第14話
あいつにだいぶ時間を取られたせいで家に着いた頃には七時半を回っていた。靴はあるし琴歌さん達が帰っているのは確実なので早くご飯を作らないと。
「帰ってくるのが遅かったわね、何かあったの?」
「そうだね、結構面倒くさいことに巻き込まれたかな。まぁあんまり実害は無かったから心配しなくてもいいよ」
「それなら早くリビングに来て、あまりにも遅いから私たちで晩御飯作ったから」
「それはごめんて」
言われた通りリビングに向かうと机の上に料理と、ケーキが置いてあった。
「誕生日おめでとうございます、天さん! 誕生日だと言うのに遅くて心配しましたよ?」
「それは本当にごめん、でもなんで僕の誕生日を知ってるの? 僕は誰にも教えたことは無かったんだけど。本当に今日は初めてなことが多いね、初めて誕生日を祝われて、初めて誰かに嫉妬されたけど、今はそんな事どうでもいいかな」
嫉妬されて呼び出されたことはマイナスな事だけど、誕生日を祝われたことでそんな事がどうでも良くなるほどプラスだ。偶然に偶然が重なって今までだったら考えられないほどにとんでもない事になった。
偶然街中で琴歌さんに出会うだけじゃ仲良くなることは出来なかっただろう。その後に学校の屋上で会って、父さんも琴葉さんが再婚するというもはや奇跡としか言えないレベルの偶然が重なったからこそ今があって、僕は昔のことを乗り越えてきてるんだ。
︎︎そんな偶然が起きて、琴歌さん達が居なかったらぼくは今も変わらず一人だった……そんな僕が二人に言う言葉は───。
「ありがとう、僕の友達になってくれて」
「友達というか義姉だけどね、琴歌みたいに家の中では゛お姉ちゃん゛って呼んでくれてもいいけど?」
「流石に呼ぶ気にはならないよ、僕は琴理さんのことを友達だと思ってるから。あと普段からその呼び方をする癖が付いたら学校でやらかしそう」
癖というものを怖いからね、一度体に染み付いたらその癖を無くすことは難しい。家と学校で呼び方を変えることはおそらく僕にはできないと思う、絶対いつか学校でもお姉ちゃんと呼んじゃいそうだ。
「明日は学校だけど、とりあえず今日は楽しんだら? 一年に一回の誕生日なんだからさ」
「まぁそうだね、僕にとっては初めての誕生日。楽しむ……と言っても今まで祝われたことがなかったからどんな感じか分からないんだよね」
今までずっと一人で居たから誕生日もそれ以外の時も例外なく゛楽しむ゛ということが分からない。今まで楽しんだことが一回もなかったから何処からが楽しむということなのかが分からない。
「天は笑ってる、だから楽しんでるってことでしょ。ほら、早く食べないとせっかく作った料理が冷めちゃう」
「そうだね、早く食べようか」
そういえば琴歌さん達と同じ家で暮らすようになってから毎日僕がご飯を作っていたから知らないけど、二人はどれだけ料理ができるんだろう? ここにこの料理たちがあるということはできないということは絶対にないというのはわかるけど、どれだけの腕前があるのか気になる。
「美味しい……これってどっちが作ったの?」
「全部お姉ちゃんと一緒に作りました! 天さんのように毎日作ってるわけじゃないので天さんほど上手くは出来ませんけど……」
「僕は料理をしてきた長さが違うからね、琴歌さんも琴理さんも僕からしたらとっても上手だと思うよ。僕のために作ってくれてありがとう、二人とも」
§
さっきの誕生日会は、僕が今まで生きていた人生の中で一番楽しかった。これまでの人生が楽しくなかったことは段々と塗り替えていけばいい、過去のことを忘れて、今から人生を楽しんでいこう。
そして僕は二人が寝てから、僕は以前見た人が書いた小説の続きを見ていた。夜更かしは良くないとは思ってるけど、どうしても早く読みたくなってしまった。
『百万年前からこの世界では誰かが傷ついて、涙を流していた。百万年前からこの世界では争いが起こる度、眠れずにいた。
︎︎人は言う、「過去と引き換えに、幸せを手に入れてる」と。「だから僕も戦いに!」と過ちを繰り返すのだ。
︎︎人はなぜ戦いを止めないのか? 争いが悪だと分かっているんだろ? 幸せを願って殺し合うのか? その矛盾に誰も気づかないのか?
︎︎時代は移り変わり来世、変わらない命の軽さ、また一人罪に染まる。見て見ぬふりをしてる人。
︎︎他人を傷つけて何がしたい? 理由なんてないだろ馬鹿のすることに。自分の命なら傷つけてもいい? 考えを改めろ、君の生きる理由を考えろ。
︎︎百万年前から世界はゴミクズだった、百万年後の世界は幸せでありますように。』
やっぱり前もそうだったけど心に響く。当たり前のことに気づいていない僕たちに、そのことを気づかせてくれる、この作者は近くのことだけじゃなくて世界全体を見つめているのかもしれない。
︎︎
「当たり前のことに僕達は気づいてないけど、その事が全ての人にとっての当たり前とは限らないんだよね」
幸せに過ごす日々を当たり前のと思うような傲慢な人間はこの世界にどれほどいるだろうか? 当たり前のように僕は琴歌さん達と一緒に過ごしているけど、それは当たり前じゃなくていつかは壊れてしまうような物なのかもしれない。
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