第24話

榎坂千歳えのもとちとせ、中学時代のクラスメイトで僕のことをバカにしていた奴らの一人だ。まさかここで出会うなんて思ったなかった……今すぐにでも帰りたいけど、既に話しかけられちゃったからなぁ。


「僕に何か用? 君は僕にわざわざ話しかけるような人でもなかったでしょ」


「久しぶりに会うクラスメイトなんだから別に話しかけてもいいでしょ? それともまたトラウマでも蘇っちゃった?」


嘲笑うかのようにそう言うと、僕の方から目を離して湊の方を見た。まただ、誰かが僕の片親のことを知ってその誰かが別の誰かが広げる、それでクラスに僕の逃げ場はなくなって……気づけば僕のことがネタになっていた。

 ︎︎一番許せなかったのは事情も何も知らないくせに僕よ親がバツイチだとか勝手に言ってたことかな、僕だけをバカにするならまだ耐えれてたのかもしれない。


「ねぇ、もしかして天の友達? ならいいことを一つ教えてあげるわ」


「いいこと?」


「天ってね片親なのよ、どう思う?」


やっぱり言ったか、中学の頃はそのまま広がって一人がバカにしたらもう一人もバカにするという最悪な状況だったけど、今はもう違うんだ。


「どう思うと言われてもな……。たとえ天が片親だったとしても天には関係ないでしょ? 天が片親だからといってそれをバカにしたりするのはどうかと思うな」


「親が片方居ないのよ? 子どもにもなにか問題があるに決まってるじゃない、だって片親なんておかしいことなんだから」


「じゃあ天は何か問題を起こしたか? 言っておくが家族が居ないことは特別じゃない、友人が居ないことは特別じゃない。そんなものは誰かに聞かれた時に『ああ、そういえば』と思い出す程度でちょうどいいんだ。

 ︎︎大事な事だった一つ、自分が何者で、何がしたくて何を望むか。望みのために何ができて、何を失えるかだ」


僕が望む事といえばこの先もずっとみんなと友達で、楽しく過ごしていきたい。その望みために何ができるかと言ったら、僕は既にやっていることがあったね。

 ︎︎自分の体を犠牲にして琴歌さんを助けた、失えるのは自分で望むのは他人の幸福だ。


「それでもバカにし続けるって言うのなら俺はもう何も言わない。片親の人は別に普通の人だし、片親の人のことをバカにしてる人の方が俺はおかしいと思うけどね?」


「片親になる原因なんてどっちかが不倫とか何かやらかしたからでしょ? そんな親から生まれてきた子どもなんて普通じゃないに決まってる」


まぁ片親になる理由として一番多いのはどちらかの不倫が原因での離婚っていうのだけど、世の中には事故で亡くなったりして片親になる場合もある。僕の母親はどう頑張っても避けることができなかった、身体が弱いのに最後まで頑張って僕を産んでくれた母さんに感謝したい。


片親なら父さんと琴葉さんみたいに再婚して新しい家族を作って、今が幸せならそれでいいじゃないか。なんで片親の子どもを否定する、どうして普通じゃないと仲間外れにするんだ。


「片親だとしても、そうなる理由は色々あるし、再婚すれば新たに家庭を作れるんだ。それを何も知らないただの学生が簡単に否定してんじゃねぇよ!」


湊が聞いたこともないような怒号でそういった後、いつもの声で僕に「早く帰ろう」と僕の手を引いた。


最初からかっこいいと思ってたけど、改めて湊のことをかっこいいと思った。ほんと、湊と友達になれて良かった。



§



帰りに予想外の出会いもあったけど、湊のおかげでなんとか無事に帰ることができた。時間的に晩御飯の時間だったからキッチンに向かおうとしたら二人に止められた、別に腕は動くし料理は僕の役割なんだけどなぁ……。


「退院して直ぐにキッチンに向かう人なんて居ませんよ! これからしばらくは私たちが作るので天さんは休んで置いてください!」


「僕はいつも通り晩御飯を作ろうとしてるだけなんだけど、なんで琴歌さんに怒られてるの?」


「退院したてなのに料理をしようとしたからでしょ。私たちがいるんだからその怪我が完全に治るまでは私たちに頼りなさい」


「あ、はい」


多少痛みはあるけど、退院したってことはもうほとんど治ってるはずだし激しく動かない限り大丈夫だと思うんだけどなぁ。まぁ普段から運動をしてないからあの時にあんなボコボコにされて何日か入院する羽目になったんだろうけど。

 ︎︎僕もどこかの部活に入った方がいいかなぁ? 琴歌さん達は部活に入ってないから僕が入ったら二人より帰るのが遅くなってご飯を作れない日が多くなるし、一旦保留かな。


本当に必要になった時に体を鍛える目的で入るとしよう。


「二人のご飯を作ってもらうのは僕の誕生日ぶりかな? あの時もすごい美味しかったし楽しみにしてるよ」


これからしばらく僕が料理を作れないとなると、学校の弁当も琴歌さん達が作ったものになるはずだけど……まぁ僕の周りには事情を知ってる人しかいないから中身が一緒でも問題ないか。

 ︎︎次から僕も中身を変える必要は無いかな、湊に全て伝えたし朱里さんは知ってると思うからね。


僕、琴歌さん、湊の三人で教室で食べるか、そこに琴理さんと朱里さんが加わった五人で食堂で食べるかだし、そこに他の人が来ない限りは問題ないでしょ。


いずれは琴歌さんと一緒に登校できるように他の人達にも言うつもりだ。それが琴歌さんの望んでることだし、僕も一緒に行きたいと思ってる。


まぁ一緒に行くなると琴歌さんと琴理さん、そして朱里さんも居るので僕が一人だけ男子なのがあれなんだけどね。しかもその中で一番背が低いのは僕っていうね。


男としての尊厳が一つ無くなった気がする……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る