醜悪宿

ボウガ

第1話

ある高齢男性が経営する宿。開かずの間でも何でもない二階の端の部屋で時折心霊現象にあう人間が後を絶たないという。


ある心霊好きの男性がその部屋へ何度も無理をいって泊まったが、しかし、何も起きる事はなかった。経営者の老人は、自分が何度もそこに出入りをするのに、怪しがる気配もなく、また、無駄な事をと、つんとするような顔をするだけだった。


これは何かを知っているな、と思った男は、そこへ泊るたびに聞き込みを開始した。なるべく怪しまれないように、旅館の評価サイトと嘘をいって話を聞き出す。

そこである噂が集まってきた。


どうやら、お客さんの側が望まない限りは、あの老人はあの部屋を自主的にはあまり勧めないらしい。特に女性一人の場合は、決しておすすめはしないし、お客さんが望んだとしても、別のほうがいいと断る。しかし例外があって“老人にいいよられた故女性”に限り、あの部屋に泊められることがあるらしい。そうした場合かならず、恐ろしい目にあうらしい。


あの老人、女性一人で宿泊とみるや、スキをついてやれ自分と友達になれだの、一緒にすごそうだの気味の悪い事をいうそうだ。


相手の女性が強く否定すると、

《私は一人で、男が経営する宿に来るなど危ないと伝えたかっただけだ》

とか

《ただの冗談だ》

だのいうらしい。そうしてその女性がまた宿に泊まる事があれば、例の幽霊の出る部屋をおしつけ、痛い目に合わせる。


 幽霊の出る部屋のある宿。かつ経営者の気持ちの悪い噂、そんな噂があっても、宿に来る人がいるのが不思議だが、件の部屋は二人以上なら何もないし、男がとまってもなにもない、宿の食事がおいしく、番頭やシェフが有能らしく食事がおいしいからなんとかやりくりできているようだ。


男性は、どうにか彼らの中に話の通じる人はいないかと、シェフをほめるついでに厨房をのぞかせてもらい、その中の料理人一人と仲良くなった。


そして聞いた話が、恐ろしいものだった。どうやら、あの幽霊が出る部屋は、経営者の奥さんが自殺した部屋だったのだ。それも、若いころやんちゃをしてほうぼうに女をつくった経営者に嫉妬し、怒り、恨みなくなった部屋だった。


というのもその部屋自体、かつては開かずの間として物置のように利用していて、それをいいことに、そこで経営者は不倫を重ねていたというのだ。しかし、奥さんの死後、そこを使うと幽霊がでる。そればかりじゃなく相手の女性が不幸になると。


その開かずの間を利用し始めたのは、彼が老いて女性に相手にされなくなってからだった。若いころはかっこよく女性にもてたが、まったく女性に相手にされなくなること、自分を振った女をうらみ、あの開かずの間に泊めることにしたのだ。


 真相をしった男は、それじゃ自分は幽霊は見られないじゃないか、と拗ねて、もうそこに泊まる事はないだろうと、経営者の老人にあの部屋の事を詳しく尋ねると、老人はお茶を濁していた。

「私はそんな悪人じゃありません、妙な噂に流されないでください」

 という、男性は幽霊の執着もすごいが、やはり幽霊をうまく利用する老人のほうが恐ろしい宿だと思うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

醜悪宿 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る