第8話

僕はいつも通りまだ誰もいないような時間に出たので琴歌さんたちと同じ家から出てきたことは誰にも見られてないだろう。最悪見られてもいいが、怖いのが半分、説明するのが面倒くさいのが半分で正直なところは今のままであって欲しい。


教室には誰もいないと思ったけど普通に先生がいた。


「いつも来るのが早過ぎないか? 生徒が来る前の点検をしてる時にはもう君は学校に来ているじゃないか」


「誰もいない時に来た方がゆっくり本を読めますから。それに琴葉先生は僕がどんな人か知ってますよね? 僕がずっと一人でいる理由だってだいたい予想してるんでしょう?」

「まぁ同じ境遇ゆえに中学時代にどんな事をされてきたかは予想できるさ。娘たちだって君と同じ思いをしてるさ、結局は自分が気にしなかったら良いだけだ。ま、友達を作ろうとすればいい、その過程で何か問題があったら私に相談してこい」


親が先生って何もされてなかった小学生の頃は嫌だと思ってたけど何かされたら相談がスマホで出来るって魅力的だなと思ってきた。まぁ僕は連絡先を交換してもらってるので学校で相談することはほとんどないと思うけど。


「琴理は最初、君のことを拒絶してたがそれは今まで男子と関わったことがなくて警戒してるだけだ。嫌われてるとかじゃないから安心していいぞ、多分ご飯とかを作ってあげてるうちに仲良くなるんじゃないか?」


「適当ですね……。警戒する気持ちはよく分かりますよ、今まで知らなかったものを知ろうとするのは怖いですよね」


まだ友達がいた頃、その友達のことを知っていくうちに僕のことも相手に知られて、片親のことがバレた。そこからはずっと前から言っている通りだ。


「まぁまずは娘たちと仲良くするといい、そこから段々と友達を増やしていけばそれでいい。何も急いでやる必要は無いんだ、ゆっくり関係を築いていけばいい」


「僕も頑張りますよ、変わるって決めたので」


先生が教室から出ていったのと同時に琴歌さんが中に入ってきた。


「おか……先生と何を話していたんですか?」


「昔の話だよ、琴歌さん達も関係してるのかな。でも気にする必要はもう無いかな、琴歌さん達にとってはとっくに乗り越えられてることだろうからね」


僕と琴歌さん達は同じ境遇でも琴歌さん達は双子だから、辛い時も二人で乗り越えて来れたんだろう、でも僕は一人だから乗り越えられなかった。別に環境に対して何か文句を言いたいわけじゃない、ただ僕にも兄か姉が居たら乗り越えられていたのかなと思うだけだ。


「乗り越えられたのも全てお姉ちゃんのお陰ですよ。お姉ちゃんが居なくて私が一人だったのなら乗り越えられてなんていませんでした」


「やっぱり周りにいる人っていうのは重要なんだね。僕は一人だったから今も気にしたままだ、だから琴歌さんが僕のことを助けて欲しいんだ」


「私で良ければ喜んで助けになりますよ。天さんの気持ちはよく分かりますから」



§



周りの目のことがあるので僕はいつも通り一人で帰ろうとしたのだが琴理さんに捕まえられた。それと結構最悪なことに琴歌さんは不在、つまり僕も琴理さんの二人きりである。


「琴理さんが琴歌さんと一緒に帰らないなんて珍しいね。それで、僕と一緒に帰る理由は何かな? 琴理さんからしたら望んでなさそうなことだと思うけど?」


「最初に強く当たりすぎたことは謝るわ、私だって天の境遇を共感できないわけじゃない。いつまでも過去に囚われたままで居たら辛いのは自分だから」


「何が言いたいの?」


「過去を乗り越えるサポートを私たち姉妹がしてあげるってこと。ご飯とか作ってもらってるし、その対価? みたいな」


僕にとっては非常に助かる提案だけど……本当に信じていいのだろうか?昨日までバチバチに僕のことを嫌ってた人が急にこんなことを言ってきて信じろという方が難しくないかな? まぁでも、その対価は僕が先に払ってるようなものだし大丈夫……かな。


「具体的にはどうするつもりなの?」


「私たち三人で過ごせばいいでしょ。人によっては確かにバカにしてくるやつも居るけど、それは本当に片親ってことをバカにしてると思う? 私はそうじゃなくてかってところを見てると思うから。天が片親ということをバカにされてる時、私や琴歌も片親と言った時にそのバカにしていた人達は私達も同じようにバカにすると思う?」


「まぁ、しなさそうだよね。バカにするのは僕だからかもしれない」


確かに琴歌さんたちが片親だとしても僕をバカにしてた時と同じようには絶対しないと思う。三人で一緒にご飯を食べてたとして、僕を馬鹿にする奴がいたら琴理さんに(言葉で)ボコボコにされるんだろうなぁ。


「そもそも高校にそんな人はいないと思うけど、三人で一緒にいればたとえバカにされたとしても返り討ちにできるから。それで楽しい思い出を作っていけば昔の嫌なことなんてすぐ忘れるでしょ」


「まぁそれはそうかもね、今までは思い出を作る相手がいなかったし試してみる価値はあるかも。それでさ……他の生徒に見られたし、多分明日大変だよ? 主に琴理さん方」


「別に私は上手くやれるから。逆に天も言い訳は考えて置いた方がいいよ、天の所に人が来ないって決まったわけじゃないから」


と言っても大半は琴理さんの方に行くだろうし、僕はそこまで気にしないでいいかな。一応人が来た時のために言い訳は用意しておこうかな。

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