8.『城ルート by RTA』

 神話に伝えられている話だ。

 原初の闇に覆われた世界に光をもたらし、邪悪なる神を封印した八人の英雄がいた。


 八人の英雄はそれぞれが王となり、陸海空を治めて国を作った。

 そのうちの一人──天空王ルナエルが世界に邪が蔓延らぬよう創ったといわれているのが『天空城バルトリアス』。


 かの城の主は旅に出て二度と戻らなかったが、今でもかつての主の帰還を待ち望む白銀の竜が城を守っている。

 天空王の財宝は空高くに浮かぶ城の中で、あなたを待っているのかもしれない──。


 ……というのが、ラスボス戦後に語られた天空城に関するフレーバーテキストだ。

 ぶっちゃけ、シオシオのゲーム内では本編が電波シナリオ過ぎて、フレーバーテキストの『神話の時代の話』などほとんど頭に入ってこなかった。本編にも八人の英雄やらは一ミリも登場しなかった。


 シオシオの制作は資金繰りやら人事トラブル、その他諸々のせいで過酷を極めたと開発会社がインタビューで語っていたが……。

 恐らく、『八人の英雄』とやらは元々初期設定には存在していたものの、制作途中で色々と都合がつかなくなったため、削られたシナリオに登場する予定だったのだろう。


 ゲーム時代ならば、もはや過ぎた話として笑い話にもできるが、フレーバーテキストを含めたゲーム設定が現実となっているこの世界ならば。

 もしかしたら、天空王は実在しており、今も旅を続けているのかもしれない……。


 ◇


「ふぃい、危なかったな」


 天空城の壁に空いた大穴を見上げながら、俺は安堵の息をついた。

 俺の身体は何もないところに向かって、剣を振り抜いた状態で止まっている。


 シオシオは高いところから落ちる『落下ダメージ』、重い物体や速い物体がプレイヤーにぶつかることで生じる『衝撃ダメージ』を嫌らしいほどに再現している。


 なんでも専用の物理エンジンを組んでいるのだとか。……その金でデバッグをしろよ! と叫びたいところだが、相変わらずの塩ゲーことシオシオスタイルである。


 『銅剣無限飛行術』の超速スピードで壁に穴を空けるほどの衝撃でぶつかったのなら、確実に即死級のダメージが入る。


 しかし、ゲームの仕様『スキル発動前後に生じる数フレームの無敵時間』──通称『4フレーム先の天国』によって、それをカバー。

 何もないところに技を繰り出して、ドヤ顔でポーズを取っているということを除けば、何もかもが完璧だ。


「天空城のマップは……うし、覚えてるな。ルート通りに行くか」


 RTAでは、序盤から『銅剣無限飛行術』で天空城に侵入し、強力な装備やら財宝を掻っ攫うというのがルートの一つだった。もちろん、俺もそのルートは数え切れないほどのトライアンドエラーを繰り返して身体に覚え込ませている。


 天空城バルトリアスは、ラスボス戦後に到達できる裏ダンジョンということで、殺意MAXのトラップが盛り沢山だ。それにレベル340のモンスター、《エンシェント・ゴーレム》にエンカウントしてしまえば即死は避けられない。

 それらの巡回ルートを把握、全て躱さなければならない!


「相変わらずギミックが嫌らしすぎるぜ!」


 荘厳な柱が立ち並び、タイルが敷き詰めてある廊下を、ぴょんぴょんと片足跳びの要領で進む。


 一見、全て同じ模様のタイルに見えるが実は全て違う模様であり、天空城の図書館エリアで手に入れた暗号を読み解いて、指定された模様入りのタイルを順番通りに踏まなければ穴が空いて真っ逆さま。

 空へ放り出されるトラップ。


 16パターンの乱数を近場の松明の飛び散る火の粉の数で確認しながら、暗記した手順に沿ってジャンプする。


「絶対ニヤニヤしながら作っただろうなぁ」


 光魔法で作られた赤外線センサーモドキをくぐり抜け(失敗すれば火炎放射器で丸焦げにされる)、オリハルコンの槍が雨のごとく降り注ぐ広間を抜けて、傾いた廊下の先からでっかいトゲトゲ鉄球が転がってくるというトラップも鉄球が降ってくる位置も回避場所も把握しているため難なく回避。


「やっぱり先人たちが命を削って作り上げたチャートには、感謝しなくちゃいけないよな」


 廊下の床が次々と抜けて、その下からマグマがせり上がってくる。

 俺は乾いた笑いを浮かべながら、剣を抜いて、


「『飛び込み斬り』!」


 『超速辻斬りダッシュ』で廊下を満たすマグマの海をスキップした。

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