第12話 修行も捉え方次第ではリフレッシュ(物はやり様、言い様ではありませんよ)

「清華、起きなさい。」


惰眠をむさぼる私の布団を引っぺがすシルラ。

こっちの世界にもずいぶん慣れたようで結構なこと…


さっきまでは

「大気圧で布団が抑えられて出れないんだよぉ」なんて

言い訳をしてみたが、

シルラにそんな言い訳は通用しなかった。


そもそもシルラは大気圧なんて知らない。


だからシルラは私の言い訳は

彼女の腕っぷしの前に敗北したってワケだ。


「分かったよ。起きる、起きるから。」


叩き起こされて寝ぼけ眼の私に

シルラが「ビシッ」を指さす。


「せっかくの休日だけど、今日の予定はもう決まってるわよ!!」


そう言って指を鳴らす。

その瞬間、来ていたパジャマがいつもの部屋着に変わる。


「さぁ、出発よ!!」


シルラが指を振ると

部屋の中に時空の歪み的なものが開いた。


シルラに連れられてその中に踏み込んだ。


歪を抜けた先はいわゆる採石場のようなところ、

どこの国なのか?そもそも日本なの?ここ。


「ここなら思いっきりやっても

気にしなくていいわね。」


思いっきりって何やるの?

なんか今日はシルラも張り切ってるし…


シルラが準備運動を始める。


「さて今日は清華に魔法をマスターしてもらうわ。」


そう言いながら指を一振り、

石が飛んできた。


「っ、あぶなっ!!」


反射的に避けそうになるも本能が告げる。

「間に合わない」と。


目をつぶってしまった。

その瞬間だった。


鈍い音がする。


目を開けると、飛んできた石が直前で止まっていた。

止められた石はそこから真下に落ちた。


「ほら、こんな風に清華は制御ができてないのよ。」


得意げにシルラは言う。


平気な顔して、とんでもないことするなぁぁ!!


不意打ちは魔法初心者にはダメでしょ!?

当たってたらケガしてたよ。


「清華、あんたは素質はあるのよ。

だから制御さえできるようになれば

ものすごい魔導士になれるはずよ。」


そうは言っても…


私は魔導士になるつもりもなければ

素質なんてあったところで何の役にも立たない。


だってただのOLですから…


「盛り上がってるところ申し訳ないんだけど

なんで私が魔導士になり前提で話が進んでるの?」


「えっ?魔導士目指さないの?」


「えっ?魔導士目指さないよ!!」


シルラが崩れ落ちる。


この子、私が魔導士になるって本気で思ってたらしい。


だってさ、今の生活で十分満足してるし…

これ以上刺激だらけの生活なんていらないよ…


「でもでもでも、魔法が制御できるようになれば他にもいいことがあるわ。」


再び「ビシッ」と指さされる私。

ほほぅ。聞かせてもらおうじゃないか。


「清華が会社で出す魔法による損害が減ることよ。」


「グハッ」


危ない危ない、吐血しそうになった。

なんで知ってるの?この子。


「これも魔法の力よ」なんて胸張るシルラ、

さぞ得意げそうで…


◇◇◇


「じゃあお願いしようかな?」


「よろしく頼まれたわ。」


さっきとは違い、いきなり石なんて飛ばしてくることはなさそうだ。


「清華は通常必要な詠唱を破棄してるの。

簡単なことじゃないわ。」


そう言ってシルラは説明を始める。


私のイメージにある詠唱はいわゆる魔法発動に必要なものだけど

本来は違うらしい。


「詠唱は発動の媒体であると同時に安全装置なのよ。」


なるほど、私は詠唱をしなかったから

あんなことになったのか…


「じゃあ、私の後に続いて言いなさい。」


「ん、了解。」


「じゃあ始めるわよ」と言って

シルラは胸の前で手を組んだ。


「出でよハーピィの風。地に縛られしこの体、その魂を空へと導け。」


唱えると同時にシルラの体が浮かび上がる。


そういえばさっきの詠唱って

リルラが言ってたやつだ。


「さぁ清華、私に続きなさい。」


シルラが空に浮かんだ状態で言った。


分かった、分かったよ。

やればいいんでしょ、やれば…


「えぇっと…なんだっけ?

出でよハーピィの風。地に縛られしこの体、その魂を空へと導け

だっけ?あってる?シルラ?」


ちょっと浮かべばいいやなんて思って適当に言ったその瞬間、

体が浮かび上がる。


…いや、浮かび上がるどころの騒ぎじゃない。


地面から撃ちだされたかのように

私の体は上空へ飛んだ。


「だぁぁぁぁぁぁぁ、

なにこれぇぇぇぇぇぇぇ!?」


前の通勤の時とは比較にもならない。

あれはなんとか止まったけど、今回は止まりそうな感じがない。


ワンチャン、このまま宇宙まで?

いや待て、そしたら私死ぬ…


「清華、心を落ち着けなさい!!」


「落ち着いてられるか!!

詠唱は安全装置じゃないのかよ」


シルラが安全装置だって言うから私も言ってみたのに。

これじゃ安全装置どころかブースト剤じゃんか。


シルラは助けてくれんし、どうしろっていうんだ…


落ち着けって言われても

心はいつになく落ち着いてる…ハズ。


スミマセン、嘘でした。

めっちゃ動揺してます、心臓バクバクです。


だってさ、今どこにいると思う?


すぐ横に飛行機通ったんだよ。

窓から子供が手、振ってたもん。


つまり雲の上くらいまで来てるんですよ。


子供の頃はさ、

「雲の上でお昼寝したい」なんて夢を語ったもんだが…


いざ現実になると

悲しきかな、若干引いちゃう自分がいることに気付いてしまう。


その時だった。


さっきまでの激しい上昇がふっと止まり、

体がフヨフヨと宙に浮くだけになった。


冷静になれってこういうこと?

…悲しきかな。


まぁ空中散歩もたまにはいいかな、

日頃の疲れもたまってることだし。


「ちょっと昼寝でもしよう、か、な…」


◇◇◇


「やっぱり清華は魔導士になるべきだわ!!」


「いいやごめんだね。私はOLで十分ですよ。」


結局あの後、昼寝して帰ってきた。


その私にシルラは噛みついてきた。

まぁそうだよね、いきなり飛んでった奴が昼寝して帰ってきたらびっくりするよね…


そしてシルラから熱烈な勧誘を受けてるわけなんだけども、

私はいつもの平穏な日常で十分なんでね。


…でもさっきの魔法、

たまに昼寝するときに使うならいいかもね。


さて、明日も仕事だ。


「よし、頑張るぞ。」


「魔導士になるための修行の話ね、修行の話なのね。」


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