二
付かず離れずの距離を保ったまま一年が過ぎたあと、クラス替えで川橋と離れ離れになった。
しかしながら一年の貯金は大きかったのか、川橋は廊下で会うたびに走り寄ってきた。
「やぁやぁ、ユウタロウ君。元気にしてるかな」
いつの間にか、下の名前で呼ばれているのを不思議に感じつつ立ち話に応じた。会う時間は減ったはずなのに不思議とより親しくなっていくように思えた。
帰宅部である雄太郎が時間を持て余しているのに対して、優子は日々忙しいようだった。
「実家の手伝いがね」
こんな具合に一年の時からぼやいていた少女の実家は、高校の近くにある旅館。そこの一人娘である優子はほぼ毎日、授業が終わるや否やまっすぐ帰宅した。なかなかに繁盛しているというのが一つ。そして跡を継ぐために修行しているのが要因らしかった。
ある時、辛くないのかと尋ねた。口にしてから、馬鹿なことを聞いたと悔いたが、優子は特に気にした様子もなく、そりゃいっぱい遊びたいけどさ、と前置きし、
「物心ついた時からお母さんの後ろ姿をかっこいいって思ってて、あたしもそうなりたかったから。立派な女将になるために苦しいことの一つや二つなんのそのって感じ」
言い切ってから、力こぶを作ってみせる。
眩しいな、と感じた。
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