第5話

集まるのは晩だし今は昼なので自由にしてていいと言われても普通にやることがない。この家には元々ゲームが置いてあるけど使い方分からないし、持ってるスマホの中にも暇つぶしできるようなものは無い。

 ︎︎本棚にある本はなんか仕事関係の物なのかな? 僕には到底理解できなさそうなものばかりだ。


「そういえばスマホで小説読めるんだったけ。他にやることないし面白そうなやつを探して読んでおこうかなぁ」


スマホで適当に小説サイトを開いて、その中から面白そうなものを探すために週間ランキングをスライドして見ていく。


やっぱり異世界ファンタジーとかラブコメの小説が多いんだなぁ……と画面をスライドしていくと、周りとは全く違う、1つの小説を見つけた。


『どうして人々は、自分の存在が他人より価値があると証明したがるのだろうか? 存在していること自体、価値があり、素晴らしいことなのに。

 ︎︎それを全ての人々が理解出来れば何かをめぐって人々が争ったりすることはなかったのだろうか。救われる命もあったのだろうか? ただ、救われた命は何も重荷を感じずに生きていけるわけじゃない、救われた側も、決して楽ではない。

 ︎︎言えるとしたら世界は1つの舞台に過ぎない。誰かが泣いて演じる舞台より、みんなが笑って演じる舞台の方がいい。

 ︎︎なぜなら、笑うことが出来るのは僕達人間だけなのだから。』


あんまり意味はわからない、僕には理解出来なかったけど深く心に刺さった。世界は……この人の言っている通りなのかもしれない、僕はずっと不幸なんだと思ってた。

 ︎︎母親がいなくて馬鹿にされる毎日だったり、幸せなんて思ったことなんてなかったけど……世界には僕よりも不幸な人がいて、産まれることすらできなかった人もいる。


だから今を生きてるだけで幸せなんだって、そう思えた。確か、僕が中学を卒業する時に父さんもこの人と似たようなことを言ってたよなぁ。


「やる事ないとか言ったけど勉強があるじゃん。20位以内には入っておきたいし遅いかもしれないけど今から本気で勉強しないと」


さすがに入試の順位から下がりすぎるのは良くないし、先生からも期待されちゃってるからなぁ。まぁ勉強時間が取れないから下がるのは確定してるし、その下がり幅を極限まで抑えないといけない。

 ︎︎そうじゃないと目的のためにこの高校に進学した意味が無くなるからね。


そういや今回のテストは7教科で国、英、数A、数Ⅰ、理、社、保健体育。テストまで2週間ぐらいある訳だから一教科に2日間のくらいの勉強時間が割り当てれるかな。

 ︎︎他の人はもっと前から勉強を始めているだろうし、1桁順位には入れないだろう。


「まぁやれることをやろうかな」


僕は他の人より勉強が遅れてるだろうし、目標の順位を取るためには他の人よりの倍は頑張って勉強時間しないと。いい大学に入って父さんの負担を減らすために早く有名企業に就職したい、そのためには高校生の時点でそれなりの成績を取っておかないといけないのだ。


父さんならそんなこと気にしないでと言いそうだけど、ずっと迷惑をかけてきたんだから意地でも目標は達成する。僕だって母親が産まれた時にはもう居なかったことで散々馬鹿にされたし、嫌な目にもあった。

 ︎︎だけどいちばん辛かったのはその母さんが亡くなる瞬間をまじかで見ていた父さんのはずだ……だから僕は、僕のために働いてくれてる父さんの負担を少しでも減らしたいとずっと思ってる。


高校になったらバイトをするという話もしたことがあるが、学生のうちはそんなこと気にせず自由過ごしとけばいいんだと言われた。『過ぎた日々や事はもう戻らないからな』という含まれた言葉と共に。


「人に命じられた自由はある意味不自由じゃないかな?」


本当の自由というのは自分がしたいことを誰にも邪魔されずすることなんじゃないのかな? 父さんは僕にそんなことを気にせずに自由に過ごしてほしいと言うけど、僕はそのことを気にして父さんのために過ごしたいと思ってる、果たして本当に自由だと言えるのはどっちなのだろう。



§



勉強を始めてから何時間たったか分からないが、父さんが帰ってきたので勉強道具を片付けて上着を着て鞄を背負った。


「というかよく考えたらどこで集まるのかも僕は聞いてなくない?」


「はは、だから俺が天の家まで来てるんだ。用意も出来てるようだし集合場所に行くぞ」


僕はどこで集合なのか知らないので父さんについて行くしかないのだ。そのまま着いて行ってしばらく歩いていると見たことの無い店の中に入って行った。

 ︎︎そして予約をしていたのかそのまま席に通してもらったが、まだその相手の人はいない。


まぁとりあえずは来るまで待っておけばいいのかなと思ったが、そんな必要はなくすぐにその人たちはやってきた。


「こっちだ」


父さんが声をかけた方を見ると、見た事のある黄緑色の髪の女性と少女、そして知らない少女が一人そこには立っていた。


嘘でしょ? 現実的に考えてこんな偶然有り得るの……?

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