22.『闇のゲーム』

 結論から言おう。


 今の俺がこのゲームに勝つことは不可能だ。

 カジノや敵の攻撃パターン、アイテムのドロップなど様々なところに『幸運』のステータスは影響している。

 しかし、初期ステータスから一度もレベルアップしていない俺の幸運ステータスは、


 LUC(幸運):0


 である。


 これでは幸運補正もへったくれもありゃしない。むしろ石につまずくだけで死んでしまいそうだ。


 幸運は頼れない。運任せのギャンブルはしてはならない。

 Communicate Connect Saga攻略wikiカジノ・グリムテトラの攻略ページの前文にもこう書かれている。


『ギャンブルの必勝法は、ギャンブルをしないことだ。世の中は、全て数字で回っている──』と。




 目の前には、妖艶な笑みを浮かべた金のリリムがいる。


 俺のカードは7と4。

 金のリリムのアップカードは9だ。ホールカードは伏せられているため分からない。


 ブラックジャックのルールはシオシオ内でも変わらない。

 お互いが21に近づけていく、いわばチキンレース。21を越えてしまった時点でバースト。つまり、負けだ。


「ふうん、良いわね。7と4で合計11……ブラックジャックはキングもクイーンも10点だから、もう一枚ヒットするのが定石ねぇ」


「……言われなくても」


 金のリリムはシャッフルしたカードからこちらにカードを滑らせる。


 ……8だ。


 こちら側の手札は合計して19。

 十分強い数字だ。もしも金のリリムのホールカードがキングなどを引き、10の場合は引き分けだが、あくまで引き分け。こちらの負けではない。


 むしろ、ここでもう一度ヒットして21を超えてしまう確率のほうが高い。

 ここは素直に、


「ステイ」


「あら、堅実ね。ふふっ。では、お楽しみタイムといきましょうか」


 金のリリムが、ホールカードをめくる。

 その数は……8! 金のリリムの合計点数は17、ディーラーはこれ以上ヒットできない!


 つまり……。


「あら、負けちゃったわ。強いのね、あなた」


「たった一度勝っただけで何を言う」


「あなたのこと、気になってきちゃったわ……好きになりそう、かも」


「……」


 ゾクゾクするような甘い声が耳を震わせる。……騙されるか。騙されてなるものか! この薄っぺらい言葉の奥には、虎視眈々と獲物を狙う毒蛇の顔が隠れているに違いない!


 決して冷静沈着なふりをして、金のリリムの胸元に視線が行くのを抑えているわけではないのだ!


「ふふっ、つれないわね」


 金のリリムの手によって、賭けていた10メダルは2倍になって戻って来る。

 俺は20メダルから10メダルを取り出して再び賭け金のエリアに置いた。


「今度も?」


「ブラックジャックだ」


 俺と金のリリムはその後もブラックジャックを続けた。

 俺は毎回10メダルを賭け、そのまま九回戦が終わる。


 結果はなんと、八勝一敗。

 八回のうち、二回はナチュラルブラックジャックであり、ほとんど不戦勝だった。

 瞬く間に賭けたメダルは膨れ上がり、当初の10メダルは何倍にも増えている。


「素敵、素敵だわ! なんて運の良い人なのかしら! まさに運命よ!」


「まさか、ここまで連勝するだなんて……このカジノがオープンして以降初めてのことですよ!」


 金のリリムと銀のリリスの称賛の声がまるで滝のように浴びせられる。背中には銀のリリスの柔らかい身体が押し当てられ、両手は金のリリムが握りしめていた。


 金のリリムが顔をほのかに赤らめながら、囁いてくる。


「さあ、さあ、さあ! まだまだ遊ぶのでしょう? もっと賭け金を大きくすれば、さらに大きな幸運も舞い込んでくるわ!」


「くひひ、素敵なお兄さん、どうしますどうします?」


「……そう、だな」


 俺は呟いて、懐から大量のメダルを遊び場にぶち撒けた。


「「っ、」」


 息を呑む金のリリムと銀のリリス。

 その数、9000メダル。


「そろそろ勝負に出るとするか!」


 その瞬間、金銀の双子のバニーガールの目が貪欲な光を帯びたことを俺はしっかりとこの目で見ていた。


(今、お前らの目は捕食者の目だ。獲物を前にしてヨダレを垂らしているどうしようもない顔……)


 俺は、ほくそ笑む。


(システム的に賭けたメダルの数が多くなると、必ず勝てなくなると言われているこのゲーム……トランプに仕掛けがないことは確認した。二人が魔法を使っている気配もない)


 ならば、簡単だ。

 ゲームではシステム的に負けていた。明らかに絵柄がディーラーの有利になるように変化していた。

 なんだったら、同じ絵柄のトランプが9枚続けて出たこともある。

 もちろん俺は『こんなクソゲー二度とやるか!』とVRヘッドセットを投げた。


 だが、ここは現実!


 現実では、途中でトランプの絵柄が変わることなんてありえねぇんだよ!


(覚悟しろよ。このカジノ・グリムテトラ……俺が、完全攻略してやるぜ!!)



──

フラグ乱立……!

果たして主人公はどうなってしまうのか……!?


次回サブタイトル、

『破滅』!

──デュエルスタンバイ!

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