第2話

昨日は無事腕が死んでしまったが僕は部活をしてないし書くことに対してはあまり支障はないので助かった。普通にあの量を持って帰るのが僕にとってもはや筋トレだし、本音を言うと自転車が欲しい。

 ︎︎まぁ通学使うという訳でもないし買い物の時しか使わないだろうから買おうにしても使う頻度的な問題で無駄になりそうで怖いんだよね。


家が近いので僕が学校に来た時はまだ誰も教室に居ない。騒がしい男子たちも、何かとコソコソ話が好きな女子もいない、僕は誰もいない教室で誰にも邪魔されずゆっくりと本を読むために家が近いのにも関わらず早くから学校に来ている。

 ︎︎中学の時とは違って本を読んでることをからかってきたりする人達は居ない、ここの人達はそういうことをしてこないけど……まだ完全に信用しきれていない自分がいる。


既にこの高校に来てから1ヶ月だけど、僕は言ってしまえばずっと一人でいる。一人になるのはいいけど前の時みたいに独りになるのは避けたい。

 ︎︎だから余計なことはしない、自分から話しかけたりするようなことはせずに向こうが話しかけるのを待つ、まぁそんなスタンスだから今も友達が居ないのかもしれないが。


「そろそろ他の人が来ちゃうか、屋上にでも行こうかな」



§



僕は他の人が来る時間になったら屋上に行く、だから僕が教室にいる時間は授業の時ぐらいだしご飯だって誰もいない穴場スポットで食べる。まぁやってることは典型的な陰キャだね。


「はぁ、さすがにこのスタンスもやめた方がいいのかな……ん?」


こんな早くから屋上にいるのは誰だ? そもそも屋上自体が昼ごはんを食べる時にしか使われないのにこんな早くから来る人なんて僕以外いないと思ってたんだけどな。誰かいるなら戻ろうとしたけど運悪く置いてあった物を倒してしまった。


「誰かいるんですか?」


こちらに振り向いた少女は昨日薬局に案内した少女だった。まさか同じ学校だったとは……元々少し遠いところから電車通学だったということか。

 ︎︎って思い出した、見たことあると思ったのはこの少女が入学式で代表挨拶をしていたからだ。


「って昨日案内してくれた人じゃないですか、同じ学校だったんですね。あなたは何しにここへ?」


「僕はいつもこの時間にここへ来てるんだよ。友達もいないし、教室も居心地が良い訳でもないからね。逆に君は?」


というか彼女は僕みたいに1人じゃなさそうだし、どちらかと言えば僕と真逆で色んな友達がいて慕われていそうである。代表挨拶をするほど頭が良くて、誰が見ても口を揃えて美少女というだろう容姿を持っている彼女が僕と同じなわけが無い。


「お姉ちゃんが風邪で休んでて、それで話し相手がいなくて暇なんですよ。周りの人達は友達とはちょっと違う気もしますし……」


その周りの男子も女子も何かしらの目的を持って彼女に近づいているのだろう。男子だったら付き合うため……とか? 女子の場合はよく分からない、僕は女子じゃないし。


「そういえばまだ自己紹介をしてなかったですね。月詠琴歌つくよみことかです、あなたは?」


三月天みつきそら、友達は0だよ。そもそも作ろうと思ってないしね」


そういえばこの学校に通い始めて、誰かと話すのは琴歌さんが初めてだ。


「友達が居ないと寂しくないですか? 話し合うのともできなくて、一人で居るのは」


「僕はずっと一人だったからもう慣れてるんだよ。友達が居ない今は友達が居た昔に比べたらよっぽど過ごしやすいよ」


この高校で友達を作って中学と同じようになるかと聞かれたら分からないが、中学と同じようになるかもしれない。可能性が少しでもあるから過ごしやすい一人を選んでいる。


「私が天さんの初めての友達になってもいいですか?」


「……一つ、とある事だけを秘密にさせて欲しい。僕の家族のことについては絶対に聞かないで、それだけを守ってくれればいいから」


「分かりました、それじゃあ今から友達ですねっ」


普通ああいう言い方をすれば気になると思うが素直に言うことを聞いてくれた。やっぱり中学の時とは違うんだなと思った。

 ︎︎でも本当に申し訳ないけど琴歌さんを完璧に信用したわけではなかった、家族のことを知った時にあいつらと同じことは性格的にしないと思うけど、離れていくかもしれないし。


「そろそろ時間なので戻りましょうか、さすがに遅刻はまずいですから」


「……そうだね」



§



僕が教室に戻った頃には当たり前だがほとんどの生徒は教室の中にいた。僕はなるべく誰の邪魔にもならないように自分の席に戻る。


よかった、何も書かれてない。普通は書かれてないことが当たり前なんだけど、一度同じシチュエーションでやられたことがあるとどうしても身構えてしまう。

 ︎︎僕は中学の頃も今と同じように屋上に行っていて、帰ってきた時に机の端にとあることが書かれていたから今もこうして確認してるというわけだ。


(さすがに高校にもなってそんな陰湿なことをするやつはいないか)


席に座ると僕より先に教室に戻っていた琴歌さんがこちらに向かって手を振っていた。


ここまで偶然って重なるものなんだね。道案内した少女が同じ学校の生徒で、しかもクラスまで一緒なんて。

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