第27話…オウカ公爵家の子ども達(親バカ目線)
パクツが来るために、オウカ公爵はそれはそれは過度なくらいに物を揃えた。1ヶ月以上滞在するのかと思わせるくらいの揃え具合だ。
慌ただしい様子を見ながら、リリーはオウカ公爵の執務室を訪ねた。
「お父様、パクツ叔父様は一体どのくらい公爵家にいらっしゃるの??」
どう見ても数週間とかいう準備ではない。
「んー、まだ決まってないんだよ。気分屋だからねぇ。あと領地での仕事次第かな? 急ぎが出なければ……あと面白いことでもあれば、ゆっくりするんじゃないかな」
結婚祝いで見繕った優秀な部下たちは、ずっとパクツの元で働いている。
オウカ公爵家を見てきたパクツは、公爵家と同様に候爵家で働いている者たちに高待遇にしていて、その上パクツは気取らず気前も良いので慕われており、彼らはもう他所では働けなくなっている。
ウィステリア候爵領での社交界を見事にまとめた、気高いココアナが居るだけで威厳は保たれるし、パクツは仕事を溜めない性格なので何週間離れてもウィステリア候爵家がきちんと回るようになっている。
オウカ公爵の期待以上の出来で、様々な所でウィステリア候爵の話が出るといつも誇らしそうに話をしている。
「あまり覚えていないのだけど。叔父様は私とお話して下さってました?」
「まだリリが話出来ない年だったからね。でも走り回るリリを抱っこしてくれたり、相手してくれてたよ。何故かパクツが抱っこすると落ち着いて良い子になってたんだよね」
オウカ公爵の話を聞きながら、リリーは何か言いたげな顔をし始めた。
「お父様……あの、私、その……」
オウカ公爵は何となく感じとったが、わからないふりをしてみる。
「? どうしたんだい」
珍しくリリーは少ししょんぼりしながら、オウカ公爵を上目で伺った。
「あの……えっと、剣術について叔父様に聞いても大丈夫でしょうか」
リリーが可愛くて可愛くて、オウカ公爵は泣きそうになるのを見られないように背を向けた。
リリーは、それが拒否だと受取ってしまい下を向いたてショックを受けていた時、オウカ公爵が小声で何か言った。
「パクツが良いと言ったらね」
リリーは勢いよく顔を上げて、顔を真赤にして喜んだ。
「お父様、ありがとうございます!! では、私は今日は学園ではなく皇城で授業なので、行って参りますね」
オウカ公爵はまだ背を向けているが、リリーは飛び跳ねるように出ていったのがわかった。
外で待機していたシリイが止めようとしている声が聞こえてくる。
オウカ公爵はくすりと笑い、椅子に座って書類を触り始めた。
パクツを止めることも出来ないし、リリーが自衛出来るに越したことはない。少し強いだけの者に屈するなんて、心配で心配で外に出せないから。
でも騎士を負かす令嬢になるのを期待していたわけではないのだけど……
タツァックには厳しく出来る。
あれはあれで良い感じに育っているけど、読めないところがあるんだよね。
さっさと隠居して自由に過ごしたいから、全てを教え込んだし、飲み込みも早くて完璧のはずなのに。
何かしらミスをしようとする。全て大事にならないような部分でしかしないから、選んでミスしてるみたいだ。
結婚だってして良い年なのに、良いご令嬢がいないとか言って先延ばしにするし。
何だか、引退させてくれないように、わざと仕事を出来ないように見せて、婚約も先延ばしにしているようにしか見えない……
誰に似たんだか。
オウカ公爵は昔、仕事や諸々、全ては自分の采配でどうにもなるものだと思っていた。
世の中にはそうもいかないことがあるんだと、子どもから学んだ。
純粋に見えていた息子が何やら策を練っていて、逆にまんまと引っかかってしまったり、僕の予測の斜め上を進んでいく娘……
計れば全てを意のままに出来ると思っていた自分が、愚かで小さかったことがわかった。
子ども達のお陰で、更に自分の世界が可能性が広がった。考え方や策も豊かになった。
何故、皆こんな良い学びをしないのだろう。
父親だから母親だからという有るのか無いのかわからない権力を使って子どもを操り、頭がお固く、爵位という権力を使ってしか周りをどうにか出来ない奴らなんて、高が知れてる。
そんな輩には負ける気がしない。
まぁ、でも何より、僕はリリに甘いんだよね。
ああ、今日も娘が可愛かったなぁ。
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