。探し物か?」
そうやって声をかけた男は、あの黄昏色の鍵を指でくるくる回しています。
ヴァルテル : 「……返せ。おかあさんをどこへやった」
と、子どもらしからぬギラついた瞳で見知らぬ男を睨み付けます。
傭兵テオン : 「正気か? もう死んじまってた遺体だぜ?」
ヴァルテル : 「うそだ! かえせっ、おかあさんを返せ!」
と、男につかみかかろうとしています。
傭兵テオン : 「おうおう、落ち着け……遺体は埋めてやったよ。
お前を拾った付近にな 。俺は傭兵をやってるからわかる。
死んじまったもんは弔って、俺たちは弔いの後を生きるしかねぇ。
戦争は、子供も女も王だろうが姫だろうが、平等に死を与える。
お前はそんな渦中に放り込まれたんだ」
ヴァルテル : ヴァルテルは掴みかかろうとしていた腕を力なくだらりと落とし
「……僕の町は、どうなったの。おかあさんが……
僕たちが何をしたっていうの……」
と、ぶつぶつと呟くように口にします。
KP : 傭兵は船の帆が開くのを、上を見て察します。
傭兵テオン : 「出航するぜ。甲板の先の方へ行ってみな、今のザダルが見える」
ヴァルテル : 「……」ふらふらとした、幽鬼のような足取りで甲板の先へ向かい
目をこらします。
KP : 船が動き出し、あなたは故郷が遠くなっていくことに気づきます。
黄昏色に沈む夕日とともに、焼け焦げたザダルの街が小さくなっていきます。
これが二度と戻る事のない幼少期の終わりであることに気づくでしょう。
ヴァルテル : 「……許さない。絶対に、ゆるさないっ……、
おかあさんも、お父さんも、シバも……、
僕が、絶対に仇を取ってやる……!」と、静かに呟き
……ぎり、とこぶしを握ります。
傭兵テオン : 「……俺はテオン。お前を戦利品としてもらった男だ。
これから傭兵としてお前の面倒を見ていく」
鍵を返してほしかったら、傭兵として働くことだ。
自分を買えるだけの金を稼いだら、この鍵を返してやるよ」
傭兵テオン : 「ま!そんな日が来るといいな……!」
KP :そう言ってテオンは、さっさと鍵をふところにしまって
船の中に入っていきます。
ヴァルテル : ヴァルテルは最後にもう一度、失われた故郷を見てから、
何かを決意した足取りでテオンの後を追います。
KP : 故郷がどんどんとあなたの背後で小さくなっていきます。
貴方の決意の炎とは反対に、町は焼け焦げて灰と化したでしょう。
しかし、それはあなたは見ることはありません……
それを見るのは、また……
KP : ここから青年期ですが、ちょっとだけ歴史のお話をしたいと思います。
PL:はい!
KP : 第四次十字軍はザダルを襲撃後、コンスタンティノープルを攻め落とします。
PL:ふむふむ。
KP : そこにラテン王国という国を建てるのですが、
領土欲のために他のブルガリアがある地方にも攻め上がります。
KP : 今回は、その近くにあるアドリアノープルという都市を攻略するための
駐屯地からお話が始まります。
KP : あれから6年経ち、あなたは今12歳です。
テオンに傭兵として育てられ、現在駐屯地にいます。
駐屯地には傭兵たちしか残されておらず、
他の正規の兵士や騎士達は出払っています。
あなたはテオンに呼ばれて、彼の部屋に行く途中です。
あなたがテオンの部屋に向かっていると、駐屯地が妙に騒がしいことに気が付きます。
ヴァルテル : 「……なんだろう?」と足を止め、騒ぎの中心あたりに目を向けます。
KP : 何人かの者が基地から帰国への不安を漏らす話声が聞こえてきます。
中には、騎士達の物品を盗って行ってしまうような者
荷物をまとめて出ていく準備をしている者もいるようです。
ヴァルテル : 物陰に隠れながら近づいて、
もうちょっと詳しく話が聞けないか耳を澄ませてみます。
KP : そうですね、不安を漏らす声の方に行きますか?それとも、物品をとる人?
または、荷物を出ていこうとする人のも聞けます。
ヴァルテル : 荷物をまとめて出ていこうとしている人の話し声がまず聞きたいです。
KP : では、二人の傭兵が荷物を抱えて、準備をしているところに聞き耳を立てます。
これは判定なしで大丈夫です。
傭兵 A : 「おい、俺達の主力である騎士達がブルガリア兵を深追いして、全滅したらしい」
傭兵 B : 「なんだって?」
A : 「その中には、指導者である国王ボードゥアンも含まれているらしいぜ」
B : 「ボードゥアン様がいなくなったら、撤退は難しいなあ」
PL:すみません、この時点でボードゥアン国王が仇だとわかっているんでしたっけ……?
KP : はい、あなたはそのボードゥアンという名前を知っています。
PL:わかりました。ありがとうございます!
ヴァルテル : では、ヴァルテルは息をのみ、
「ちょっと……それって本当ですか?」と二人の兵士に声をかけます。
AとB : 「おわっ、びっくりした」と、声を掛けられて驚いた後。
A : 「なんだ、テオンのところの坊主じゃねえか」
B : 「最近は剣が立つようになったらしいな。
しかし、お前の剣でも今の状況は突破できねえ事態だぜ」
A : 「何せ、騎士様をつれて国王様もいなくなってしまった状態だ。
司令官なしじゃ、この基地も危うい。
お前もテオンと一緒に逃げる算段をした方がいいぜ」
KP : 自分より年下であるあなたに、少しからかう口調で彼らは言っていますが。
ピリピリとした死を覚悟している緊張感が二人にはあります。
ヴァルテル : では、早口で礼を言って、その場をいったん離れます。
他の人たちの話をまだ聞くことはできますか?
KP : できます。先ほどの盗んでいる人と、不安を漏らす人に聞けますよ。
ヴァルテル : では、不安を漏らす人の話を聞いてみたいです。
ヴァルテル : 「すみません、さっき僕にも聞こえてきたんですけど……
騎士様たちが全滅したって本当なんですか?」と声をかけてみます。
KP : その傭兵は、うずくまってプルプルと不安な声を漏らしています。
おびえる傭兵 : 「ああ、ああ、そうなんだよ!
騎士たちはブルガリア軍に一網打尽、こんな残された兵力じゃぁ、
俺たちは帰還することもえきねえ……!
俺たちだけじゃ……ああ、誰か助けてくれ」
ヴァルテル : 聞きたいことは聞けたし、刺激するとかわいそうなので、そっとその場を離れます。
KP : はい、盗んでいく人は話しかけたりしますか?
ヴァルテル : はい。
ヴァルテル : 「……何をしているんです?」と、盗みを働いていることは
わかってはいますが、一応声をかけてみます。
盗人の傭兵 : 「なんだ? 咎めに来たのか? これはもう所有者がいない遺品だぜ?」
ヴァルテル : 「まだ、本当に死んだかどうかもわかっていないのに……」
と、つい非難がましいことを口にしてしまいます。
盗人の傭兵 : 「カカカ! 死んださ死んだ。俺たちもいずれ死にそうな時なんだ。
今のうちに金目のものは詰めといたほうが得さ」
ヴァルテル : 「……そうですか。それをもって生き延びられるといいですね」と、盗みに対してほんのりと嫌悪感をにじませつつ、彼から離れます。
ヴァルテル : 「そうだ、早く師匠の所へ行かないと……!」
と、本来の目的を思い出します。
KP : そうですね。急いだほうがいいかもしれません。
テオンは駐屯地のテントにいるようです。
ヴァルテル : では、荒れている駐屯地の様子をもう一度ちらりと見てから、
駆け足でテントに向かいます。
KP : ではテントの様子です。
KP : あなたがテオンがいるテントの前まで来ると、中では傭兵のリーダーたちを集められて作戦会議がおこなわれていました。
誰がしんがりをするか、誰が帰り道の安全を確保し、誰が情報を集めてくるかなどが議題になっているようです。
その内容から、彼らがこの基地から国までの帰りの事をかなり不安視しており、真剣に話し合っていることが分かります。
彼らはしばらく話合った後に解散して、テオンの部屋から出ていきました。
ヴァルテル : 部屋から出ていく先輩傭兵たちに頭を下げてから、
「……ヴァルテルです。遅くなってすみません」と、テントに入ります。
傭兵テオン : 「いよぉ、遅かったな」
この状況にビビッて、逃げちまったんじゃねえかと思ったぜ」
ヴァルテル : 「……そんなわけないでしょう」と、ちょっとムっとしています。
傭兵テオン : 「ま、そんなわけねえよな。お前には、これがあるもんな」
と、チラッと、黄昏色の鍵をふところから見せます
ヴァルテル : その鍵をじっと目で追っています。
傭兵テオン : 目線があうと、すっと意地悪にしまってしまいます。
ヴァルテル : 我に返って「駐屯地がかなり荒れていました。噂は本当なんですか?」
傭兵テオン : 「どうやら、情報くらいはお前にも届いているようだな?
ヴァルテル、馬の準備をしろ。こっそり駐屯地を抜け出す準備だ。
俺はこれはチャンスだと思ってる」
ヴァルテル : 「はあ?何を……」と言いかけますが、
途中で言葉を飲み込んで、「わかりました」と従順に頷きます。
傭兵テオン : テオンは装備を体に着けつつ、帯刀し、しおらしく言うことを聞く
ヴァルテルに、ふふんと偉そうに笑いかけます。
ヴァルテル : ぎゅっと悔しそうに唇を噛みますが、言われたとおりに厩へ向かいます。
KP : 馬を連れてくるとですね、テオンが馬の馬具を準備しながら説明してくれます
傭兵テオン : 「耳寄りな情報だ。ヴァルテル。これはチャンスだ」
ヴァルテル : 「だから、何がです?」と胡乱な目で師匠に続きを促します。
傭兵テオン : 「殲滅された騎士の中に国王がいるのは知っているな?」
ヴァルテル : 「……ええ。駐屯地はその話で持ち切りでしたから。
皆ケツまくって逃げ出そうとしていますよ」
傭兵テオン : 「その国王がだな、敵陣営から逃げ出したという話を入手したんだ」
ヴァルテル : ほっとしたような、残念なような気持ちで
「どこから聞いたんです? 本当ですか?」と問いかけます。
傭兵テオン : 「情報源は秘密だ。だがな、これを助ければ、千載一遇のチャンス。
一生暮らせるだけの報酬がもらえる」
傭兵テオン : 「そこで、俺はお前を連れてこのチャンスをつかみに行くことにした。
なんだかんだでお前は剣の筋がいい、いざというときは頼れる。」
ヴァルテル : 「師匠。まさか、助けにいくとか言いませんよね?」
傭兵テオン : 「これは……チャンスなんだよ。ヴァルテル。
お前にはわからねえかもしれねえが」
ヴァルテル : 「国王が僕の故郷に何をしたのか、知っているくせにそれを僕に……」
反射的にカッとなって言い返そうとしますが
「……いえ、何でもありません。いいでしょう、ついていきますよ」
と静かに答えます。
傭兵テオン : 「チャンスは二度とめぐってくることはねえ」
チャンスは二度とめぐってくることはないーーテオンの口癖のようなものでした。
ヴァルテル : 「そうだ、これはチャンスなんだ……」
と、薄ら暗い声でぶつぶつと呟きます。
傭兵テオン : 少し寂しそうな気配をさせたテオンは、顔を上げて馬に乗り込みます。
「シャキッとしろ、ヴァルテル。
声がちいせえと、覇気で気おされて敵陣に殺されちまうぞぉ~~!」
ヴァルテル : 「わかってますよ!」
と精いっぱい声を張り上げて言い返し、ヴァルテルも馬に騎乗します。
テオンとヴァルテルは騎乗し、駐屯地を出ます。
外は既に暗くなっており、二頭の馬が駆ける音しか響かない静かな夜でしたーー
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