第30話…食事会と其々の食後

「2日後にウィステリア候爵の息子のタイム・ハル・ウィステリアが公爵家に滞在する予定です。その際にまた謁見致します」


 オウカ公爵が次のお皿が運ばれる合間に話を振った。

 リリーは初耳だったので、目を丸くしてオウカ公爵を見た。

 パクツの子どもたちの話は聞いたことはあったが、初めて会うことになる。


「そうか! 大きくなっただろう?」


「今年12才になります。来年から学園に通う予定です」


 ウィステリア候爵が返事することなく、オウカ公爵がしっかりと対応している。

 パクツの身内のことも全て頭に入っているのは、流石というか重苦しいというか。

 それを普通にしているパクツも何だか凄いなとリリーは思いながら話を聞いている。


「12才か! 懐かしいな」


「うる……余計なお話は後でお願いします」


「今、五月蝿いとか言おうとしてなかったか」


「まさか、気の所為ですよ」


 皇帝は軽く笑って、楽しそうにで次のお皿に手を付けた。


 アキラとユウは、皇帝と一緒だからかいつもより静かだ。

 食事の所作も美しく、流石としか言えない。リリーは感心しながら眺めていたが、そんなリリーも所作は完璧で侍女たちも見入ってしまうくらいだ。


 部屋の外や厨房では、いつもリリーが話題に上がる。


「リリー様の所作が美し過ぎて、見入ってお皿を落とすところだった」

「それに、あんなにお可愛く成長されて」

「皇子殿下方と並んでも遜色ない! というかリリー様が目立つくらい」

「性格もお優しくて。きっとオウカ公爵家が良いご家庭なのね」


 最後には必ずこの言葉で締め括られる。


「早く皇城に住まわれたら良いのに!」


 皇族のみならず皇城の関係者皆がリリーを待っている状態だ。




 食事会の後、皇帝とオウカ公爵、ウィステリア候爵の3人は仕事の話があるからと、皇帝の執務室へ向かった。

 リリーが心配なオウカ公爵は、皇子たちに注意事項を伝え、何度も何度も振返り、やっと姿が見えなくなったところだ。


 アキラとユウでリリーを挟んで歩き始めた。

 3人で桜花宮まで行き、学園の課題をアキラに見てもらう予定だ。

 机に座る距離から何からの注意事項をオウカ公爵が言っていたが、きっと誰も覚えていない。


 きっと小休憩で、アキラがリリーを膝の上に座らせたり、それをユウが止めさせたり、3人でまた楽しそうに揉みくちゃになって遊ぶのだろう……と、シリイは公爵に少しばかり同情しながら3人の後に付いている。



「ああ、そういえばウィステリア候爵領での密輸の件はどうなった?」


 パクツは、あぁあれかという顔をして、隣のオウカ公爵が対応する。

 3人で応接用のソファに座って、お土産用の高級なミンティア国のハーブティーを飲みながら、領地の近況報告をしている。


「あれは僕の部下を数人潜入させて、中心を見付けてパクツが蹴散らして終わったんだけど。その核がちょっと問題でね。まだ憶測の域なんだけど、マリル嬢の件とも少し繋がってるかもしれない」


 皇帝の目つきが鋭くなった。


「実行犯で確定なのは、うちの領地内にあるクラメン男爵。罰を与えるか爵位を剥奪、どちらかをしてやるつもりなんだけど……」


「その黒幕が居るんだな」


オウカ公爵は頷いてから話を続けた。


「色々と弱い所を突かれたみたいで、断れる状況でなかったようなんだよね。すぐこっちに泣きついてくれれば良かったのに、そうもいかない事情があったらしくて」


 溜息をついた後、オウカ公爵はソファにもたれ掛かって腕組みをして、嫌そうな顔をしながら皇帝を見た。


「自分の気配や証拠を消すのが非常にうまくて、骨が折れたよ。切れそうな細い糸を辿るみたいで本当に苦労した。人を使ってばかりなもんだから、なかなか辿り着けない……けど、だから小さなボロが出ちゃったみたいなんだけど。まぁそこを逃さずにね」


「以前お前は、策には、考えた人間の人格がどこかしら出やすいと言っていたな」


「うん……権力があるから、人を使うのや自分の跡を消すのはお手の物、大人しそうに見えて人の弱みを握るのが上手く、裏で虎視眈々と色々狙ってそうな、そんな策だった」


 皇帝は深いため息をついた。


「……コガヤ公爵か」


 三大公爵家の1つ、コガヤ公爵の名前が出た。


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