第3話

琴歌さんが同じクラスだと分かったとしても、僕がやることは変わらなかった。朝早くから来て本を読み、他の人が来る時間に屋上に向かう。

 ︎︎せっかく琴歌さんと友達になったが琴歌さんの周りには他の人が居るし、そもそもまだ来ていない。


僕と琴歌さんだけしかいなかったら普通に話していたんだろうけど、周りの人が見ている中で9割に人気者と決まっている琴歌さんと話せる気はしない。今日はどうしようかな……いつもみたいに屋上に行くか、変わるためにも教室で本を読み続けるか。

 ︎︎そんなことをずっと悩んでるうちに他の人が来始めてしまった、さすがに今から屋上に行くのは無理かなぁ……。


段々と人がやってきて仲のいい人同士で話し始める。琴歌さんは色んな人に囲まれて話してるけど……楽しくは無さそう、言ってた通り友達ではないんだと思う。

 ︎︎お客さんの要望に対応してるかのような……少なくとも琴歌さんが望んで周りの人達と話しているわけじゃない。


(そういえば明日かぁ、お父さんの再婚相手とその子どもに会う日。境遇は僕と同じわけだし仲良くしたいけど、会うことは明日だけかもしれない)


どんな人だったとしても僕の義妹か義姉になるわけだしそこそこの関係を作ってはおきたいが、相手の情報は全くない。性別も、年齢も何もかもまだ分からないのだ。

 ︎︎2人の子どものことをお父さんも知らないってことはまだこの街というかお父さんの家に引っ越してないのかな?


まぁいいか、授業が始まりそうだし本を片付けて準備するとしよう。何回も思ってるがどうせその人達と関わることはほとんどないんだから。



§



時間は過ぎてもう辺りも夕日に染ってきた頃、僕は一人で教室を掃除していた。まぁ当番制と決まっているし今日は特に用事もないので暇つぶし程度に掃除をしている。


「あれ、琴歌さんはまだ帰らないの? 何か教室に用事でもある?」


「いえ、用事では無いんですけど……ただみんなが面倒くさがってる掃除を天さんは一生懸命やってて凄いなぁと。それで一人でするのも大変でしょうし私も手伝おうかと」


「今日の掃除は僕の役割だから琴歌さんが手伝う必要は無いよ。それに僕と違って家に待ってる人がいるんだから早く帰ってもいいんだよ?」


僕は一人暮らしで家には誰にもいないし補導される時間じゃなければどれだけ遅く帰っても何も言われないけど琴歌さんの家には親も居て、姉もいる。だから早く帰った方が心配させずに済むと思う。

 ︎︎多少遅れるくらいなら問題ないかもしれないが、遅い時間に帰るというのは危険が伴う、僕みたいな男子ならほとんど関係ない話だと思うが琴歌さんのような女子ならそういう輩も出てくるかもしれない。


それに琴歌さんは僕みたいに家が近くないんだから尚更早く帰るべきである。


「女子が遅くに帰るのは危険だよ、僕は家が近いから大丈夫だけど琴歌さんはそうでも無いんでしょ?」


「そうですね……少し学校からは遠いかもしれません」


「なら早く帰った方がいいよ、この街の治安が悪いって言うわけじゃないけどそういうことがないとは言いきれないからね」


僕は琴歌さんに帰るように促して、琴歌さんは手伝うと言い続けていたが最終的には琴歌さんが諦めて帰ってくれた。まだ春で暗くはないのでこの時間ならまだ大丈夫だろう、これが冬ならもう暗いし逆に掃除が終わるまで待ってもらって家に送ってたと思う。

 ︎︎まだ出会って間もないが遅い時間に一人で琴歌さんが帰るのは心配する、2人で帰る方が安全だ。


「琴歌に帰るように促してくれて助かったよ」


まだ学校に残ってる人がいるのか、声のする方を見てみると誰かが壁にもたれているのは見えたが顔は確認できなかった。少なくとも琴歌さんを知ってる人だというのは間違いない。


「君の言った通り夜に1人で帰らせるのは危険だと思うさ、でもそれは女子だけじゃなくて男子である君も同じだぞ。あなたも掃除が終わったら早く帰ることだな、生徒を指導する側として危険な目にはあって欲しく無いからな」


琴歌さんを知ってる人というかそもそもこの学校の先生だった。まぁ顔を見せないのは気になるけど、とりあえず生徒指導の先生の言うことは聞いておかないと後々が面倒だ。



§



結局あの先生は僕が掃除を終えるまでずっと居て、帰りは僕を見送ってくれた。まぁ最初になんで顔を隠していたかは不明だが。

 ︎︎先生は目付きが鋭くて、女っ気のなく、姉御肌で僕が離れた後にタバコを吸っていた。


まぁ生徒指導の先生だし頼もしい人なのかな? 普通に警察をやっていてもおかしく無さそうな感じがするけど。警察は副業できないことは無いけどかなりの制限があるらしいしありえないんだけどね。


(ちゃんと寝れるかな……。子どもみたいだけどいつも後日に何かある時は眠れないんだよねぇ……)


まぁ明日は土曜日だし集まるのは晩だから、あまり寝れなくても昼に1度寝てから向かえば表情には出ないでしょ。


関わる時は少なくとも新しい母親と、義妹か義姉と出会うのが楽しみだ。僕はずっと一人だったからその二人の子供と仲良くできるといいな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る