第6話 醜い食事争い

無事寮分けが終わると、遅めの昼食となる。


皿に乗った最後のチキンを取ると、狙っていたようだ、同じ皿へ手を伸ばした先輩の手が空を切り、むっとした顔で睨みつけられる。

寮分けが始まる前からガツガツと食べていたろうに、彼の胃袋はまだ余裕そうだ。視線を遮るようにベイクドビーンズの容器を彼にぐいっと押し付けると、渋々と受け取る。後輩を前にして、好き嫌いは出来ないようだ。大きな口に見合わずちびちびと口に運ぶ。ベイクドビーンズだけ全く手をつけられていないのを見るに、どうやらこの卓は皆豆料理が苦手らしい。美味しいのに。


彼のその様子を見守り、これ見よがしにチキンを頬張る。その私の態度に、またムッとした顔になる。


知らんぷりをしてパスタを啜り嫌悪感を煽る私と、それに対抗しベイクドビーンズを詰め込んだ口の中を見せてくる先輩。

沈静で、とても醜い争いを繰り広げ食事は続く。



「はーっ。お腹いっぱいだ~~」


そんな醜い争いも、十分もすると二人して我に返る。食事への敬意を示しそれぞれ皿に向き合った。

物語であるあるの、ヤンキーが喧嘩後に互いを称え合うように、満足気な表情で目配せをする。


「喧嘩をするのはお腹が空いているからだ」


腹を撫でながら、誰かのそんな言葉を思い出す。確かに、一理あるかもな。


と、ガタッと椅子の音がし上級生が立ち上がる。

シャキッと伸びた背筋、ピシッと着こなされた制服。いかにも優等生というような爽やかな印象だ。

皆の視線が彼に集まる。


「新入生の諸君、センドパトラ寮へようこそ、歓迎するよ。僕はケビン・エイベル。寮の寮長です。」

左腕の時計を見て数秒、言葉を続ける。


「もうすぐ昼食の時間が終わります。寮を案内するので支度をして下さい。」



私含めまだ残っている食事を勿体無いと思ったか、はたまたまだ食べ足りないのか、その言葉を聞いた数人は我先にと自分の取り皿へよそうと、凄い勢いで料理を流し込む。

二分ほどですっかり空っぽになった皿に少し物足りなく感じつつ、口を拭う。


とサザン校長が呼び掛ける。

「はーい皆さん。聞いて下さーい。今から各寮寮へ向かいます。寮長について行くように。じゃあ解散~~。」

「ちょっと待って下さい!」

手を両側でひらひらと振り解散を促すサザン校長の言葉に被せ、ベリアン教頭が続ける。


「その前に皿の片付けです!自分達の使った食器です、ちゃんと食堂のロボット達に御馳走様を言うように!ということで、今度こそ解散!」


……ベリアン教頭、つくづく苦労人そうだな。


心のなかで御愁傷様と唱え、皆で分担し返却口へ運ぶ。醜い食事争いを繰り広げた戦友(と私が勝手に思っている)は、相当な皿を一人で平らげたようで、両手いっぱいに食器を運んでいる。




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