第7話 ガスコンロとタイマンはりましょう (文明の利器を見返してやりましょう)

仕事が終わった。

さて帰って、晩御飯でも作ろうかな?


最近、自分で作ることが増えた。

いや違うな…


“仕事で遅くなっても”

自分で作ることが増えた。


だって家に帰れば

待ってくれてる子がいるんだもん。


作るしかないよね?


「ただいまぁ」


玄関を開ければ

リビングからはシルラが走ってくる。


「おかえり、清華。

今日の晩御飯は何かしら?」


すっかりこっちの世界にかぶれたエルフがそこにいた。


「今日はオムライスだよ。」


オムライスと聞いてはねて喜ぶシルラ。


以前の氷の女王のようなふるまいは何処へやら


すっかりただのロリバb…

じゃなかった、少女へ変わってしまった。


前の感じは前の感じで好きだったんだけどなぁ

自分よりも年取ってるはずなのに…

なんか複雑な気分だ。


冷蔵庫の中身を確認

よし大丈夫。


シルラにも手伝ってもらって

あとは炒めたりするだけ


そこまで来た時だった。


…あれ?


なんかコンロの調子が悪いような…


そういえばここに越してきて

もうずいぶんと長くなるからなぁ


そろそろ変え時なのかな…


「どうしたの、清華?難しい顔しちゃって。」


「それがね、火が点きにくいんだよね。

随分長く使ってるしね。」


「じゃぁ、私が点けてあげるわ」


…何を?


そう思った時には遅かった。


シルラが詠唱(っぽい)ものを始める。


「出でよ地獄の業火。世の理に背きし悪しき魂を、塵をも残さず焼き払え」


シルラの背後に赤の魔法陣が浮かび上がる。

刹那、赤を通り越して黒になった炎が放たれた。


「ストップ、ストップ、ストップ!!」


慌ててシルラを止める。


当のシルラは

「火力が足りなかったかしら?」なんて首をかしげてる。


とりあえずお説教は後だ。


コンロが吹き飛んで

ドロドロに溶けてるからね。


その後、コンロはシルラが元に戻してくれた。


魔法って便利デスネ。


あのさぁ、

ほどほどにできないのかね?ほどほどに。


私が言えたことじゃないけどさぁ

もうちょっと考えようよ。


一度、原形を失って復元されたコンロはあら不思議、

調子が悪かったのが嘘みたいに使えるようになった。


…なんか複雑な気分。


特に問題なく作り終え

2人でテーブルに着く。


「オムライス、オムライス」なんて

はしゃぎ回るこのエルフも随分とこっちになじんだようだった。


かぶれ過ぎじゃない?


「シルラってさ、ホントは何歳くらいなの?」


「清華、乙女にそんなこと聞くのはNGってやつよ!!」


NGって…

このエルフ、つまらんことばかり覚えよって…


でも気になるものは気になる、


見慣れた子供みたいな表情に対して

えげつない魔法を連発するような力、


どうにもこの間に矛盾が生じるんだよなぁ。


いくら聞いても教えてはくれなかったが

ヒントはくれた。


エルフの中では比較的若いんだとか。


「人間に換算して、清華と比べたら…」

まで言ったところで急いで口をふさいだ。


聞いちゃえば絶望する未来が見えたような気がしたからね、

決して、シルラの方が若いと思ったとかそんなんじゃないよ。


それにしてもエルフの寿命ってどのくらいなのかな?


エルフなんて

おとぎ話の中身くらいでしか見たことないからなぁ…


だいぶ長生きってのは知ってるけども


…待てよ


なら私、シルラより若いんじゃね?


うん、そうだ、そうに違いない。

そう思うことにしよう。


「何言ってるの清華?私は人間に直したら、じゅうい…」


やめーい、

おだまりなっさい。


なんか聞こえた気がするけど

気のせい、気のせい。


◇◇◇


ご飯も終わって

我が家恒例、洗い物じゃんけん!!


シルラには魔法の使用を禁止して、

本当の意味での真剣勝負。


今日勝ったのは、私だった。


「明日こそは負けないわ。

覚えてなさい、清華!!」


ビシッと指をさして私に宣言するシルラを流しに強制送還。


見ればシルラの周りには水色の魔法陣が出現、

高圧洗浄のようにして皿を洗っているが…


まぁ案の定だった。

予想はついてたよ。


私ん家のお皿はそんな高圧洗浄に耐えられるものじゃない。


はい、割れました。


その結果、私も一緒に洗いものすることになっちゃった…

この子、目離したら大変だわ…


まるで自分の娘と一緒に家事してるような気分になる。


…まぁ私、独身なんだけどもさ。


たまにはこんなのもいいかな

なんて腑抜けすぎだろうか?


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