第30話

湊はどうせこんな朝には来ないだろうし、何しようか。そういえば今日って湊の成績を上げるための勉強会だけど、朱里さんのためでもあったね。

 ︎︎まぁ僕が教えるよりずっと朱里さんを教えてる琴理さんが教えた方がいいだろう、僕は完全に湊を教える担当だ。


どっちにしろこんな朝からだと僕も頭が働かないし、材料があれば糖分補給用のクッキーでも作っておこうかな。


「もしかして今から料理するんですか? 私も手伝いますよ」


「あーいや、料理じゃなくて勉強の合間に食べるクッキーでも作ろうかと思っただけ。そこまで大変じゃないし、琴歌さんが手伝わなくても問題ないよ」


「じゃあ自分で作ってみたいです! お菓子作り、してみたかったんですよね」


五人いるし元から多く作るつもりだったから、琴歌さんと僕が別々で作っても問題ないかな。結局手伝うのと殆ど変わらないけど、琴歌さんが自分で作りたいって言ってるんだからいいや。


「じゃあとりあえず僕が教えるから、その手順通りにやろうか。そうすれば大抵失敗することは無いだろうし」


「分かりました! それで、最初は何をすればいいですか?」


当たり前だけど、僕は誰かに料理を教えたこともないし教わったこともないから教え方があんまりわかんないんだよね。


「それじゃあ小麦粉120gを……ってそういえば僕ん家って量るやつないじゃん。まぁいいや、だいたい……こんぐらいかな?」


多分120g入ったボウルを琴歌さんに渡して、あとふるいも渡す。


「じゃあ、これ使って小麦粉を細かくするんだけど……こぼれやすいから気をつけてね?」


「こぼさないように、ボウルの中で……」


「そうそう、小麦粉をやり終わったらそのボウルの中にバター50gと卵黄一個、あとは砂糖を自分が納得するまで入れるだけ」


砂糖の量に関しては基本50gから甘いのが好きだったら増やして、そこまで好きじゃないのなら減らせばいい感じに出来ると思う。まぁ僕は50gでしか作ったことないから分からないけど。


「このスティック一個で50gだよ」


「それじゃあこれ一つと、バターと卵黄を入れて……。次はどうすればいいですか?」


「まとまるまで混ぜたら後は冷蔵庫で一旦冷やして焼くだけだよ。それじゃあ僕はオーブンの準備してくるからー」



§



一方その頃、琴理たちは───


「ねぇねぇ琴理、とうとう二人で一緒に料理し始めたけど普段から一緒に作ってるの?」


「一緒に料理するのは今日が初めてだと思うけど……まぁ二人とも料理は上手いし、琴歌はお菓子作りしたことないけど天が教えてるし大丈夫じゃない?」


「ボクが気にしてるのはそういうことじゃなくてね? ダンジョン二人がキッチンに立っててなにか思うことは無い?」


どう考えても男女が二人で料理してたら夫婦じゃん? しかも琴歌が天くんに教えてるんじゃなくて天くんが琴歌に教えてるって言うのもいいよね。料理とか家事は女の役割とか思われてそうだけど、現状この家では全部家事を天くんがやってるし琴歌もできないわけじゃないから二人は夫婦になりそうだなぁ……。


「ねぇあかりん、何かよくないこと考えてない? 顔がにやにやしてるよ」


「いやいや、そんな変なことなんて考えてないから。ただ二人が夫婦だと仮定して、色々想像していただけだから」


「私の妹と義弟で変な想像しないでくれるかな!? 義理の兄妹は結婚できるとはいえ、二人はそんなことしないでしょ。そうなったら逆に幸せじゃなくなっちゃう」


まぁ学校の友達同士が義理の家族になるのだって十分漫画の世界みたいな事なのに、そこから義理の兄妹同士での結婚なんて漫画とかでしかありえない話かな。さすがのボクも恋愛漫画の読みすぎかな、脳が完全に恋愛脳になっちゃってる。


恋愛脳になっちゃってるけど、ボク自身は絶対に恋愛が出来ないんだけどね……出来ないというか自ら恋愛することをやめたんだ。ボクが恋愛をやめた日に助けてくれたのが琴理、だからその時からボクは琴理が好きになった。


「あかりんはさ、中学の時に私と付き合うとか言ってたけど……それは今でも変わらない?」


「中学の時の言葉なんてよく覚えてるね? うーんそうだなぁ、ボクは琴理のことが好きだけど今の距離感が一番心地いい。琴理と唯一幼馴染であるっていうのも特別感があっていいし、琴理と付き合うことは他の誰かもできるけど……幼馴染にはボクしかなれないからね」


あの二人を見てると恋人っていうものも気になりはするけどね。まぁ二人は別に付き合ってないんだけど、そう見えるほどお互いに気を許してるからね。



§



よーし、琴歌さんが生地を可愛く型どってくれたしあとは焼き終わったから完成かな。


「琴歌さん、あとは待つだけだし焼けるまで何する?」


「勉強しましょう! お姉ちゃんによると朱里さんも成績がまずいそうなので」


「言っておくけどボクだってやる気を出せばちゃんと点数取れるんだからねぇ? それで来年琴理と一緒のクラスになるためにこれからのテストはちゃんとしようと思ってるからさ」


そんなことを前も言ってたけど、海燈大附属高入れた時点で中学での成績はトップクラスではある。でも残酷なのが中学ではトップでもここに入ったら底辺の可能性があること、湊だってそうだからね。


「朱里さんって入試の順位何位だっけ?」


ちなみに琴歌が一位、琴理が三位、天が12位、湊は213位である。


「んー? ボクは確か150位以内ではあったと思うけど……あんまり覚えてないや」


「じゃあ普段もそれくらい頑張ろうよ……」


まだ湊が来てないけどとりあえず勉強を始めるとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る