第16話

突然の腹部への痛みに意識が浮上して目を開くと、目の前には勇輝の取り巻き達が立っていた。

一人だけ、私の前で足をあげている女に蹴られたのだろうと推測して、ゆっくりと起き上がる。私を蹴ったのは、お嬢様言葉のよく似合う金持ち令嬢だった(私は、いつも心の中でビッチ令嬢と呼んでいる)。


「…何か用?」


腹を押さえながらゆっくり立ち上がって睨みつけると、彼女はわずかに狼狽えたあと、腕を組んでお門違いな怒りをぶつけてきた。


「勇輝様に近づくのはやめていただてけます?幼馴染みだからとつきまとって、勇輝様が迷惑しているのが分かりませんの?」


ほかの勇輝ハーレムメンバーも便乗するように私を罵倒してくるのを見て、思わず顔をしかめて盛大にため息を吐いてしまった。そんな私の態度が相当気に入らなかったのか、目尻を吊り上げて怒鳴りつけてきた。


「なんですのその態度は!!まるで自分のほうが迷惑していますとでも言うような「実際、迷惑被っているのは私の方なのだけれど?」


怒鳴り散らそうとする彼女の声を、僅かに怒気を含ませた声音で遮る。そうすると、身の危険でも感じたのか全員口を噤み一歩後退った。それは正しい判断だった。あれ以上甲高い声で騒ぎ立てられると、手が出そうだった。普段は女子供には絶対手を上げるようなことはしないのだが、教室の一件で苛立っていた上、相手が勇輝のハーレムメンバーであれば話は別だ。


私が一歩踏み出すと一歩あとずさる彼女達を前に、わずかに理性の戻った頭で


(今の私は、以前蒼夜が言っていた表情をしているのだろうな)


と考えていた。

いつだったか、蒼夜と私の二人で遊んでいたときに絡んできた不良達に、蒼夜が殴られて怪我をしたときがあった。その時私がキレて、自分よりも頭一つ分は大きいかったその男達を蹴り倒して小一時間説教したのだが、その時の私の表情が相当怖かったらしい。後から蒼夜に聞いた話だが、なんでも顔は穏やかな笑顔を浮かべているのに瞳は笑っていないどころか、冷え切っていたそうだ。その時の不良達曰く、絶対零度の微笑みだったと。その日以降蒼夜は、絶対に私を怒らせないと誓ったと言っていた。


閑話休題


戻った理性など髪の毛一本ほどでしかない。そのため、彼女達のどんな言葉が私の怒りに触れるかわからない今、さっさと追い返すに越したことはない。できれば暴力沙汰など起こしたくないのだから。


「私が勇輝に近づいてる?馬鹿言わないでくれますか?むしろ全力で離れようとしてるのですが?引っ越して離れられるんなら喜んで引っ越しますし、海外に行けば二度と合わなくて済むなら迷わず行きますよ?けど、それを実行したところで彼奴は必ずついてくるでしょう。無駄な労力を使いたくないから私はここにいるのです。勇輝が私に近づくことがそんなに嫌なら全力で引き留めてくださいよ。」


ノンストップで話し続ける私に始めは怯えていたものの、次第に怒りの表情に変わっていく。


私達ワタクシたちをバカにしてますの!?」


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