第3話 henntai?
☆(矢島幸太郎)サイド☆
俺はクラスメイトに挨拶して教室で椅子に腰掛ける。
それから教科書を出していると目の前にいつもの様に女子がやって来る。
女子の名前は前田菜穂(まえだなほ)だった。
笑みの絶えないふんわり系の女子。
短いストレートの髪をゆるふわにしているからであるが。
俺の友人である。
クラスの.....そうだな。
いわゆるムードメーカーというやつである。
「おはよう幸太郎」
「菜穂。おはよう」
「.....聞いたよ?例の件」
「.....!.....そうか」
「うん.....大変だったね」
「まあ人生にはそういうスパイスも必要って事だろうと俺は思う」
そんな俺の言葉に「そっか」と言いながら目の前の椅子に腰掛ける菜穂。
前の席の人はまだ来てない。
俺はその姿を見ながら柔和になりつつ教科書やノートを取り出した。
それから菜穂を見ると。
菜穂は俺を見ながら唇を噛んでいた。
「でも幸太郎の心を弄ぶなんて.....」
「菜穂。気持ちは分からんでもない。.....だけど人生経験だよ。痛い費用だけどな」
「でも君は良いのこれで?弄ばれた感じだよ?復讐とか.....」
「逆にそうだな。復讐してどうなる?俺は悪人になりたくない」
「それは確かにそうだけど.....」
「俺は復讐はしないよ」
そう宣言しながら家の事を考える。
そうだ。
あのクソ親父みたく.....。
考えながら「俺は復讐なんてつまらない事をする時間が勿体無いしな」と菜穂にそのまま答えた。
「確かにお家の事は知ってる。君も大変だって思うけど」と菜穂は俺を見てくる。
(でもそれが本当なの?)という眼差しでだ。
俺は目線を横に向けた。
「でも.....二重苦だね」
「そうだな.....まあ本当に最悪だよ」
「.....」
「幸せなんて程遠いと思っているしな。.....まあもう慣れたけどな。あっはっは」
「.....良いのかな。そんな事で.....」
菜穂はまた眉を顰める。
それから「今回の件は本当に私も衝撃だった。何でそんな真似をって思ったしね」と答えてくる。
その言葉に「まあな」と返事をした。
そして肩をすくめる。
菜穂を見た。
そんな菜穂は「私は何も救えなかったね」という感じで悲しげな顔をした。
俺は首を振る。
それから菜穂をまた見た。
「だけど.....アイツがマズイって言ったのは最初はお前だったよな。.....その忠告を受ければ良かったんだな」
「私もその時点で強く言えば良かったんだって思う。貴方は何も悪くない」
「凄いカンだな。お前」
「知らない?女の子っていう生き物はめちゃめちゃカンが鋭いんだよ。それって身を守る為だって聞いた事があるような気がするけど」
「そうなんだな」
「そうだね」
言いながら笑顔になる菜穂。
俺はその顔を見ながら柔和になった。
それから教科書を引き出しの中に仕舞ってから俺はまた菜穂を見る。
そして「お前の様な人と付き合えたら良かったのかもな」と言葉を発した。
すると菜穂の顔は少しだけ深刻な顔になる。
そして皮肉混じりな感じで自嘲する。
「私は全てが呪われているから。.....付き合えても楽しくないよ。家族もそうだけど」
「それか。.....でもお前のせいじゃないだろ。妹さんが亡くなったのは」
「いや。全部私のせいだよ。.....私が.....というかこの手が.....ね」
「.....」
俺は菜穂を見つめる。
そして考え込む。
そんな菜穂は「またこんな話を。ゴメンね。君の今の心理状態で言うべきじゃないね」と目線をずらす。
俺はそんなずらした菜穂の目をジッと見た。
「あの様な大規模な災害はどこでも起こる。お前のせいじゃない」
「本当に君は優しいね。幸太郎」
「いや。優しいじゃないぞ。ただ防ぎようがなかったんだ。間違いなく。幼い力ではその話は限界に近いと思う」
「そうだけどね。でも私.....多分PTSDみたいになってるから」
「.....」
積み上がった教科書を見ながらクラスメイトを見る。
それから考えつつさっき売店で買った紅茶を取り出す。
そして「まあ菜穂。これでも飲んで落ち着け」と笑顔になる。
その言葉に菜穂は「え?受け取れないよ」と慌てた。
「お前と一緒に飲もうって思っていたものだ」
「そんな事の為に買ってきたの?君も傷が.....」
「あくまでこれは友人を励ます為だから」
「.....本当に変わらないね。君は」
「苦痛に歪むお前を見るのは嫌なだけだな。友人というお前がな」
菜穂はその言葉に目を潤ませる。
それから「君がそう言ってくれるだけ私は報われている」と言いながら大粒の涙を人目も気にせず流し始める。
そして紅茶を飲んだ。
俺は様子に「ハンカチあるか」と聞くと。
菜穂は「うん」と返事をしながら涙を拭い始めた。
それから涙を拭った。
菜穂の妹さんの名前は前田祈(まえだいのり)さん。
当時はまだ5歳だった。
この街の台風による大災害の犠牲者である。
より具体的に言うと台風による土砂崩れの被害者だ。
菜穂は家に帰って助けられなかった事を今も悔やんでいる。
10年近く経ったがずっと。
その心の傷は癒えないという。
それから治療の為に精神科に通っている。
俺は友人として常に寄り添ってやっているのだが.....なかなか。
精神科の医者じゃないし.....難しい。
だけど俺はそれでも菜穂に寄り添っている。
それは菜穂が大切な人(友人)だからだ。
この関係は一生続くだろう。
思っていると菜穂は「ん」と言い出した。
「.....?.....菜穂?」
「あ、い、いや。なんでもないよ」
「?」
よく分からないが菜穂の顔が赤くなっている。
熱でもあるのかコイツ?
だとするなら大変だが.....大丈夫か?
思いながら俺は菜穂を見た。
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