第30話…食事会と其々の食後
「2日後にウィステリア候爵の息子のタイム・ハル・ウィステリアが公爵家に滞在する予定です。その際にまた謁見致します」
オウカ公爵が次のお皿が運ばれる合間に話を振った。
リリーは初耳だったので、目を丸くしてオウカ公爵を見た。
パクツの子どもたちの話は聞いたことはあったが、初めて会うことになる。
「そうか! 大きくなっただろう?」
「今年12才になります。来年から学園に通う予定です」
ウィステリア候爵が返事することなく、オウカ公爵がしっかりと対応している。
パクツの身内のことも全て頭に入っているのは、流石というか重苦しいというか。
それを普通にしているパクツも何だか凄いなとリリーは思いながら話を聞いている。
「12才か! 懐かしいな」
「うる……余計なお話は後でお願いします」
「今、五月蝿いとか言おうとしてなかったか」
「まさか、気の所為ですよ」
皇帝は軽く笑って、楽しそうにで次のお皿に手を付けた。
アキラとユウは、皇帝と一緒だからかいつもより静かだ。
食事の所作も美しく、流石としか言えない。リリーは感心しながら眺めていたが、そんなリリーも所作は完璧で侍女たちも見入ってしまうくらいだ。
部屋の外や厨房では、いつもリリーが話題に上がる。
「リリー様の所作が美し過ぎて、見入ってお皿を落とすところだった」
「それに、あんなにお可愛く成長されて」
「皇子殿下方と並んでも遜色ない! というかリリー様が目立つくらい」
「性格もお優しくて。きっとオウカ公爵家が良いご家庭なのね」
最後には必ずこの言葉で締め括られる。
「早く皇城に住まわれたら良いのに!」
皇族のみならず皇城の関係者皆がリリーを待っている状態だ。
◇
食事会の後、皇帝とオウカ公爵、ウィステリア候爵の3人は仕事の話があるからと、皇帝の執務室へ向かった。
リリーが心配なオウカ公爵は、皇子たちに注意事項を伝え、何度も何度も振返り、やっと姿が見えなくなったところだ。
アキラとユウでリリーを挟んで歩き始めた。
3人で桜花宮まで行き、学園の課題をアキラに見てもらう予定だ。
机に座る距離から何からの注意事項をオウカ公爵が言っていたが、きっと誰も覚えていない。
きっと小休憩で、アキラがリリーを膝の上に座らせたり、それをユウが止めさせたり、3人でまた楽しそうに揉みくちゃになって遊ぶのだろう……と、シリイは公爵に少しばかり同情しながら3人の後に付いている。
◇
「ああ、そういえばウィステリア候爵領での密輸の件はどうなった?」
パクツは、あぁあれかという顔をして、隣のオウカ公爵が対応する。
3人で応接用のソファに座って、お土産用の高級なミンティア国のハーブティーを飲みながら、領地の近況報告をしている。
「あれは僕の部下を数人潜入させて、中心を見付けてパクツが蹴散らして終わったんだけど。その核がちょっと問題でね。まだ憶測の域なんだけど、マリル嬢の件とも少し繋がってるかもしれない」
皇帝の目つきが鋭くなった。
「実行犯で確定なのは、うちの領地内にあるクラメン男爵。罰を与えるか爵位を剥奪、どちらかをしてやるつもりなんだけど……」
「その黒幕が居るんだな」
オウカ公爵は頷いてから話を続けた。
「色々と弱い所を突かれたみたいで、断れる状況でなかったようなんだよね。すぐこっちに泣きついてくれれば良かったのに、そうもいかない事情があったらしくて」
溜息をついた後、オウカ公爵はソファにもたれ掛かって腕組みをして、嫌そうな顔をしながら皇帝を見た。
「自分の気配や証拠を消すのが非常にうまくて、骨が折れたよ。切れそうな細い糸を辿るみたいで本当に苦労した。人を使ってばかりなもんだから、なかなか辿り着けない……けど、だから小さなボロが出ちゃったみたいなんだけど。まぁそこを逃さずにね」
「以前お前は、策には、考えた人間の人格がどこかしら出やすいと言っていたな」
「うん……権力があるから、人を使うのや自分の跡を消すのはお手の物、大人しそうに見えて人の弱みを握るのが上手く、裏で虎視眈々と色々狙ってそうな、そんな策だった」
皇帝は深いため息をついた。
「……コガヤ公爵か」
三大公爵家の1つ、コガヤ公爵の名前が出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます