14
次の日、私は教室に一番乗りしていた。
換気のために窓を開いて、自分の席に座ってぼうっと前の方を見つめる。
柔らかな風が入ってきて、そこにはいつものように、秋の匂いが含まれていた。
何故だろう。やっぱり私は、この匂いが怖い。
もう窓を閉めてしまおうかと思って、席を立ってゆっくりと歩き出す。
そうして気付いた。
今日は秋の匂いに、何か別の匂いが混ざっているような気がする。
立ち止まって、深く空気を吸った。
ひんやりとしていて、優しい、不思議な香り――
私は目を見張る。それは間違いなく、彼女の香りだった。
でも、どうして。
私は教室を見渡した。窓から軽く身を乗り出して地上を見渡した。教室から出て廊下を見渡した。気付けば私は走り出していた。探そうと思った。香りがするのなら彼女は近くにいるはずだ。私が今日この場所に来た理由は一つしかない。睡蓮に、会いたかったからだ。それ以外の全てはどうでもよかった。ただ私は……私の最愛の友人に、笑顔でいてほしくて。
――けれど結局、私は睡蓮と会えることはなかった。
彼女は満月の美しいあの夜に、首を吊って自殺した。
……誰か、私のことを嘲笑ってはくれないだろうか。
大切な人を苦しみから救うことすらできなかった、愚かな私のことを。
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