第21話

「来いよって……現状分かってる? 二対一で体格差もある、そして今の君は負傷してるでしょ? 勝てる見込みなんてどこにもないと思うけど、自分の身が惜しいなら今のうちに引きなよ」


「別に惜しくないよ、それにここで僕が引いたら琴歌さんに何かするでしょ?」


「そりゃあそれが目的でお前を潰そうとしてるんだから。そうだなぁしばらく動けない程度にはなってもらうよ」


もう既に走れない状態ではあるからこれ以上やられたら本当に動けなくなりそうだ。勝てる勝てないじゃなく今ここで僕が草薙達に立ち向かわないと琴歌さんが危ないんだから、文字通りこの身体が動かなくなるまで立ち向かい続けよう。



§



あぁ、やっぱり二人を止めることは無理だったなぁ。僕の身体はもう痣だらけで、思うように身体が動かせない。


まぁ少しでも他の人たちが証拠を得る時間を稼げたのならそれでいいのかな、それに僕だってただ無抵抗にボコボコにされてたわけじゃない。僕のポケットの中に入れてあるスマホ、そこにさっきまでの会話は録音した、多少映像も撮れたかもしれない。

 ︎︎これを誰かに渡しに行きたいけど身体は動かないし体育祭の最中で誰もこんな校舎裏までやってこないだろう。


「はは、一歩及ばなかったかぁ……。やっぱり僕なんかが守るなんて大層なことは出来なかった……この姿は誰にも見せない方がいいかな」


前読んだ通りだ、僕がこれで琴歌さんを救えたとしても琴歌さんは何も重荷を感じず生きていけるわけじゃない。助けられた側も決して楽ではない、琴歌さんに『私を助けたせいで……』と言わせないためにもこの姿は見せられない……といっても家が一緒だから隠せないか。

 ︎︎ほんと、こういう時は一緒に住んでると都合が悪いね、隠したい事を隠せないんだから。


「ん、足音?」


「……三月くん」


「桜木先生? どうしたんですかこんな所に来て」


「僕は琴葉さんに頼まれてここを見回りに来ただけだけど、その痣はどうしたの?」


琴葉さんに頼まれて……か、それならこの先生も協力してくれるのかな。


「草薙と石井ってやつにボコボコにされましたよ。まさかを本気で殴ってくるとは思いませんでした」


「とりあえず保健室に行こう、手当は僕がするから」


桜木先生に担がれてそのまま手当してもらったけど、なんか手馴れてる気がする。まぁそんなことはどうでもいいや、早くそのスマホを渡さないと。


「桜木先生、このスマホに会話が録音されてます……。それを持って琴葉先生のところまで行ってください、それで草薙と石井がやろうとしてる悪行の証拠は十分でしょうから」


「わかったけど、君はここで安静にしてるんだよ。今のは一時的な処置であってこの後念の為病院に行ってもらうから」


「この前の怪我も重なってますし大人しく病院に行きますよ。桜木先生、あとは頼みます」



§



「えっと……私をこんな校舎裏に呼んでどんな話をするんですか? 他の人には聞かれたくない話らしいですけど」


「話? そんなのあるわけないだろ。出会った時からお前を愉しむための計画を立ててたが、ようやくだ」


「や、やめ……てください」


「やっぱりここに居たか、クソ野郎共?」


何とか間に合ったかな、まぁ見た感じあと一歩遅れてたらアウトだった体制だし、良かった良かった。それに……僕は既に証拠を持ってるけど、現行犯で捕まえることが出来るなんてね。


「見つかるとは思ってなかった、いなくなってたしあいつのせいか? まぁいい、所詮はただの先生だ。こっちの男の方を先にやるぞ」


罪に罪を重ねるなんてね、実に愚かだ。まぁ暴行に加えて女の子に手を出した時点で退学になるのは決まってるし、今更行動を改めたって退学になるのは変わらないか。

 ︎︎せっかくの体育祭が台無しだよ、このことを広めるつもりは無いし二日目は人が減ってると思うけど問題なく開催はするだろう。


「怖かったな、もう安心していいぞ。それじゃあ悪いが私は安全な場所に避難させてもらう、一応聞いておくが一人でも問題ないか?」


「愚問だね、僕はクソ野郎だけには何があっても負けるつもりは無いんだ。たとえ僕がどれだけボロボロだとしてもね?」


正直さっさと退学にさせたいがここの学校の生徒じゃないから決めるのは向こうの先生だ。とりあえず二人は避難したことだし早くこの場を収めて証拠を向こうの先生に持っていかないとなぁ。


「あれだけ威勢が良かったのに大した事ないんだね。まぁ相手が悪いものあるけど、とりあえずさっさと自首しなよ、罪が軽くなるかもしれないよ?」


「全部バレてるんなら知った人間を全て潰すのみだ、さっきの女も含めてなぁ」


いやぁ、言わないけどほんとに琴葉さんを相手にするのはやめた方がいい。力がおかしいし、仕事中に怪我しても何一つ表情を買えなかったからね。

 ︎︎今となっては感情も豊かだし訓練もしてないから力も弱くなってるんだろうけど、それでもただの生徒が相手するのはやめた方がいい、僕だって相手したくないもん。


「一つ言うなら元警察には喧嘩売らない方がいいよ?」



§



あの後相手校の先生を呼んで来て三月くんからもらった証拠を見せて連れ帰ってもらった。三月くんが病院送りになるまで暴行を加えたんだ、絶対に退学になるだろう、そして二日目の体育祭も問題なく開催するらしいのでひとまず問題は全て解決したかな。

 ︎︎そして体育祭が終わったあと、協力していたみんなを集め琴歌さんに今までの流れを説明した。


「そ、そんなことが起こってたんですね……。皆さん、ありがとうございます」


「お礼をするなら天にして、このことを教えてくれて一番動いてくれたのは天だから」


「そうだなぁ、天がいなければ俺はこんなこと知らなかったし」


「でも……天さんがいませんよ?」


そういえばまだこのことは誰にも言っていなかったっけ。


「三月くんは……この前階段から突き落とされた怪我と今日、あの二人にやられた怪我のせいで今は病院にいるよ」


『え?』と僕以外のここに居る人たちの声が重なった。

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