第26話

えぇ、もう女装してしまったことには後戻りは出来ないのでとりあえずその集合場所に湊と一緒に向かってるけどさ、今の僕は湊の彼女というより完全に妹だよね。僕が小さいのもあるけどそれ以上に湊がデカすぎるんだよ、これだけ差があるのに同性同学年っていうのを認めたくない。


「ねぇ、本当に僕でバレない? メイクのおかげで見た目は大丈夫だと思うけど、声とか……さ」


「別に声なんて人それぞれだし、声だけだけで女の子じゃないとはならないでしょ。声が低いから女じゃない、声が高いから男じゃないなんて言うやつだったら俺は仲良くしてない」


「そっか」


それなら安心できるかな……僕にとっては、バレないことが一番大事だからね。声や見た目で判断されないのならトイレに行く姿さえ見られなければバレることは無いはずだ。



§



その集合場所ファミレスに着いて、既に何人か揃っていたので多少盛りあがっていた。あと見た感じテンションが高い人は居ない、まぁ女の子の前だから自重してるだけかもしれないけど、僕にとっては非常に都合がいい。

 ︎︎なんかそういう盛り上がるノリになった時にずっと一人だった僕はノリきれないからね。


「湊がこういう集まりに来るのは久しぶりだなぁ。湊だけ頭のいい高校に行っちゃったし」


「はは、入ったのはいいけどそこじゃあ俺も赤点ギリギリだよ。まぁでも学年一位と五位の人が教えてくれるから何とかなりそう。そういやさ……俺を勝手に参加することにしたの誰?」


「「和田」」


「よっし和田、後で二人きりで話をしよう」


「えっ、まって」


つまりはこの人が勝手に湊を誘ったから僕が今女装する羽目になったってことだね。うん、初対面だけど湊に怒られてきてください! 僕だって女装したくなかったので。


「それで、隣にいるのが湊の彼女?」


「さぁ? どうだろうな。まぁ、さっき言ってたテスト五位の人とだけいっておくよ」


とりあえず席に座るけど、そうだよね今の僕は女の子っていう設定だから座らされるのは女の子が集まってるところだよね。男子にはバレないとしてもメイクに詳しい女子にならバレちゃうのでは……?


「ねぇ、名前は?」


「天です、天気のてんって書いてそらって読みます。小さいですけど、ちゃんと湊と同学年ですからね?」


大事なことなので何回も言うが身長154cmだけど高一だからね? たまにというかよく中学生に間違われるけど。


「小さくて可愛いぃ、妹にしちゃいたいくらい! ねぇ湊、一日ぐらい持ち帰ってもいい?」


天海あまみに預けたら何する分からないから絶対に持ち帰らせないからな? 中学の時の事を俺はまだ覚えてるぞ」


普通に家には琴歌さん達がいるし、僕が帰らなかったら色々まずいのでそれはやめて欲しい。というか湊にあれだけ言わせるって……中学の時に何したんだろ。


「家に待ってる人がいるのでお持ち帰りは勘弁してもらえると……。家でご飯作ってるのは僕なので」


「僕っ娘むっちゃタイプなんだけど、私もこんな妹が欲しかったよ。天くん、私の妹にならない?」


「僕、今日で居なくなるので無理ですって」


もうね、そう言わないとこのままずっとグイグイ来られると思ったので言ってしまった。多分この後僕と湊の方に説明を要求されると思うからそこで湊が上手く合わせてくれればいいけど。


「居なくなるとは?」


「もうちょっとしたら天は引っ越すんだ。だから俺は付き合ってないし、ただ女の子を連れてこいと言われたから最後に思い出になるかなぁと思って誘ったんだよ」


いや湊のアドリブ力すごいな、むっちゃ助かるんだけど。


「だから友達になりたかったけどごめんね」


「そっかー、じゃあ連絡先だけでも交換しておこうか」


「うん、また連絡する」


天海さんの連絡先を手にしたけど……連絡することは無いかなぁ。向こうからなにか来たら返信する程度になると思うけど、友達が増えるに越したことはないし、僕からしたら女装という縛りがなければ普通に仲良くしたかった。


「まだ時間はあるし、最後まで楽しんでってね? それで最後に写真を撮ろうよ!」


その案にみんなが賛成するけど、その写真に移る僕は本当の僕じゃないんだよねぇ……。正直今すぐこの違和感のある服を脱ぎたいところだけど、今男だとバレたら色んな意味で死んじゃうし今日だけは耐えないと。


「ちょっとトイレに行ってくるね」


えーね、一番危険な事だけど体には逆らえない。服は普通に半ズボンとTシャツだし、顔さえ見られなければ一般の人に疑われることは無いけど、万が一他の人も来た場合だよね。


まぁそんなこと言ったって仕方ないし、さっさと済まして戻ろう、うん。



§



幸いなことにトイレには誰もいなくて誰もいなかったので問題なく済ますことが出来た。それで席に戻ってきたら頼んでた料理が沢山届いていた。


「先に食べてるから、天ちゃんも早く早く〜」


「ちょっと待ってくださいって」


改めて席に着くけど、やっぱり女子のところだよね。というか座るところが隣から挟まれるところに変わってるし、正直気まずい、男だから。


「ねぇねぇ、天ちゃんってハンバーグ好きなの?」


「小さい頃からずっと好きですよ、僕もよく作りますし」


「好きな食べ物とか、見た目とか何もかもが可愛い! 今日で終わりなのがとっても残念だよ」


……本当に騙したままでいいのかな。全員いい人だし、僕だってこれからも仲良くしていきたいと思ってる、でもそれは女装をしてるからかもしれないし今ここで僕が男だということを明かしたら絶対に引かれる気がする。

 ︎︎僕はどうすれば───。


「天、本当のことを言いたいのなら言ってもいいんだぞ。無理やり付き合わせたのは俺だしな、責任は取ってやる」


僕に姿を見兼ねてか、湊がそんな助け舟を出してくれた。それなら言うしかない、これからもこのみんなと仲良くするためにも。


「みんなに聞いて欲しいことがあるんですけど……」


「なになに?」


「実は僕……女の子じゃないんだ」

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