7.『#裏ダンジョン #不法侵入』

 時は『Communicate Connect Saga』黎明期。

 まだ『銅剣無限飛行術』も『カミカゼ・ドリル』も『竜殺し飛ばし』も、ましてや『異世界商人(直喩)』さえ発見されておらず、シオシオRTAが最低28時間以上かかる圧倒的苦行だった時代。


 一人のプレイヤーがある奇妙な発見をした。

 そのプレイヤーはVRゲーム初心者であり、最初にプレイしたのが『Communicate Connect Saga』──シオシオだったという。

 この時点で深い同情を覚えそうになるが、しかし、彼は理不尽な仕様だらけのシオシオを『ゲームってこういうものなんだろ?』という鋼のメンタルで耐え続けたというのだから驚きだ。


 VRゲーム初心者であったからこそ発見できたとされるバグが、後にシオシオRTAにおいて最重要技となり、クリアタイムを八時間弱縮めることとなる『銅剣無限飛行術』の発見に繋がった。世の中分からないものである。


 まず最初に、彼が奇妙に思ったのは、片手剣の二番目のスキル『飛び込み斬り』が現実とは異なる挙動で動作することだった。

 『飛び込み斬り』を発動させれば自分は剣を構えて、まるで剣術の達人のような動きで敵の脳天に向けて剣を振り下ろす。

 例え、敵に背中を向けていても。

 現実では、そんな体勢から剣を抜いて敵に飛びかかるなんて出来やしない。


 当然だと思うだろう。

 シオシオはあくまでゲームであり、『飛び込み斬り』の動きはあくまでもゲームとしての動きなのだから。

 ゲームをやりなれている人ほど、疑問は感じない。


 しかし、これは実際問題おかしなことなのだ。

 『飛び込み斬り』はターゲットした相手にめがけて一直線に飛び込んで、剣を叩きつけるスキル。

 つまり、『ターゲットした相手との距離をシステム的に詰めている』ということになる。そこに自分の身体能力は一切関わる余地はない。


 身体能力に関わらないというのであれば、システム的に認識されているものなら背後にあるものだって、標的になってしまう。

 そう。『飛び込み斬り』には敵に向かって自動追尾する『誘導性』があったのだ。


 通常、遠距離魔法などにつけられる『誘導性』がシオシオ運営の意味不明な采配のなせる技なのか──身体=プレイヤーを同期させる片手剣カテゴリのスキルにつけられた。


 結果、生まれたのは『超速辻斬りダッシュ』と呼ばれたネタ技。

 『飛び込み斬り』のターゲットを超遠距離の敵影に設定(この場合は『双眼鏡』や『遠視スキル』が役に立つ)、そのまま超遠距離の敵の元に『飛び込み斬り』のスピードで移動するという技だ。


 しかし、その準備の手間の多さからネタ技の域に留まっていた『超速辻斬りダッシュ』。

 ある時、その技を好んで使っていたプレイヤーが衝撃的な動画をネット上に上げた。


 ブロンズソードを使って岩を叩き、超スピードで鋭角に吹っ飛んでいくという意味の分からない動画である。

 動画のタイトルは、『銅剣無限飛行術』。


 『誘導性』のあるスキルを遠くの敵影にターゲッティングしたまま角度をつけて途中の障害物にぶつかるようにする。

 するとシステムは強引に障害物を突破しようと、スキルの軌道を旋回させる。


 しかし、目標はスキルの旋回半径よりも内側に設定されているので、無限に加速されたベクトルがプレイヤーの移動方向に蓄積されることになり──ブロンズソードの『ちょうどいい攻撃力』が障害物に衝突。剣先が必ず上向きに逸れる。


 後に残るのは、極限まで加速度を溜めたプレイヤーが空の彼方へ星になって消えていく光景だけ。

 それこそ、『銅剣無限飛行術』なのだ!


 ◇


「やっぱりシオシオプレイヤーの執念はすごいなぁー」


 空を切り裂く一筋の流星となりながら、俺は唸っていた。


 多くのプレイヤーの偶然と探究心によって生まれたバグ技が、今、俺の命を救っている。

 そう考えると、中々感慨深いものがある。


「さて」


 何も考えずに空へ舞い上がった星になったわけではない。


 俺が突き進む先には、空に浮かぶ荘厳な白亜の城があった。

 地上から見たときとは、迫力も段違いだ。


 推奨レベル360の裏ダンジョン。

 ──『天空城バルトリアス』


 白銀の竜が、かつての城主の財宝を主なき後も守り続けていると云われている──ラスボス戦後に挑戦できる裏ダンジョンだ。


 城に眠る財宝は、裏ダンジョンの報酬に相応しい装備の数々。金銀財宝が山のように眠っているため、ゲーム内では『頭上の黄金郷』とも語られる。


 しかし、バグ技の前にはそんなものは関係ない。


「失礼しまーす! 財宝くださーい!」


 俺はそう叫びながら、白亜の天空城の壁に突っ込んで大穴を空けた。

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