閑話休題1〜それはいつの?

 久しぶりに何もない日。

 アキラとリリーとユウでお茶をした後に、今はソファで談笑している。

 昔から二人がリリーを挟むように座り、今もそれは変わらない。


「そうだ、リリ!いつになったら俺たちにも頬にキスしてくれるんだ?やっぱり納得いかないんだよなぁ。リョウにできるなら、俺たちにも出来るだろー」


「えっ。な、何を言って??」


 突然の改めての要求に、リリーは戸惑って挙動不審になっている。

 淑女たるもの、と教え込まれてからというもの、幼い頃に平気でしていたことが出来なくなっていて、頬にキスも最近は父親か兄くらいにしか、しかも極稀にしかしていない。

 リョウは子どもだから出来たのであって。


 リリーは顔が赤くなってきているのが自分でもわかった。何とか話題を変えたい。


「け、剣なら喜んでお相手するのに」


「それは謹んでお断りするよ。だってリリ容赦ないからなー。俺たち絶対にボロボロになるし」


 リリーはそんなことはないとわかっている。

 2人とも良い勝負をしてくるので、ボロボロになることはない。


「スキンシップも練習しとかないと、いざという時出来ないのは困るだろ?!」


 いや、いざという時ってどんな時なんだとユウは突っ込みたかったが、いつも通りのアキラの駄々だしリリーは気付くだろうとスルーしている。


「練習……なら出来るかしら」


 動揺していっぱいいっぱいのリリーは、この会話の可怪しさに気付くことなく答えてしまっている。


 一体どういう流れで着地点はどこなんだと、ユウも動揺し始めた。

 アキラだけ嬉々として我儘を言い続けている。


「わかったわ!じゃあ、頬を出して!」


 吹っ切れて、よくわからないやる気をだしたリリーがアキラに言った。


 ユウは固まって、2人のやり取りを見るしかなかったが、次のリリーの言葉で動揺するしかなくなった。


「ユウもだからね!!」


「はっ?!?!」


 リリーが頑張って右隣に座っているアキラの頬にキスしようとしていると、アキラの顔が急に近くにきて、気付いたら唇が、アキラの唇にあたっていた。


 リリーは動けず、受入れている状態が少し続いた。


 ユウも呆気にとられて動けない。


 コンコンとノックの音が聞こえ、アキラの護衛が呼んだので、やっと口を離した。


「むかーしに、ユウがしてたのたまたま見ちゃってさー羨ましかったんだよな! これで満足!! リリ、またな」


 上機嫌のアキラは、リリーの頭を撫でて、ユウに勝ち誇った顔を見せて、足早に扉の向こうへ去っていった。


「……っ! いつの話だ!! 兄上!!!!」


 リリーはまだ固まったままで、はっと息をし始めた。


「ユウ、今の……」


「兄上がごめん」


 ユウはリリーの唇を自分の手の甲でしっかり拭いた。


「うん、でも、今思い出したのだけど、確かに私、昔……そんなことがあった気がするの。いつだったかしら?」


 リリーは一生懸命思い出そうとしている。

 そんな姿も愛おしくて、ユウはリリーを見つめる。リリーの頬に手を添えて、親指で唇を拭きながら。


「もうずっと小さかった頃だろ。俺も忘れてたのに。兄上め、あの頃を引き合いに出すとは」


 それに今、自分の目の前で、アキラがリリーにキスをしたということにユウ我慢はならない。


 うーーん、とリリーはまだ悩んでいる。


「……残念だけど、俺も時間だ」


 そう言うと、ユウはリリー唇を拭いていたのを止めて、一瞬、躊躇ったように見えた。

 けれど、ユウもリリーの唇に優しくアキラより長くキスをした。

 そして名残惜しそうに口を離す。


「リリ、また」


 ユウはリリーの手を取ってキスをして、次の予定へ向かって行った。


 リリーは度重なる想定外の事態に許容範囲を超えてしまい、姿勢が良いまま放心状態になってしまっている。


 ユウが出て行ってすぐ、シリイが入ってきた。


 出てきた上機嫌のアキラと、取り繕うように頑張って歩くユウ、この状態のリリー……


 何かしらのことがあったのだろうけれど、まあ悪い事では無さそうだと解釈し、黙ってお茶の片付けをした。


 しかし今回は、リリーが動き始めるまで思った以上に時間がかかった。

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