第11話 正月にやるべきことは早めに終わらせよう(色んな意味でのスピード勝負です)

除夜の鐘が鳴る。


除夜の鐘には人間の108つの煩悩を祓う力があるなんてそんな話はよく聞くが、

それに対して「本当かぁ?」と疑ってしまった時点で

私、花森はすでに煩悩云々以前の問題なのだろう。


さぁ新しい年だ。今年も頑張ろうかな。なんて思ってはみたが

そんなんじゃありきたりすぎる。


「なんか目標でも立ててみるか」

とは言ったもののどうにも思いつかない。


まぁ思いつかないら後回しでもいっか。なんてことを考えた時点で私の目標は


「脱・後回し」


になってしまうのかなぁなんて。


こたつではシルラとリルラが寝ている。


年越しまで起きていると高らかにした宣言も虚しく、

すぐに寝落ちしてしまったところに年相応のものを感じる


以前、「年が明けたら、お参りに行くんだよ」なんて言ったせいで

シルラが


「じゃあ、新しい年になった瞬間にお参りって言うのに行きましょ。」


って言い出した。

ッ大学生かよ…


特に反対する理由もなかったからいいんだけどさぁ。


「起きなよシルラ、リルラ。年明けちゃったよ。」


「なんですってぇ!?で、あの歌番組はどっちが勝ったのよ?」


「すみません人様の家で寝てしまって…

あ、花森さん、あけましておめでとうございます。」


リルラ大当たり、

シルラ気になるのは分かるけどさ、もっと先に言うことないの…


リルラが言ったのに気づいてシルラも口を開く。


「清華、あけましておめでとう。」


「2人とも、あけましておめでとう。」


2人はお参りに行くことを思い出すと、

私を引っ張って家から出ようとした。


待て待て、寒いんだよ、こっから出たくないんだよ。


私の抵抗も虚しく、

外にまで引っ張り出された。


何が悲しくって、幼女2人との綱引きに負けなきゃいけないんだ。


そして


「夜のお散歩って新鮮ね、清華。」


「このままではいわゆる不良というものに

なってしまうのではないでしょうか…」


この2人にとって寒いなんてのは眼中にもないらしい。

こっちはめちゃくちゃ寒いんだけどね…


するとシルラが私の体に手をかざした。


なんだか体がポカポカするような…


「当たり前よ、私の魔法だもの。」


「ありがとうね、シルラ。」


それにしても風が当たるとやっぱり寒いなぁ


するとリルラが手を前に出す。

その瞬間、風が止んだ。


…私たち3人の周りだけ。


街路樹の葉が揺れてるのを見る限りは

風は吹いてるんだろう。


それをリルラが魔法で遮ったと…


「ありがとうね、リルラ。」


「花森さんにはお世話になってますから。

これくらい当然ですよ///」


その後はシルラとリルラが

若干険悪になりそうにもなったが、そこは押しとどめた。


歩いていくと神社が見えてくる。


「あ、あんなところに人間がいっぱいいるわ。

あそこに違いないのね!!」


シルラは駆けだす。


(待って、そこじゃない。そこは…)


私とリルラが追いつくと、

「それ」は始まろうとしていた


「さぁ、今年も始まりました。福レース。

今年の栄冠を手にするのは誰なのか!?」


…マズい、これは毎年年明けに行われる本殿まで走るレース。

足自慢の人(主に本業のヤバイ人)が集結するやつだ…


「リルラ、見つかった?」


「気配が多すぎて見つかりません!!」


シルラの魔力を探してもらってるが…

それをも打ち消す吹く男レース恐ろしき…


そうこうする間にレースの火ぶたが切られる。


「それでは今年の福レース、スタートまで。3,2,1…」


「見つけましたっ。」


リルラが声を挙げると同時にスタートの音が鳴る。


走り出した群衆の中で、

周りを蹴散らして進むシルラが一瞬見えた。


間に合わなかったかぁ…


「まだ間に合います。私が魔法を使って追いかけます。

あとは許可さえいただけたら使えるんですが…」


「行ってよし、ついでに1・2位狙ってきなさい!!」


サムズアップして許可を出す。

シルラもここまで慎重だったらいいのになぁ…


「出でよハーピィの風。地に縛られしこの体、その魂を空へと導け。」


リルラの体が浮かび上がる。


「それでは行ってきます。」


そう言い残してリルラの姿は一陣の風と共に消えた。


数十分後、2人は抱えきれないほどの賞品を抱えて帰ってきた。

シルラがリルラに文句を言ってたのは気になったけども…


「魔法がありなら最初からそう言いなさいよ!!」


「勝手に飛び出して迷惑かけたのはあなたでしょう。

それに私は花森さんの許可もとりました。

優勝は付いてきただけです。」


「キー、スカしてんじゃないわよ。

今度こそ絶対に勝ってやるわよ。」


仲のいいことで…


賞品はシルラがブツクサ言いながらも収納魔法でしまった。

ホント便利なものもあるもんだ。


その後は特に何もなく

目的の神社までたどり着き、お参りを終えて、おみくじを引いた。


シルラは大吉、リルラは中吉。


シルラはリルラに威張っていたが、

「私はこれから上がっていく余地があるので」と一蹴されていた。


「清華はこれからどうするの?」


「うーん、寝正月かな?」


正月休みが明けてしまえばすぐに仕事がやってくる。

その日に向けて寝貯めしとかんとね。


「じゃあ帰るよ。」


私の正月、淡白すぎるだろうか?

いや、そんなことない。


これからは多様性の時代ですから。


多様性と言えば…


「今年はこの耳、治るのかなぁ…」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る