第3話


 「う~ん、曇りも出ないか」

 

 こまは先日の鑑賞会の後、家に帰り太刀の手入れをしてから眠った。朝、刀の手入れを確認するために再度お天道様に当ててみる。やはり美しい身を持っていた。


 「さて、今度蒲生がもうの地を見に行かねばなぬなぁ。野伏のぶせりの話もあることだしな」

 

 蒲生がもうの地は浅井家との直接の争いの地ではないが、地形の把握は必須である。押し込まれた場合に何処でどのような対処が出来るかを把握する必要があった。今回は先日の侍大将が同行することになっている。これは一人で視るより二人で見た方が様々な考え方が出来るからだ。

 それに最近野伏のぶせりが村や通行人を襲っているという話もある。これは真偽が定かでは無いので確認も兼ねる。

 今回は地形の把握が目的なので行き帰りで三日の予定だ。共は連れては行かない事になっていた。


 「まあ、野伏のぶせりが出てもこれの斬れ味を確かめるだけだがな」

 

 こまはそう言うと太刀を鞘の中に仕舞い屋敷を出る。今日は残りの政務を片付け、明日の出立の準備だ。

 馬にまたがったこまはゆっくりと馬の背に揺られながら観音寺城へと向かうのであった。

 

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 「さて、ひとっ走り行くとするか」

 

 侍大将さむらいだいしょうが声をかけてくる。こまは黙って頷いた。二人は軽く馬を走らせ、乗りつぶさないように走る。


 「なあこまよ。地形もだが野伏のぶせりはどう思う」

 

 今は乱世。

 将軍家も力を失い各地の守護職などが領地を広げようと戦に明け暮れている。その戦に巻き込まれ、食い扶持ぶちに困った百姓達が武器防具を手に入れ売り払うため、また身を守るために襲撃を繰り返していた。これが野伏のぶせりだ。

 野伏のぶせりが集まって完全な野盗や山賊になる者達も多い。特に大名や守護職の領境りょうざかいなどに顕著けんちょに表れる。しかし今回はまだ領境りょうざかいからは遠い。何故そこで野伏のぶせりが発生しているのか誰も判断がついていなかった。


 「そうだな、俺にも分からぬな。くさが動いていると思うがまだ戻らぬというからな」

 

 くさ

 六角家には甲賀こうがくさ素破すっぱがいる。その者達が動けば大抵の情報は入ってくる。ただ今回は動いているという報告は受けていたが何故かまだ戻らないという事だった。

 送り込んだ数は五。最初は三人。中堅の者と新人が二。次は上級が二という数だ。

 

 「鎧でも持って来たほうが良かったかな?」

 

 二人は普段に着ている服にこまは太刀と弓、侍大将は太刀と長刀なぎなたと弓を持っている。小規模の野伏のぶせりには奇襲さえ受けなければ十二分に対応でき程だ。ただ二十を越えると身を守るのにいささか心許ない。


 「はは、戦場に向かうわけでもあるまいし。それにそんな物着けていたら馬が持たんよ」

 

 二人は気楽な気持ちで馬を走らせ、その日の夕刻には蒲生がもうの地へと着くのであった。 

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