第3話 浩二との距離を縮めよう

 浩二との距離を縮める方法を訊くため、ブラコン仲間の由真ゆまちゃんに電話する私。


「…もしもし」


すぐに出てくれてラッキ~。


「ごめんね由真ちゃん。急に電話して」


「ちょうど兄さんがバイトしに家を出たところだから良いよ」


それって、お兄さんが家にいたら出てくれなかったの…?


「そんな事より、用件は何? 奈々?」


「あのさ~。どうやって浩二との距離を縮めれば良いかな?」


「弟君の相談か。アタシは1回も会ったことないんだから、アンタのほうが詳しいはずだけど?」


「そうなんだけどさ~。由真ちゃんがお兄さんと仲良くしてる秘訣を活かせると思ったんだよ」


「なるほどね。…アタシがよくやってるのは、兄さんがいない間に部屋に入る事よ」


「部屋に?」


「そう。入ったら本棚をチェックしてみて。見た事がない本があったら、それに興味があるって事じゃん? 後はそれについて語れるように話を誘導すれば…」


「楽しいおしゃべりができそうだね!」

それなら浩二との距離は縮まりそうだけど…。


「わかってるじゃない。…言うまでもないけど、勝手に入ったのがバレないようにしなさいよね。バレたら何をやっても無駄よ」


「良いアイディアだけどさ~、私には厳しいかも。浩二に『これからは変な事しないでね』って釘を刺されちゃったし…」


「アンタ何やったの?」


「自慢の勝負下着を浩二の部屋の前に置いたんだけど…」


「…あはは、何それ!」

電話口で由真ちゃんが大笑いしている。


いくら何でも笑い過ぎだよ! 私は真面目に浩二の気を引こうとしたのに…。


「奈々、一気に距離詰め過ぎだって。弟君がそう言うのも納得だわ」


「だったら、由真ちゃんはお兄さんとうまくいってるの?」

好き放題言われてイラっとしたから訊いてみた。


「いってるよ。アタシはアンタみたいにせっかちじゃないから、お酒を飲める時まで我慢する気なの」


「そうなの?」


「うん。それまで気兼ねなく話せる関係を維持しておいて、2人きりで飲んでる時に襲うつもりだから♡ 兄さんも酔ってれば、正常な判断はできないでしょ」


私と由真ちゃんは高2だから17歳になる。由真ちゃんのお兄さんは2歳上の19歳らしい。つまり、2人は最短3年後にHすることになるね。


でも私の場合はもっと長い。浩二は16歳だから、彼が飲酒できるまで4年もかかる。4年も待てる訳ないよ~。今すぐりたいぐらいなのに。



 「由真ちゃん、私にはそのプランは無理。スピード重視が良い」


「そうすると、嫌われる可能性が高くなるけど良いの?」


「それは…仕方ないかもね。確実さを重視するなら由真ちゃんの方法が良いと思うけど、私には合わないよ」


「合わない事を無理にやっても辛いか。…じゃあ、弟君と一緒に温泉に入るのはどう? リスクはあるけど、リターンもそこそこあると思う」


「浩二と温泉? 今時混浴できるところなんてないでしょ?」

私は大歓迎なんだけど…。


「それがあるのよ。あんたの近所に『千夏と千春』という銭湯があるらしいじゃん? そこでやってるらしいよ」


銭湯に行く機会がないから知らなかったけど、あそこにそんなサービスがあるんだ。


「それにしても、由真ちゃんよく知ってるね? もしかして常連?」


「違うわよ。アタシもアンタみたいにスピードを意識したことがあるから調べたの。だけど誘う口実が思い付かなくてね~。念のため頭の片隅に留めたことが、奈々の役に立つとは…」



 浩二と一緒に温泉…。裸の付き合いは、親睦を深めるのにうってつけだよね。だけど由真ちゃんと同じように、誘い方がまったくわからない。


仮に家の給湯器が壊れたとしても、男湯・女湯に入って済んじゃうだろうし…。う~ん、どうすれば良いの~?


「…今のところ思い付くのはこれだけね」


「わかった。アドバイスありがとね、由真ちゃん」


「気にしなくて良いから。それじゃ、バイバイ」


「バイバイ」

私は由真ちゃんとの電話を切る。


浩二を誘う前に、私1人で銭湯の下見をしてみよう。近所にありながら、どういうところか全然知らなかったし…。


そうと決まったらすぐ行動しよう。私は身なりを整えて家を出た。

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