第23話
体育祭の方は昼休憩になったのか、湊達も琴歌さんのところに集まっていた。とりあえず湊が琴理さんに脅えてることは無視しよう、いつもの事だし。
『僕もそっちで一緒に食べたかったなぁ……』
今まで一人で食べるのが当たり前だったはずなのに、今となっては琴歌さん達と一緒に食べることが当たり前になってきてる。まぁそれだけど琴歌さん達と食べるのが楽しいんだろうけど、急に一人で食べることになると寂しいな。
︎︎まだ通話しててみんなの声が聞こえてる状態だからマシだけど、以前の僕のように本当に一人で食べることになったら今の僕はどうなるだろう。
『病院のご飯でも、通話しながらなんだしまだマシでしょ。朝と夜は完全に一人なんだからさ』
『少し前まではそれが僕の当たり前だったし、一人は慣れてるよ。琴歌さん達のおかげで寂しいと思うようになったけどね』
一緒にいてくれる人の存在がどれだけ大切かに気づいた。それは中学のこともあって完全に一人だった僕にとって尚更必要なものだってこともね。
︎︎だから早く退院して学校に行きたいんだよね、まぁ今日までだし明日からは家に戻って来週からちゃんと学校に行けるだろう。
『そうだ、今日退院なんだったら体育祭が終わったあとにみんなで病院に行くか?』
『私は委員の方で最後に話すことがあるらしいので無理ですね』
『それなら私は琴歌を一人で帰らせる訳にはいかないから無理ね』
まぁ琴歌さんを一人で帰らせる訳にはいかないっていうのは間違いではないよね。まぁ二人は家でも会えるしいいとして、湊は二人みたいに毎日会えるというわけじゃないし。
『じゃあ俺だけが行くかぁ。体育祭が終わったあと楽しみにしておけよー』
『ん、わかった』
その時に扉が開く音が聞こえたので一旦通話のマイクをオフにすると、中に入ってきたのは父さんと琴葉さんだった。
「いやぁ琴葉さんから全て聞いたよ、大変だったな。でも、一人の女の子のために頑張れるのはすごいと思うぞ、もしかしてその子のことが好きなのか?」
「好き……とは違うと思う。僕に恋愛感情なんてないし」
琴歌さんが好きかどうかで言えば分からない、家族や友達としてなら十分仲がいいとは思うけど……それが好きなのかは分からない。それに琴歌さんに対しては恋愛感情というより先に家族、友達に対しての感情を抱くだろう。
「まぁ無事ならいいんだ、俺は仕事があるからもう行かないといけないが琴葉さんとゆっくり話しておいたらどうだ?」
父さんはそう言った後すぐに出て言ってこの病室に僕と琴葉さんが取り残された。
「改めて私からもお礼を言おう、身を呈してまで琴歌を守ってくれて本当に助かった、感謝する。それで、まだ出会ってそこまで時間が経ってないと思うが、琴歌のためにそこまでするのはなぜだ? 好きだからか?」
「琴歌さんのことが家族として、友達として大切だからですよ。琴歌そんのおかげで僕の人生は変わりました、琴歌さんが居なければ僕の生活は酷かったと思いますから」
琴歌さんが居なければ中学のことを引き摺ったまま友達を誰も作らずに一人から独りになっていたと思う。僕の生活を変えてくれた琴歌さんはもちろん大切だけど、好きかと言うとどうなんだろう? この世の中の恋する人々がどのようにしてその人を好きになって、付き合うようになっているのかを知りたい。
まぁ……もし僕が琴歌さんを好きだったとしても、そもそも僕は誰かと付き合うということに向いてないからね。これから先も誰とも付き合うことなく友達として過ごしていくだろう。
︎︎琴歌さんとは既に家族っていう関係なんだから、今以上を求めるというのは強欲すぎるだろう。
§
そして時間は過ぎてようやく僕も退院、湊が病院で待っててくれていて念の為家まで送ってくれるらしい。うーん、チャイムを鳴らしても僕が鍵を自分で開けても琴歌さんは玄関に来るだろうしどうしようか……。
︎︎まだ湊に片親って事と琴歌さん達の親と僕の親が再婚して家族になったことは言ってないんだよね。
まぁテスト前にある勉強会を僕の家でやるんだし、近いうちにバレることだからまぁいっか。湊なら他人にばらすようなことは無さそうだし。
「湊、僕の家まで着いたら多分琴歌さんと琴理さんが出てくるけど気にしないでね。あ、なんでか説明いる?」
「急に情報量が多すぎる、とりあえず説明頼む」
急にこんなこと言われたら普通に考えて理解出来るわけないよね。だってずっと友達だと思ってる人同士が一緒に住んでるなんて言うんだから。
「僕と琴歌さん達は片親で、僕は母親がいなくて琴歌さん達は父親がいなかった。それで僕の父親と、琴歌さん達の母親が再婚して僕が一人暮らししてる家が学校から近いからってことで二人も僕が住んでる家に住み始めたって感じかな?」
「だから月詠姉妹と仲がいいわけだ、それで勉強会も天の家ってわけかぁ」
だいたい予想はしてたけど片親ってことに湊は何も言わない。まぁ僕にとってはそれでいいんだけどね。
「片親って三人とも大変なんだなぁ……手伝えることがあったら言ってくれよ?」
「今のところ楽しく過ごせてるから問題ないよ、これもみんなの……」
僕は目の前にいる女性を見て足を止めた。湊が「どうした?」と聞いてきたがそんなことよりあの女性にバレずに帰らないと……そう思った時には既に遅かった。
「あ、天じゃない」
その声を聞いた瞬間、僕の頭には中学の嫌な思い出が溢れかえってきたのだった。
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