夏の長期休み。泊まり込みで業務をこなし終え休んでいた雄太郎は、黒沢を通じて五階奥の間へと呼び出された。

「心を強く持ってね」 

 珍しく気遣うような言の葉に押されて、重い足取りで一歩一歩階段を上る。その間、最近、優子と二人きりになっていないことや、安田に呼び出されて二人で楽しげに話す姿ばかり見せられているな、と思い出す。最近はもう優子も躊躇せずに、むしろ見せつけているようだった。

 奥の間までたどり着く。黙って入るようにと事前に指示されていたので、そのまま戸を横に滑らせ、

 目の前には安田の股の間におさまった裸の優子が、息絶え絶えでいる。

「あっ、雄太郎だぁ」

 やっほ。力ない声には、一切の悪気が伺えない。半ば覚悟しかけていた雄太郎が恨めしげな視線を安田に向ければ、

「君の恋人、とてもおいしくしあがってるよ」

 などと、いけしゃあしゃあと告げ、食べてみるかい、と尋ねてくる。途端に優子が、嫌だよぉ、と反転して抱きついた。

「だって、雄太郎ってば五郎さんと違って口だけだし。肝っ玉もあれも小さいから、絶対気持ち良くないし」

「コラコラ。恋人にそんなこと言っちゃ駄目だろ」

「恋人なんていっても、かたちだけです。あたしは五郎さんのモノですしぃ」

 眼前で繰り広げられるやり取りに、二人との埋めがたい距離を感じる。しかし、安田は、

「言っただろう」

 唐突に低く冷たい声をだす。

「俺が愛しているのは、高端君と付き合ってる君だ。無碍に扱うようならその時は」

 途端に優子は、ごめんなさい! と叫ぶ。

「もうしません。だから、捨てないで、五郎さん」

 懇願する女の声は恥も外聞もなかった。そんな優子に、安田は溜息を一つ吐いて、

「今日は優子ちゃんから頼みがあるんだろう」

 などと切りだす。

 そうだった、と思い出したように立ち上がった優子は裸のまま走りだし、呆然とする雄太郎の前で足を止める。そのまま膝を落とし、三指をつく。

「高端雄太郎様。お願いがございます」

 他人行儀な言葉。いったいなにがはじまるのかとかまえる雄太郎の前で、頭が下げられ、

「わたくしと安田五郎様の子を、あなたさまの子として認知してください」

 意味不明なことを告げた。

「俺には子育てをする甲斐性もやる気もないからね。親を用意するなら産んでいいって提案したんだ」

 安田は何でもなさそうにそう告げたあと、雄太郎に歩み寄り、

「好きに決めるといい。君の人生だ」

 実に愉しげに囁く。

 受ける理由はない。優子と安田が勝手にやったことなのだから、と理性は告げている。

 しかし、足には縋りつく優子の姿。

「お願いです。五郎さんの子供を産みたいんです」

 ぼろぼろと涙をこぼしながら向けられる上目遣い。それを受けた雄太郎は――

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