第10話
朝は僕の方が起きるのが早いからいつも二人のことを起こしに行くんだけど、前までなら琴理さんと話せなかったから自然と扉を隔てて話していた。でも、今は普通に話せるようになったせいで僕はそのまま扉を開けてしまった、本当に間違った選択をしたと思う。
「入る時はノックしていただけると嬉しいです……」
「天の事だし悪意がないのはわかってるからほらさっさと出ていく」
琴理さんが珍しく起きてた、その上着替え中だった。すぐにこのことを忘れて切り替えよう、というか琴理さん……あんまり気にしてなかったな。
︎︎まぁ、普通に考えて同じ家に僕と二人が住んでいて何も起きないはずはないよね。
とりあえず弁当を用意しないとなー、一応同じ中身が入っていたら色々邪推されるし僕のと二人のは多少入っているものを変えている。一緒に食べるようになったし、その時に周りの人から見て僕の弁当と二人の弁当に入っているものが同じだったら気になるでしょ? まぁいつも一緒に食べてる食堂は結構広いし、端で食べていればほとんど誰にも見られないんだけどね。
「いつも起きるのが早いけどさ、天は何時ぐらいに起きてるの?」
着替え終わってリビングにやってきた琴理さんが僕にそう問う。
「弁当を作らないといけないから5時ぐらい、ちゃんと睡眠は取ってるし勉強もしてるから大丈夫だよ……多分」
「料理に関しては手伝うことが出来ないからどうすることもできないけど、勉強は手伝うことができるから分からないことがあったら私たちに聞いて。一応前の試験で私は四位、琴歌は一位だから」
まぁ僕だって頭が悪いわけじゃないし分からないことを聞くことはないと思うけど。三人で一緒に勉強することはあるだろうか? まぁそうなったら一番学力が低いのは僕になっちゃうわけだけど、別に置いてけぼりにはされないと思う。
「次の試験の時にお願いするよ、朝ごはんはテーブルに置いてあるから食べておいて」
「ん、ありがと。それで、琴歌が一緒に行きたがってるけどそのつもりは?」
「それは無理かな、見られでもしたら洒落にならないよ。それは琴理さんもわかってるでしょ」
琴理さんは琴歌さんが僕と一緒に行きたいという度に止めている。僕も本心としては一緒に行きたいとは思っているが僕と二人は一緒の家から出てきてはいけないのだ。
︎︎帰りなら一緒にそのまま遊んだとか言い訳ができるけど、通学の時は言い訳のしようがない。
琴理さんだって見られた時にどうなるかをわかっているから琴歌さんを止めているはずだ。
「僕は二人に迷惑をかけたくないからさ」
僕はできた弁当を琴理さんに渡しながらそう呟く、ただ僕が一人で学校へ行くだけでこの問題は解決するんだ、それならやることはもう決まってる。
「僕はずっと一人で通学する、帰りは一緒に帰れるかな?」
「ま、色々考えたらそれが一番いいんだろうけど……いずれ一緒に通学できるように気持ちの整理はしておいて」
つまり僕と琴理さん達が片親ということを明かし、親同士が再婚したという事を言うということだろう。まぁ、いずれはそうしないといけない日が来てしまう、早いうちに気持ちの整理はしておいた方がいいだろう。
「もう大丈夫だよ、僕は。琴理さん達がそうするのなら僕だって受け入れる、琴理さん達のお陰で僕は乗り越えることが出来たから」
「それなら良かったわ」と、外に出て扉を閉める瞬間に聞こえた気がした。あぁ、本当に良かったよ。
§
琴理さんと一緒に帰ってから、学校内でも変化があった。
今まで話しかけてこなかった男子が僕に話しかけに来るようになったり、僕が琴歌さんと話すことも多くなった。相変わらず朱里さんはずっと琴理さんと一緒にいたけどね。
「そういや、天っていつから月詠姉妹と仲が良かったんだ? 対して接点もなかっただろ?」
「琴歌さんは学校からそこそこ遠いところに元々住んでたらしくてさ、学校の近くに引っ越してきて道が分からない所に僕が偶然居合わせて道を教えてあげたってところ。その時はそれだけだったけど翌日に屋上でばったり会ってね、そこから仲良くになったかな」
琴歌さんと仲良くになればその姉である琴理さんとも関係ができた、と伝えておいた。琴歌さんと友達になった理由に関しては偽りではないが琴理さんと仲良くなった理由は話した通りでは無い。
「その道案内したのが天じゃなくて俺だったら月詠姉妹と仲良くなれたのかねー?」
「それは僕にも分からないかな、本当に偶然のことだし。屋上で会ってなかったら多分僕は昔と変わらず一人だったよ」
と言っても僕が琴歌さんと出会わなかったとしても父さんと琴葉さんが再婚することが決まっていたのでどっちにしろ琴歌さんたちと僕は出会うことが決まっていたのかもしれない。まぁそのことは言えないんだけどね。
「琴歌さんと仲良くなったのも、琴理さんと話すようになったのも本当に偶然が重なった結果だよ。そのおかげで僕は昔より楽しく過ごせてるからこれでよかったと思ってるよ」
「天の昔のことは知らねぇけどさ、今が楽しいのなら昔のことなんて気にしなくていいんじゃねぇの?」
「それもそうかもね」
過去に拘る必要はもう無いかな、過去に楽しい事なんてひとつもなかったし、今は楽しくこの日々を謳歌したい。
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