第22話
本来なら今日は体育祭二日目のはずなんだけど、僕が学校に行くことは叶わなかった。昨日の怪我とこの前の怪我が重なって今は病院に居るんだけど、正直暇だよね。
︎︎琴歌さんたちと話すこともできないし体育祭見ることも何も出来ない、スマホは預けたままになってるので本当にやることが無い。
「今まで生きてきて初めて入院するほどの怪我をした気がする……。外出許可とかでないかな、まぁ出ても一時間しか出れないはずだしほとんど意味ないけど」
その時に病室の扉が開いて、僕のスマホを持って桜木先生が入ってきた。
「暇そうだね? はい、これ。三月くんのスマホ」
「あ、桜木先生。そりゃあ暇ですよやることが無いですから、本当なら体育祭を見に行きたいんですけどね」
「なら僕のスマホとビデオ通話で向こうを映すよ? まぁ自分のスマホに先生の連絡先が追加されることになるけど」
まぁ既に先生の連絡先は一つあるし二人に増えても変わらないでしょ。あとそんなことより体育祭を見たい、画面越しでもいいから見たい。
「それじゃあお願いします」
「わかった、なるべくいろんなところを映すつもりだから楽しみにしててねー」
そう言って桜木先生は出ていったけどなんか僕のためにずっとスマホで映してもらうのは悪い気もする。それにあと楽しむってなんだろ、普通に画面越しに僕が体育祭を見るだけじゃないよ? まぁ楽しみだけどね。
︎︎僕のためにずっと動いてもらうわけだし後でちゃんとお礼をしておかないとね。
桜木先生が病室を出てっで数分後、電話がかかってきた。いやいや、さすがに早すぎるでしょ!? 走った……にしてもこの病院と学校までの距離を考えたら早すぎる。
「まぁ、出るけど」
通話ボタンを押した瞬間に歓声? というか叫び声みたいなのが聞こえてきてまぁ相当向こうは盛り上がってるんだと思う。
『数分ぶりだね三月くん、まぁこれは僕のスマホじゃなくて琴歌さんのスマホなんだけどねぇ。あ、ちゃんと隣に居るから大丈夫だよ』
そう言って桜木先生はカメラを琴歌さんの方に向けるが、琴歌さんは見ることに集中して通話してることには気づいてるけどカメラを向けられてることに気づいていない様子だった。
︎︎あんなことがあったから一日目はあんまり体育祭に集中できなかったけど、ちゃんと見てみると生徒が本気で競い合ってる。
こんなのを見ちゃうとより行きたくなるんだけど……。入院期間はすぐに終わるけどちょうど体育祭を見に行けないのがなぁ。
︎︎というか入院してる間は琴歌さん達のご飯を作れないじゃん、あの二人は自分で作ると思うけど……僕は二人に楽しさを貰って、そのお返しに家事を僕がする。
まぁ家事をするだけじゃ足りないくらい僕は二人に色々貰ってるんだけどね。今まで一人でただ何も考えずに生きてきたけど、二人のおかげで゛楽しい゛ってことを知って、生活に面白みが出てきた。
︎︎昔のことがどうでも良くなるほどに今を楽しくしてくれたんだ。
『というか桜木先生、病院から学校まで戻るの速すぎませんか? 走ったとしても速すぎますよ』
『元お巡りさんだからねぇ、でも琴葉さんの方が速いと思うよ? あの化け物……あ、ちょっと助け』
なんか映ってる場所が変わったと思ったら桜木先生から琴歌さんにスマホが渡っていた。
『えっと……何があったの?』
『桜木先生が琴葉先生に連れていかれましたね。同僚ですし何が二人だけの話があるんでしょう』
まぁ確かに二人だけの話はあるだろうね、ほぼ確実に桜木先生が琴葉さんのことを化け物と言ったことについて桜木先生が琴葉さんに問い詰められるんだろうけど。
『なんか後ろから声が聞こえるけどまぁいいとして、それで今はなんの競技をやってるの?』
『今はリレーですね、まだ始まったばかりなので湊さん達が走ってる姿を見れると思いますよ』
琴歌さんは特別処置で見回り役から外されて本部のテントにいるし走ってる姿を見るのにはちょうどいいだろう。あんなことがあったんだからまた起こる可能性を考えて見回り役から外して先生の傍に置いておくっていう判断は間違ってないと思う。
︎︎そのおかげで僕も体育祭を見れてるわけだしね。
『そういえば言い忘れてたんですけど、昨日は私のせいでごめんなさい。天さんに怪我を負わせてしまって……』
『謝られるより、お礼を言ってくれた方が僕は嬉しいかな。あれは僕が勝手にやった事だし、琴歌さんは何も悪くないんだからさ』
『天さん、ありがとうこざいます。でも一つ言われてもらいますが自分の体も大事にしてください……天さんが居ないと私だって傷つくんですからね?』
琴歌さんがそこまで僕のことを大切に思ってくれてるとは思わなかったなぁ……。ほんの一か月前まではただの他人だったのに、道案内をして、学校の屋上で友達になって……そして家族になった。
『僕も色々ありがとう、これからもよろしくね。琴歌さん』
『色々ってなんですか?』
『色々は色々だよ』
『なんですか、もうっ……私からもよろしくお願いしますね?』
初めて聞いた優しい声で言う琴歌さんに、僕は少し心臓が跳ねた。
このドキドキする感情の名前はなんだろう?
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