第29話…皇城の庭園で
皇城内で、皇族と公爵家の許された者しか通れない幾つかの庭園がある。
その中でも、今は特に桜花宮の横に位置する庭園は見事で、リリーとオウカ公爵が散歩をしている。
今日は皇城でウィステリア候爵を招いての皇族との昼食会があるので、オウカ公爵とパクツ、リリーの3人で桜花宮へやってきた。
タツァックに執務を任せて来たので、オウカ公爵のちょっとした休息時間になった。
パクツは執務室で休憩すると言うので、リリーの散歩に強引に付いて来たのだ。
「あ、勢揃いだわ」
オウカ公爵があからさまに嫌な顔になった。
どうやら、皇帝と3人の皇子たちで桜花宮の隣の庭園を見に来たらしい。
4人がオウカ公爵とリリーに気付いて、向こうから近付いて来た。
オウカ公爵はまだ4人に聞こえない位置で深い深い溜息をついて、表向の顔を作った。
そんな父親の行動を、リリーは驚きながらも少し楽しそうに観察している。
「皇帝陛下と皇族の殿下方にご挨拶申し上げます」
オウカ公爵は丁寧に挨拶をした後、リリーも帝国内一美しいと評判のカーテシーで挨拶をした。
そんなリリーに見惚れているアキラとユウに気付いた公爵は、さっさと去るべく進もうとしたが、皇帝が話始めた。
「ウィステリア候爵は一緒ではないのか?」
一瞬嫌そうな顔をしたオウカ公爵はさっと表情を作った。
「ああ、私達より先に桜花宮に着いて執務をしています。後ほど昼食会で。では私たちはこ」
「そうか……ああ、楽に喋ってくれ。付きの者もいない。俺らだけだ。お前の自慢の弟と昼食会の前に会いたかったんだがな。残念だ」
オウカ公爵は、言葉を被せて話してきた皇帝に向かって、まだ喋るのかという顔をして溜息をついた。
「まぁ自慢だけど。でも、君相手には喋らないよ?」
「はははっ! まだ喋らないのか……何度か会っているのに。難攻不落だな」
オウカ公爵が敬語なしで喋っても皇帝は何一つ変えることなく話続けている。
「帝国内では、死ぬまでだろうね」
「むぅ、そうか」
皇子3人もリリーも、今まで見たことのない目の前の光景に驚いて、開いた口が塞がらない。
皇帝陛下とオウカ公爵が友だちのように話している。夢? でなければ不敬罪では? 皇帝の方が年上なので、学友というわけでもないはずだ。
「お父様……?」
リリーが様子をうかがうようにオウカ公爵を見ている。
「ああ、陛下は古くからの知り合いでね。腐れ縁なんだよ。リリの婚約を強行してからは、敵認定だけど」
「お前……酷過ぎないか?! リリー嬢への大量な求婚が煩わしいと言っていたが、無くなっただろ?? もしリリー嬢に合わなければ、いずれ破棄してくれても構わない」
「はっ?!」
ユウが大声を出して皇帝を見ている。
そんなユウを余所目に、各々好きな事を言い始めた。
「まぁ、皇太子殿下が相応しい人間になっていただかなかった場合、そうするからね。ちなみに求婚は全く無くなったわけではないからね。しつこいのが居るんだよ」
「へえ、じゃあ俺も諦めなくて良いんだな」
「兄上ずるいよ! 兄上には別に婚約してるでしょ! 僕だってリリが良い!!」
皇帝はため息をついて、ユウの方に向いた。
「言われているぞ」
「父上がけしかけたんでしょう……俺が何も言われないような大人になれば良いんです」
とりあえず今は我慢だ、全員が文句無しの人間になるしかないと、ユウは静かに決意を改めた。
社交界の華と言われているリリーの横に立つには、自分にはまだまだ足りないものが有り過ぎる、と。
リリーは自分が置いてきぼり状態なので、男達のやり取りは気にせず、庭のきれいに咲き誇っている草花を遠目に見ていた。
今日は風が心地よくて、過ごしやすい。
皇城や公爵邸では、温度調節機能の魔法がかかっているため年中過ごしやすいけれど、今日はそれはかかっていない。
やっぱり、自然の風が一番良いわね。
リリーが1人で遠くを眺めていると……
ガサッ
「あら?」
向こうの方に誰か少年が見えたような気がした。ここは皇城で、セキュリティは厳重だ。なので、きっと不審者ではないはずだが。
迷い込んでしまったのかしら。でも、見たことあるような、ないような……
誰かと一緒に居たのだろうか、少年はすぐ戻って行ったので、リリーは安心して再び草花に目を移した。
男達の話をやはり聞き流しながら。
こんな良い天気の日は、芝生を見ると裸足で走り回りたくなるのよね……
俺の方がリリを想っている、相応しい、幸せにする……そんな台詞が飛び交っているのに、周りの男達の気持ちはBGMとなり、リリーは景色を眺めて耽っている。
いつリリーに届くことやら。
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