第9話

やっぱり僕なんかのところに人がやってくることなんてなかった。そりゃそうだ、僕が教室にいるようになったとしてもずっと本を読んでいるし誰も僕に興味はないだろう。

 ︎︎もし話しかけられたとしても、内容次第で僕はまともに会話するつもりは無いけど。


今はほとんど人がいないし琴歌さんに話しかけようと思ったけどやっぱり無理だ。僕に残り数十センチメートル近づく勇気があったのなら良かったのに、結局不自然に琴歌さんの前を通るだけだ。


「ねぇ天ぁ、ちょっと助けてくれない? 朝から質問攻めにされて結構きついんだよね」


助けろと言われても……僕と琴理さんが一緒に帰っていたのは事実だしなぁ。まぁとりあえず呼ばれたからには行くけど、というか行かないと後が怖いし。


「ボクの琴理を返してくれない?」


廊下に行ってまずそんなことを言われた、うん、訳が分からない。


「何回も言ってるでしょ私はあかりんの物じゃないし、一緒に帰ってたのはただの友達って。この子は私たちの幼馴染……なんだけどさ、昔からずっとこんなに調子なんだよね」


「仲がいい友達がいて羨ましいよ。僕は琴理さんの友達ってだけだから別に琴葉さんを取るつもりはないというかそもそも取れないよ。

︎︎ ︎︎僕にとって琴理さんは何メートルも離れてる存在だからさ」


あかりん、本名はあかりさんだろうか? 相当仲がいいことは見てわかるし、そういう点でも僕とは全然違う。根本的に僕と琴理さん達は違う、だから僕が琴理さんたちに追いつけることはないと思う。


「早とちりしてごめんね……。ボクは姫乃朱里ひめのあかり、今後何かあったらよろしくねっ!」


「うん、よろしく」



§



「お前、よく話せるな……」


「なんの事?」


急に知らない男子に話しかけられて少し驚いてしまったがとりあえず平然を装う。


「何ってあの塩対応の月詠姉と話してる男子なんてお前くらいだぞ。今まで話しかけた男子は変わらずきつい言葉でメンタルを壊されてきたのに、怖くないのか?」


なんかそういう姿を想像できちゃう自分がいる。確かに琴理さんは最初怖い人だと思ってたけど、今はもう違う。

︎︎確かにきつい言葉を使うし、塩対応っていうところも分かりはするけど、それ以上に琴理さんは優しい。

︎︎ ︎︎まぁそんなあだ名? が付いてるってことは普段から最初僕にみせた対応をしてるんだろう。理由は今まで男子達と関わることがなかったからだろうね、見知らぬ物は自分の身に近づけたくないのが当たり前だし。


「案外話してみたら優しい人だよ、琴理さんは。塩対応だとは思うけど君や他の人が思ってるより琴理さんは怖くないと僕は思うかな」


「まず話しかけれないから困ってるんだよなぁ……。周りに女子が集まってるかは近づくこと自体難しいんだよ、その分月詠妹は男子である俺も話しやすいけど」


琴理さんってボーイッシュなイメージがあるしどちらかと言うと男子より女子に好かれそうな感じではある。実際朱里さんの事例を知ってるし、確かに女子たちの中に男子が一人入り込む隙間はないよね。

 ︎︎逆に琴歌さんの周りは男子も女子もバランスよくいる気がするかな。


「呼びました? さっき朱里さんと話してましたよね?」


「琴歌さんたちの話はしてたけど呼んではないかな」


よく考えたら僕は噂が立たないように学校では琴歌さんたちと関わらないようにしてたけど、今となっては学校でも普通に話すようになったよね。噂は立ったものの別に偏向報道されてる訳じゃないし、僕が琴歌さんや琴理さんと話していても誰も文句を言う人はいなかった。

 ︎︎それだけで僕は昔と同じじゃないんだって思える。


「最近天さんはお姉ちゃんばかりと話していますよね? 私とも話してくれていいんですからね?」


その発言、グレーラインじゃないんですか? 同居してることはもちろん言うわけにはいかないだろう、琴理さんばかりと言っているがそれは家でのことを含めた上でのことで学校だけなら琴歌さんの方が話している、だって同じクラスだから。


「クラスが一緒なんだからいつでも喋れるでしょ。琴理さんはクラスが違うんだから仕方ないことにしてくれないかな?」


「今はそういうことで納得しておいてあげますけど、天さんと最初に仲良くなったのはお姉ちゃんじゃなくて私なんですからね?」


「わかってるよ、また後でね。そういえば君の名前は?」


そういえばさっきから話してたけど聞いてなかった。


「名乗ってなかったか、俺は湊、天咲湊あまさきみなとだ。まぁよろしく頼む」


「よろしく」



§



今日は琴理さんではなく琴歌さんと一緒に帰ることになり、琴理さんは朱里さんと一緒に帰るらしい。学校内で話すのはもういいけど、一緒に通学したり下校したりするとは避けたいんだよね、もし誰かに見られていた時に面倒だし。


「琴歌さん、もしかして嫉妬してる?」


「そ、そんなことないですよ。私が先に友達になったのにお姉ちゃんの方が天さんといっぱい話しててずるいなんて思ってませんからね?」


「完璧な説明どうもありがとう。そんな心配しなくても僕は居なくならないからさ、話したい時に琴歌さんから話しかけてくれればいいよ」


話しかけてもらう理由はまぁ、念の為の保険的なやつだ。もしかしたら僕が話しかけていることをよく思わない人もいるかもだし。

 ︎︎琴歌さんから僕に話しかけて来たのなら他の人も文句を言いずらいと僕は思っている。


「なら明日から一緒にお昼、食べましょうよ」


「いいよ、まぁ特別感は無いけどね」


「ふふ、確かにそうですね。明日も楽しみにしていますよ」


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