第6話 シルラの社会勉強(異文化理解って大事です)
シルラが私の家に住むようになって数日経った。
「この世界のことがもっと知りたいわ!!」
とのご要望。
まぁでもシルラもこっちに来てまだ日も浅いしなぁ
今日は日曜だし、ちょっとお出かけしようかな。
シルラはどうやら私の心を読んだみたいだ
目を輝かせている。
◇◇◇
「清華、清華、あれはなぁに?」
「それはエスカレーターだね。」
エルフでも動く階段は知らないようだ。
どうだ、すごいだろ?
「清華、清華、これはなに?」
「これはエレベーターだね。」
「箱が上下に動いてるわ。
人間って面白いこと考えるのね。」
聞けばエルフは数多の魔法が使えるんだとか、
その中の飛行魔法を使えば空中浮遊やムーンウォークもお手の物らしい。
シルラにムーンウォークは早かったか…
◇◇◇
エレベーターで上に上がっている途中だった
「ぐぎゅるるるるるるぅぅぅぅ…」
誰かは知らんがお腹が鳴った。
誰ですか?先生怒らないから出て来なさい。
なんていう必要ない。
だってここには私とシルラの2人しかいないんだから。
おまけにシルラの顔が真っ赤になってるんだから。
「ご飯食べる?」
うつむきながらも上目遣いで返事するシルラ。
えぇい、もう可愛いやつめ。
私に任せなさい!!
フードコートで目を輝かせるシルラ。
これ、観察日記とかになるんじゃない?
子供の夏休みの主題にぴったりだね、子供いないけど、独身なんだけど…
「シルラはどれにするの?」
「そぉねぇ、あれにしようかしら?」
指さしたのは、うどんだった。
それをチョイスするとは中々渋いやつめ。
じゃぁ私は…
おっ?あれは…
◇◇◇
「清華、清華、大変よ。
この魔道具、ブルブル震えてるわ。
きっと何かの攻撃よ!?」
ははは、まさか、ここは現代日本ですぜ。
そんな事ありゃしないよ。
「シルラ。それはね、さっき頼んだやつができたって教えてくれてんだよ。
さ、早く行ってきな。」
ポカーンとしたような顔、
いいですないいですな。
すぐに顔を真っ赤にして行ってしまった。
「清華、清華、この“うどん”っていう食べ物美味しいわ!!」
「そりゃよかったよ」
ところで、と言って私の料理が来ていないことを確認する。
「清華のはまだなの?」
よくぞ聞いてくれた、
私のはそれはそれは作るのに手間がかかる(のかは正直分からない)のだ。
そんなこと言ってる間に
手元の機械が震え始める。
「ドンッ!!」という音にふさわしく
私の前に着地したのは、
圧倒的な肉。
これこれ、これだよ。
最近ちょっと重いかな?なんて思うようになったけど、
今日くらいはいいよね?
そんな私をシルラが不安そうに見る。
「私思ってたんだけど、清華って変よね?」
ぐはっ、幼女の見た目でそんなこと言わないで…
心に刺さる。
「お肉食べるし。」
へ?
いやいやお肉食べるなんて普通でしょ?
私まだ25だよ?
慌てたようにシルラが付け足す。
「清華ってエルフでしょ?なら肉は受け付けなくなって当然のはずなのよ
それなのにバクバク食べて、ホント不思議よねぇ。」
なんですか、そのエルフは獣を食べないみたいなの?
確かにそんなイメージはあるけどさ。
今の今まで気にしたこともなかったや。
そう言えばシルラの食べてるうどんは肉が入ってない。
意識して選んだのか…
そこからは終始、不思議そうな顔をしたシルラとにらめっこで
お昼を食べることになったなんてのはまた別の話。
◇◇◇
「今日は楽しかった?」
「うん、とっても楽しかったわ」
西の空が茜に染まる頃、
私たち2人は帰路についていた。
楽しんでくれたならよかった。
でもまだまだ甘いぜ少女。
「でもこれからもっといっぱい楽しいことがあると思うよ。
めいいっぱい楽しんどきな。」
シルラもいつかは元いた世界に帰ってしまう。
せめてその間だけでも、この子が笑っていられるようにするのが私たち大人の役目だ。
そんなことを考えているとシルラが裾を引っ張る。
「私、楽しかった。
だからいつか帰るなんて言わないで、私に夢見させてて。」
あぁ、そうだ。
この子だってわかってるんだ。
必死に考えないようにしてるんだなぁ。
私が余計なこと考えちゃった。
反省しなきゃ。
涙を拭う。
この子の願いをかなえてあげよう。
それがたとえシルラにとって一炊の間のことだとしても。
「シルラ、家まで競争しよっか?」
シルラの顔が一気に明るくなる。
「分かったわ清華、やってやるわよ。」
夕日に向かって駆けだした2つの影、
その影は長く長く伸びていた。
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