第2話…皇太子ユウ
ここフィズガ帝国の皇帝には息子が三人いる。
第一皇子は18才、側室の子のため皇子。
皇后の息子が年下の15才だが、皇太子となっている。
そして第二皇子は他の側室の今年5歳になる皇子だ。兄二人に比べると、まだまだ幼く政治等からは離れた所にいる。
三人とも見目麗しく仕上がっていて、老若男女全てが彼らを尊んでいる。
第一皇子は短めの黒髪で長身、爽やかな見た目を裏切らない中身を持ち合わせている。
今18才、今年貴族や皇族が通う学園で15才から生徒会長をしつつ首席で卒業した。
明るい性格で、社交的でキラキラしている。
皇太子は兄よりは少し長めの亜麻色の髪に、兄と変わらずの長身と頭脳を持つ。
今は15才で、兄と同じく学園に通っており、今年から皇太子が生徒会長、リリーが副会長をすることになっている。
物静かでしっかりしていて、目立たないがファンは多い。
国民たちは尊みを込めて、皇子二人を太陽と月に喩えていて、国家行事では一目見ようと大勢の人が集まる。
社交の場に出るとなるとご令嬢たちの参加率が素晴らしいものになるので、開催場所の選定や警備や諸々が大変なことになって主催者泣かせで有名である。
当人たちもよくわかっているのか、そういった場に出るのは稀だ。
二人の関係は傍から見れば微妙な立場だが、本当の兄弟のように仲が良い。
太陽と月でフィズガ帝国を繁栄させていくのだと、国内外でよく言われていて、周知の事実……だとリリーは思っていた。
◇
「フィズガ帝国の皇太子殿下にご挨拶申し上げます」
走ってきたのを悟らせないくらい、リリーは丁寧に隙無く完璧な仕草で礼をする。
いつもと違い、玉座に脚組をして座り頬杖をつく彼に届くように精一杯の声を出す。
「皇太子殿下、説明して下さいますか」
ユウ・ウス・フィズガ、ここフィズガ帝国の皇太子で、1つ年下の幼馴染が、睨むようにリリーを見る。
ユウは見せたことのない冷めた諦めた眼差しで、ため息混じりに淡々と話始めた。
「ああ、お望み通りに。……第一皇子であるアキ・イラ・フィズガは、リリ、お前の義妹と婚約をする予定となった」
「?!」
リリーは驚きすぎて声が出ない。
ガツンと鈍器で殴られた様な衝撃とはこのことかもしれないと、変に冷静な部分のリリーは思う。
リリーはもう何をどう言ったら良いのかわからない。
血の気が引いていくリリーを見て、ユウは更に冷たい目になって続ける。
「ご愁傷様。この話にはまだ続きがあるが、今は話したくない」
「っ?!」
リリーは言葉に詰まって、ただ沈黙が続く。
「……外に来ていただけませんか」
謁見の間では畏まって話さなければならない。今リリーは品良く質問をしていられない。
「何故」
決まってるじゃない、謁見の間では普通に話が出来ないから外に……
「あっ」
「……何だ」
普通に話したら私に気圧されると思ったから、他国の使節団との謁見が終わった後もここに居続けたんだわ!
絶対そうだとリリーは確信した。
じとっと睨むと、リリーの勘付きにユウも気付いたようで、ユウは視線だけゆっくり逸らしていく。
「皇太子殿下、午後のご予定は?お茶をご一緒して下さいませんか?」
リリーと一瞬目があったのに、ユウはすぐ逸らした。
チッ
リリーの舌打ちが謁見の間に響く。
本来は絶対にやってはならない事だけど、今リリーは形振り構っていられないのだ。
ユウはビクッと肩を揺らしたが何とか姿勢を保とうとしている。
「皇太子殿下の午後のご予定はどうなっていらっしゃいますか?」
リリーは引続き笑顔で、次の視線はユウの後ろに控えている側近のタナー小公爵に矛先を変える。
「えぇ……お、俺ですか?! っとですね、あの……えーっと、じゅ15時から、に、2時間、ほど、空いて、おります、か、ね?」
タナー小公爵は、ユウをチラチラ見ながら、最後は聞き取れないくらいの小声になって応えた。
短髪で黒髪、黒縁眼鏡をかけている彼は、堅物で有名だが同じ年のリリーに押されると弱い。
「あら? 今日は外出のご予定とお聞きしていたから急いで参りましたのに。でしたら15時からお待ちしても、宜しいですよね?」
予定があるのを装って、私と会わないようにしていたみたい……何故?!
一向に目を合わせてこない幼馴染に不満だらけだけれど、リリーは笑顔を崩さない。
ユウは頬杖をついていた手で顔を覆って、項垂れながら頷いた。
「お待ちしております」
リリーは喜々とした声で返事をして、先ほどと同様に丁寧にお辞儀をしてから入ってきた扉へ向かう。
「リリ!」
ユウに呼ばれてリリーは振返ると、玉座から離れバツが悪そうに自分の方へ向かっているユウが見えた。
スタイルも良いし、やっぱり綺麗な顔面だわ。
リリーはそう思いながらユウを見ていると、目の前で止まった。
「……兄上の件、どう思う?」
リリーが礼儀正しく重ねていた両手から右手を取り、ユウはエスコートしながら尋ねてきた。
流れるように綺麗なエスコートをする様は流石だなと、リリーは感心してしまう。
こんなに上手なのに、外では絶対にしなければならない時でないとエスコートをしないことでユウは有名だ。
「必要無いなら極力しない、リリ以外にしたくない」と帝国の皇子達が言うので、皇帝は頭を抱えているらしい。
謁見の間を出るまで、足音だけが響いていた。
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