閑話休題2〜リリーとユウは

 学園は何重もの防魔法壁で囲まれており、”大陸一の安全な場所”を謳い文句にしている。

 なので、皇族は除いて殆どの貴族に護衛は付いているおらず、1人で自由に歩いている。


 リリーはいつも誰か一緒に歩いているが、今は用事があったため1人で教室まで向かっているところだった。


 1人で歩くのって、シリイには申し訳ないけど、かなりの開放感だわ……!


「リリ!!」


 数日会えていないリリーを見つけて、ユウは珍しく大きな声で呼び止めた。


「ユウ! 何だかお久しぶりね。その格好は、これから剣術? ああ、良いなぁ」


 ユウは、持っている剣を触っていたリリーの手を掴んで、キスをした。


「見に来るか?」


「見るだけなんて、罰ゲームよ。参加したくなるわ」


 周りに聞こえないように、ユウに近付いて小声で返した。

 ははっと笑い、ユウは手を振りながらタナー小公爵と行ってしまった。


 お父様に剣術の授業を取りたいと言ったら反対されてしまったのよね。でも、その代わり家庭教師を付けてもらえたし、結果オーライだけど……


 ユウの姿が小さくなった時、後から声をかけられた。


「リリー様、こんにちは。わたくしスモス家の…」


 あら、どうしよう、実は他の男性と一対一ってあまりなくて緊張するのよね……頑張れ、私!


「あら、セイチね、こんにちは。同じ生徒会だもの! あなたは、次は何の授業?」


 リリーに名前を呼んでもらえたので、セイチは一気に顔が赤くなる。


「リ、リリー様と同じ魔法薬学です。あの、教室へご一緒しても、よろしいでしょうか」


 非公表でも婚約者がいる手前、男性と2人で歩きたくないのだけど。断ったりしたら感じ悪いわよね。


「ええ、勿論。教室で他の方と合流するお約束なのだけれど、よろしいかしら」


「はい、是非!!」


 セイチは、もしかしたら一緒に教室へ向かえるかもしれないと淡い期待を胸に声をかけていた。

 少しの間だけでも2人で話が出来るなんて信じられなかった。


 入学歓迎式典でリリーの姿を見た時、セイチは世界が輝いたのを感じた。

 自分が相手にしてもらえないくらい身分が高いことを知った日、数週間立ち直れなくて苦しかった。


 ある日、生徒会は身分関係なく成績次第で入れると耳にしたセイチは、リリーはほぼ毎回1位なのを思い出し、自分が頑張れば同じ生徒会で活動できるかもしれないと思いついた。

 そして必死に勉強した。なかなか性に合っていたらしく、今は楽しく続けている。


 最初セイチはただリリーと同じ空間にいるだけで満足だったのが、認識してもらえる様になって欲がどんどん大きくなっているのがわかった。


 どうやら皇子たちがリリーのお相手候補だろうと言われているしと腐っていたら、父親のスモス子爵が珍しく応援してきた。

 父の応援もあり、セイチは積極的に話をすることにしたのだ。



 リリーと2人で歩いていると周りが振返るのがわかった。

 王族以外の男性とリリーが2人で歩いているのが珍しいので、誰と歩いているのか皆振返って確認しているらしい。

 名前を覚えてもらったこともあり、リリーの相手が今は自分であることにセイチは少し優越感を感じ始めていた。



 その時、リリーのもう1つの隣に1人の男が現れた。


「ユウ!」


 リリーはセイチには申し訳ないけれど安心してしまった。

 普段特に一緒にいない男性と2人でいることが、こんなに注目を浴びることなのだと初めて知り、少しリリーのトラウマになりそうだ。


 やはりアキラ包囲網は最強だった。


「リリを教室まで送ってから剣術場まで行けば良かったと思って。1人だったのに、すまない」


 急いで戻ってきたのか、ユウは息を整えながら話している。


「! こ、皇太子殿下にご挨拶申し上げます」


 セイチは気不味そうに挨拶をした。


「ああ、構わない。楽にしてくれ。私も一緒に良いか?」


「はい、勿論です」


 そこからは3人で、生徒会や授業について話をしながら歩いた。

 ユウはアキラに言われたように、機嫌を出さず、普段通りに話をしている。

 本当のところ、さっさと邪魔者は去らせてリリーと2人で歩きたいところだが、練習だと言い聞かせて自分を落ち着かせた。


 教室に着くとリリーとよく一緒にいるメンバーが出迎えてくれた。

 ユウはリリーの手にキスをして、帰る時間が同じだから迎えに来ると言って剣術場へ向かった。




 帰りはタナー小公爵に用事があり早く帰宅させたので、ユウは1人で迎えに来た。


 少し歩いて周りに人がいなくなった時、リリーはユウの腕を引張って傾かせ、ふわっと頬にキスをした。

 先日2人にキスされてから、リリーの中でキスへのハードルが下がってしまったようだ。


「あの、今日は戻って来てくれてありがとう」


「……?!!!!」


 ユウは完全に想定外のリリーからの一撃に、ゲホゴホむせて顔を真っ赤にして涙目になっている。

 リリーの言葉がもう頭に入ってこない。


 不意打ちは心臓に悪いから、せめて事前申告をお願いしたいが、ユウはもう言葉を発せられない。

 タナー小公爵が居たら、きっと呆れ果てているだろうと思ってしまった。

 アキラなんて絶対に大爆笑している。


 リリーがそんなユウの手をとって、エスコートではなく、久しぶりに手を繋いで歩いた。

 幼かった頃を懐かしみながら、馬車までの道のりを。


 あの頃とは違って、2人は婚約者だけれど。


 2人の関係はまだ特に変わってはいないけれど。




 ユウは、久しぶりのリリーからのキスや、手を繋いで歩いたのが嬉しくて、思い出しては悶えてしまい、眠れたのは空が明るくなってきてからだった。


 翌朝、珍しく起きてこないユウを、皇城にやって来たリリーが起こしに行くという、不意打ち第2弾がすぐ投下されるとも知らず……


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