第5話 お客様は異世界から(グローバルな時代ですから)

本日は日曜日。

休日出勤もなく、布団の中で今日1日を過ごそうか

なんてそんなことを考えていた午前10時。


―ピンポーン―


インターホンが鳴った。


日曜の朝っぱら(?)から誰なの?


こんな時には

社会人の必殺技100選の中から”あれ”を使おう。


居留守、君に決めたっ!!


はい、というわけでなってるインターホンなんて気にしない気にしない。


私の家から夢の国は物理的に遠いんです、

でも寝てしまえば真にそこが夢の国。


疲れた社会人の心を癒すオアシスがそこにはあるっ。


おやすみなさい…


◇◇◇


できなかった。


日曜、朝10時の睡眠欲に勝てるものなんてないはずだ。

少なくとも私は知らない。


それにしても鳴りやまないインターホン。


ちょっと腹が立ってきた。

一言、物申そう。


眠い目をこすり、玄関に立つ。


「あのぉ、うるさいんでやめてもらえます?」


うっすらと目を開けるとそこにいたのは…


エルフだった。


「ガチャン」

あぁ、なんてこった。

最近おかしなことに慣れすぎて今度は私の妄想までが具現化した。


こんな時は寝るにかぎる。


だって、あれでしょ、

パソコンだって調子おかしいときは再起動するでしょ?


人間も同じだよ、同じ。

決して面倒くさくなったとか、ただ眠いからとかじゃないよ。

ワタシ、エライコ、ウソツカナイ。


くるりとその場で回れ右、

目図すべき場所は寝室のベッド一択。


さぁ行くぞ、夢の国h…


部屋中に光が満ちる。


「目がぁぁぁぁぁぁぁ…」


やっと目が慣れた。

そして目を開けられるようになった。


そして後悔する。

(目、開けなきゃよかった。)


そこにあったのは

恐らく私の家のリビングだったモノ。


かろうじて原形をとどめたテレビが

ここが私の家のリビングであることを微力ながら証明しようとしている。


あ、液晶が折れた。


…って、何でこんなことになってんの?


確かに私は年端も行かない(少なくとも私にはそう見えた)

エルフ(っぽい)子の訪問を無視したけどさ。


これはひどくない?


「おじゃまします。」


あぁホントにじゃましてくれたなぁ、

せっかくの日曜にインターホン鳴らされ、部屋まで壊滅。


そんでなんでこの子は入ってきてんの?


「客人をもてなすのは当然の作法であると思うのだけれど?」

残ったイス(であったもの)に座ったエルフの少女はそう言った。


待て待て待て待て、

家ぶっ壊した奴をもてなすバカがどこにいる?


でも私は社会人、

こんなことじゃ怒らない。


いや、内心はめっちゃ怒ってる。

いいよね?ちょっとは怒ってもさ。

これは許されるよね。


それでも顔には出さない、私は社会人。

今度、ジムでサンドバック思いっきり殴ろう。


「それで私に何か用かな?それとも迷子?」


「迷子になるような年じゃないわ。

あなたよりもはるかに長く生きてるんだもの。

エルフ、知らないの?」


えぇ、知ってますとも。

まことに存じ上げておりますとも。


そのせいで最近生活がめちゃくちゃなんだから。


「エルフくらいは知ってるけど、

それがどうしたの?」


「この世界からエルフの気配を感じたから来ただけだわ。

でも出て来たのは人間だったから、がっかりね。」


はぁそうですか、

がっかりさせて申し訳ございませんね。


とりあえず目の前の少女をイスに座らせた。


「コーヒーでいいかな?」


答えを聞くこともなく2人分のコーヒーを手にテーブルへ。


しかしよく見ればこの子、

すごい美人だなぁ。


口の悪ささえ除けば全く問題ないほどに。


「で、私になんか用?」


「だからエルフの気配を感じたから来ただけだわ。」


たしかに私、最近エルフっぽくなってるけどさ。

だからって本物が訪ねてくるなんてことある?


とは言ってみたものの

本物が目の前にいるから文句言えないんだよなぁ。


「あなた、1人でぶつぶつ喋って寂しくないのかしら?」


ぐはっ


孤独な心にクリティカル


私のライフをオーバーキル


もうやめて、とっくに私のライフはゼロよ。


なんて茶番はさておき、

心読まれた?


「そうよ、私はエルフだもの。

心くらい簡単に読めるわ。」

なんコーヒー飲みながら

余裕の笑みをかます少女、いやロリバb…


「今、何かとても失礼なことを

言われたような気がしたのだけれど。

気のせいかしら?」


はい、気のせいで気のせいです。


なんて私もイスに座って

にらみ合うこと数分、


気になることを聞いてみた。


「それで、様子見が終わったなら帰らないんですか?

この後、掃除とかしなくちゃいけないんですけど。」


その瞬間、

一瞬だけ魔の前のエルフの顔がくもった。


おやぁ、これは何か隠し事の予感…


「もしかして戻れなくなったとか?」


この時の私は当てずっぽで言ったつもりだった。

まさか当ててやろうなんて思ってもいなかった。


しかし現実は小説よりも奇なり。


目の前の少女、露骨に顔をそむけた。


こ・れ・は


ピンポン、大当たり、確変カットイン、ミリオンゴッドまで突入か?


「で、どうなの?帰れないなら帰れないって言ったらどうなの?」


社会の荒波に揉まれた人間の死んだ目をくらえ。

そうして目を合わせ続けること数分で少女は折れた。


「だってだってっだってぇ、仕方なかったんだもん。

気付いたらこっちとあっちを繋ぐ門が消えちゃったんだもん。」


おっと、しゃべり方が大層変わったようで。

こっちがホントの話し方っぽいな。


なんて話はさておき、

目の前の少女は私を指さす。


「私の名前はシルラ、誇り高きエルフよ。

アンタみたいなエルフの落ちこぼれと一緒にいてあげるわ。

感謝しなさい!!」


「間に合ってるんで。」


部屋から出して、扉を閉めた。」


「なんでなんでなんでよぉ、

私が一緒に住んであげるって言ってんじゃない!!

何が不満なのよぉ?」


何が不満って?

問答無用で家ぶち壊すような奴と住めるかっての。


外が少し静かになる。


ようやく帰ったか…

と思った途端、外からすすり泣く声が聞こえて来た。


「せっかくたよれると思ったのに…

わたし、これからどうすればいいの…」


あぁもう、外で泣かれたりなんかしたら

うるさくてかなわないっての。


それに、

子供が目の前で泣いてるのに

話を聞いてやらんってのも癪に障る。


仕方なくドアを開ける。

そこにはまだシルラと名乗った少女がいた。


「なによ、お情けなんていらないわ。

私は誇り高きエルh…」


「うるさい」


デコをデコピンで弾いてやる。


「ふぎゃっ」と言ってシルラはひっくり返った。


「なにするのよ!?」


「子供を泣かせるのは私のポリシーが許さないの。

条件が飲めるならここにいさせてあげる。」


私が出した条件は3つ

・人間を見下さないこと

・周りに迷惑かけないこと


そして

・今のこの部屋をきちんと元の状態に戻すこと


「できる?」

シルラに聞く。


シルラは大きく頷いた。

その顔は年相応の笑顔であったとか。


まぁ、そんなこんなで住人が増えたってことだよ。



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