- 食卓での争い
「春之助ー! ご飯だよー!」
ふと、廊下の方から春子の声。どうやら夕食ができたらしい。
疲れているのでもう少しウダウダしていたいところだが、そうすると間違いなく怒られる。下手したら飯抜きになる。春之助は「はーやれやれ」と言いながら立ち上がり、一階へと向かう。いつの間にか帰って来ていたらしく、四人掛けのテーブルには理人の姿もある。
「…………」
「…………」
いただきますをし、食事を始める四人。正面にはこちらを睨んでいる茉理。春之助は「何か文句あんのかテメー」とばかりににらみ返す。
「はっはっは。仲がいいねぇ二人とも。うんうん」
そんな二人を微笑ましそうに見つめる理人。ちょっぴり天然な感じがする彼。『喧嘩するほど仲がいい』なんて思ってるのかもしれない。春之助はイラッとし、口を開く。
「んな訳ねーだろ。目ン玉腐ってんのかオッサン」
「そうですよお父さま。こんな品のない人と仲良くなんて出来ません」
茉理の同意の言葉。その内容に、春之助はさらにイラッと来る。
「は? 誰の品がねーって? 女装してる変態野郎にだけは言われたくねー」
「関係ないですー。今は振る舞いの話してますー。いい大人なのに自分勝手すぎますー」
「テメーの恰好ほどフリーダムじゃねーよ。カガミ見てみやがれ」
「そっちこそ見た方がいいと思いますー。子供っぽいにもほどがありますー」
馬鹿にしたような言葉遣い。春之助は額に怒りマークを浮かべ、ガタッと立ち上がった。瞬間、ポカリと頭を殴られる。同じく立ち上がった母に殴られたのだ。
「痛って! 何すんだババア!!」
「茉理ちゃんをイジメるんじゃないよ!! それに、理人さんに対してオッサンとは何だい!」
「ガキをしつけるのが大人の役目だろーが!! あと、オッサンをオッサンと呼んで何が悪い!!」
ギャーギャーと言い合う二人。春之助の中では既に『理人さん』から『オッサン』に格下げされているのだ。『可愛い妹』が『ゴミの日に出したい不燃物』になったように。なお、当の理人は「はっはっは。にぎやかでいいねぇ」なんて笑っている。
一方、茉理は「フン」と鼻を鳴らして食事を再開。馬鹿には構ってられないという態度だった。その姿に春之助は再びイラッとし、茉理のお皿のハンバーグをかっさらった。
「あっ……。ああー!! 私のハンバーグ!」
「もぐもぐ……。チンタラ食ってるから悪ぃーんだよ。食卓は戦場なのを知らんのか」
「……そうですか……!」
勝利の笑みを浮かべつつ煽る春之助。瞬間、茉理は手を伸ばし、春之助の皿からエビフライをかっさらった。
「あっ……。ああー!! 何てことしやがる!!」
「もぐもぐ……。食卓は戦場なんでしょう? 油断する方が悪いんです」
「最後まで大事にとっといたのに!! テメー!! 食べ物の恨みはデケーんだぞ!!」
憤怒の表情を向ける春之助。にやにやと目で笑いながらエビフライを完食する茉理。
「くすくすくす。好きなもの最後まで取っておくとか子供ですか。いや、子供そのものですね。体だけおっきくなって」
「ああん? テメー喧嘩……いや、嫉妬か。そーだよな。十五にしちゃちっこいもんなテメー。百八十後半の俺が羨ましいんだろ。このチビ」
「ざんねーん。このくらいの身長が可愛さ的にはベストなんですー。実際お兄さまも見とれてたじゃないですか」
「見とれてたぁ? 自意識過剰なヤツめ。俺がいつ見とれてたってんだ。ていうかテメー!! 返せ!! 俺の四十七万!!」
「ククッ……! そのお金こそ見とれてた証拠じゃないですか。『茉理ちゃんかわいいー』って、ぽーってしてましたよね。あははは」
口喧嘩をする二人。そして途中で先日の事を思い出した春之助が怒り出した。彼とは反対におかしそうに笑う茉理。昨日までとは完全に違う態度と口調だった。昨日までが可愛らしく丁寧な口調の女の子とすれば、今日は敬語を使ってるだけの敬意が微塵もない生意気女装男子。かわい子ぶりっ子していたのが明白であった。
ぶりっ子の演技をして金を貢がせる。まごうことなきクソ女だ。いやクソ野郎だ。悪魔だ。こういうヤツがいるから世の中から戦争が無くならないんだ。
そう思った春之助は拳を振り上げ、正義を執行しようとする。が、途中で再び春子のげんこつが舞った。
「いい加減にしな春之助。メシ時にギャーギャー騒ぐんじゃないよ」
「か、かーちゃん! テメーどっちの味方なんだ!! 可愛い息子が悪い女……じゃねえ、男に騙されたんだぞ!! 女装した変態野郎に!!」
「それが何だってんだい。母親の誕生日にプレゼントの一つもよこさないクセに。せめて兄弟にはよくしてやんな」
「なっ……!」
明らかに茉理寄りの春子。春之助は目を見開いて驚き……驚いたところで思い出す。男と結婚するために息子のプラモデルを捨てた母を。つまり茉理に味方するのも理人の好感度を稼ぐ為……
「ていうか茉理ちゃんの方が可愛いしね。この料理だって茉理ちゃんが手伝ってくれたし、掃除や洗濯だって。お勉強が大変そうなのにだよ? 可愛く思われたいならその自分勝手なのを何とかしな」
かと思いきや、正論っぽい事も吐いてくる。
家に数万入れるだけで、言われなければ基本なーんにもしない春之助。学生なので金は入れないものの、自分から手伝いをしてるらしい茉理。家事をする者にとっての好感度は後者が圧倒的に上だろう。
いつの間にか篭絡されている母。クソ野郎とクソババアのコンビ。その事実に春之助は戦慄した。
せめてもう一人を味方にしようと理人の方を向くが、彼は楽しそうな笑顔で呑気にご飯を食べていた。何てヤツだ。子供が人をだましたというのに、それを喜ぶなど。流石は茉理の父。いい人そうに見えて中身は真っ黒だ。
「ぐっ……! くそぉっ! 覚えてろぉっ!」
誰も味方がいない――
その事に気づいた春之助は逃げ出した。正義の味方に負けた三下のようなセリフを吐きつつ。もはや勝ち目がないと判断したのだ。後ろから「あははは。ばーか」と茉理の笑い声が響く。
ミカドなやつら~わからせバトル! 不良系サラリーマンvs小悪魔男の娘~ ハートフル外道メーカーちりひと @aisotope
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