第18話

−放課後〈屋上〉−


「それからしばらくは校庭の木の上で本を読んで時間を潰して、午後の授業が始まったらここに戻ってきた」


一通り今日の出来事を蒼夜に話し終えた頃には、胸の内に燻っていた怒りの感情が収まっていた。鬱憤を吐き出してスッキリしたからか、周囲の様子に目を向ける余裕ができた。沈みゆく夕陽が空を赤く染め上げ、夜の訪れを告げている。そろそろ帰らなければと蒼夜に視線を向けると、今までにないほど怒り狂っていた。声をかけることも躊躇われるほどの形相に、帰ろうと言おうと開きかけた口を噤んた。少しの間怒りが収まるのを待っていると、ブツブツと何かを呟いていることに気づいた。少し体を蒼夜に近づけて耳を澄まして聴くと、それは勇輝を呪う言葉の数々だった。


「いったい何年幼馴染やってきてんだ。」


最後に呟いたのは、幼馴染としての言葉だろう。その後、なにか呟く様子はなくなったものの、まだ怒りは収まらないようだ。自分の為に怒っていると分かっているから嬉しくて仕方がないのだが、これではいつまで経っても帰れない。私としてはいつまでも待っていられるのだが、学校の門が閉まる前には帰らなければと、蒼夜の肩を叩いてこちらに意識を向けさせる。


「蒼夜」


「……ん?」


「帰ろう」


「あぁ…もうそんな時間か。そうだな帰るか」


そう言って、蒼夜は立ち上がり手を差し出した。私は迷うことなくその手を取り立ち上がると、二人並んて歩き出す。もう二度と、私達が勇輝と共に三人肩を並べて家まで帰ることはないだろう。幼い頃のように私が真ん中で左右に勇輝と蒼夜が並んで手を繋いで歩いていた頃が遠い昔のようだ。あの頃の勇輝はまだそこまで私に執着していなかった。だから一緒にいられたが、今の勇輝の執着心は異常で、自分の言動で私がどんな感情を抱くのかなんて気にもしていないし、気付いてもいない。だからもう、昔のように勇輝と一緒になんていられない。それでも、蒼夜が居るから寂しくなんてない。きっと、蒼夜はこれから先もずっと一緒にいてくれる。たとえお互いに好きな人ができてその人と居ることが多くなっても、蒼夜のことだから、何があっても私を独りにすることはないのだろう。恋人よりも私を優先したりしないといいが。などと思いながら、繋いだ手にそっと力を込めた。

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