第12話

今思えば父さんが再婚して、義姉と義妹ができた訳なんだけど同学年だしそんな気がしない。本来なら琴理さんが義姉で琴歌さんが義妹なんだけど、友達のようにしか話したことがない。

 ︎︎琴歌さんが僕のことを゛お兄ちゃん゛と呼ぶわけが無いのし僕が琴理さんのことを゛お姉ちゃん゛と呼ぶのもなんか違う気がする。


まぁ僕はそうなりたい訳でもないし、話せる相手がいるってだけでそれでいい。あくまで家族っぽいことをしてないなと思っただけである。

 ︎︎元々僕には父さん以外の家族はいなくて、今更゛お兄ちゃん゛だとか゛お姉ちゃん゛だとか呼んだり呼ばれたりするのは違和感がある。


まぁ学校でも隠して過ごしていかないといけないわけだし気にしてない方がボロが出にくいか。



§



教室に入るといきなり先生にクラッカーを鳴らされた。あぁ、今日は五月二十日、僕の誕生日だ。


そういえばこの学校は誕生日の人は軽くお祝いするんだったけ……誕生日をお祝いされるのは初めてだなぁ。僕の誕生日は母さんの命日、僕の誕生日を祝ってる暇なんてなかったから今まで生きてきて初めてのこと。


「何呆然としているんですか? 今日は君の誕生日でしょ、主役は君なんだからもっと喜んでもいいんですよ。ハッピーバースデー! 三月さん」


「いえ、誕生日を祝われるのが初めてで……新鮮だな、と」


欲を言えば父さんと母さんにも祝われたかったなぁ。友達も呼んでパーティーみたいなのもやってみたいと思うけど、その願いは二度と叶うことは無い。

 ︎︎だから僕は誕生日という日に実感がなく、誕生日という日が嫌いだった。父さんからしても嫌だろう? 僕が産まれた日に近づくにつれ母さんが亡くなった日に近づいていて、再度゛もう居ない゛ってことを認識させられるんだから。


もしかしたら父さんは僕を見るだけでそう思っているかもしれない。だからあの家を紹介して……いや、さすがに考えすぎか。


「ありがとうございます、星乃先生。多分、星乃先生が僕の誕生日を祝ってくれる最初で最後の人です」


この学校に誕生日の人を祝うという風習がなければいつも通り僕は誰にも祝われることなく誕生日を終えていたと思う。来年になればもちろん先生が変わる、それにこのような風習は存在しているだけで必ずしないといけない訳でもない、大体の先生はやらないだろう。


「確かにやらない先生もいると思いますけど、この学校は殆どの人がやると思うので大丈夫ですよ」


「まぁ学校だけでも楽しむことにしますよ、家では楽しむことなんて出来ないですから」


家に帰ったところで琴歌さん達は僕の誕生日を知らないだろうし祝われることは無いと思う。中学校みたいに自己紹介カードみたいなやつに書いた訳でもないし僕の誕生日なんて知るよしもないはずだ。

 ︎︎だから誕生日祝われることなんていつも通りないし、祝われなくたって……僕は家に人がいて、話せるだけで十分だ。


「ちょっとお前、放課後にちょっと来いよ」


星乃先生が出ていったのを見計らっていたのだろうか、ちょっと星乃先生がいなくなったタイミングで僕に話しかけてくる一人の男子生徒が廊下にいた。


「いいよ、僕はずっと暇だからね」



§



「天さん、帰ってくるの遅いですね、何か学校の方であったのでしょうか?」


「天は私たちと朱里としか関係がないけど、問題に巻き込まれてるとしたら私たち関係だよ。この前ナンパしてきた奴が居たでしょ? 私たちと仲良くしてる天は他の男子からしたら嫉妬の対象だからね」


問題に巻き込まれてるとして、原因は琴歌じゃなくて絶対に私だね。私は今まで琴歌みたいに男子たちと話してきたわけじゃないからね、そんな私がいきなり一人の男子と話し始めたんだから当然のことかな。

 ︎︎天は小柄な見た目してるけど、ボコボコにされて帰ってきたりしなさそうなんだよね、逆にボコボコにしてそうだけど……まぁ何も起きてないのが一番いいけど。


「今日、天さんの誕生日をお祝いするつもりだったんですけどね。本人が帰って来ないとなると……」


「でも天は晩御飯を作るはずだから考えてる最悪の事じゃない限りもうすぐで帰ってくると思うけど」


天の事だし何も用事が無いのに帰ってこないってことは有り得ないだろうし、やっぱり何かがあったと考えた方がいいのだろうか。


「見に行きます?」


「やめといた方がいいよ、何か問題が起きてた時に私たちが来た方が面倒なことになると思う」


私たちはただ天が帰ってくるのを待つことしか出来ない。



§



───時は戻って放課後。


「ねぇ、僕なんかをわざわざ呼んでなんの用? やらないといけないことがあるから僕は七時までに帰りたいんだけど。それに、君は前に生徒指導室で反省したんじゃなかったのかな?」


僕は校舎裏に呼ばれた、喧嘩でもするのかは知らないがテンプレートだなとは思う。正直晩御飯を作らないといけないから七時までには帰っておきたいんだよね。


「面倒くさかったぜ、お前を呼んだのは他でもない……。さっさとあの二人から離れろ」


はぁ……、やっぱりそういう要件か。

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