恋愛小説

ムラサキハルカ

 川橋優子かわはしゆうことの出会いはごくごく平凡なものだったと高端雄太郎たかばたゆうたろうは記憶している。

 高校最初の席で隣だった。たったそれだけ。

「よろしくね、高端君」

 薄らと茶がかった癖っ毛の少女の快活な笑顔。それにどう返したかはよくおぼえていない。とにもかくにもそれで接点ができ、ぽつぽつとどうでもいい話をする仲になった。

 とはいっても、性別が違い所属していたのが別グループだったのもあって、特別繋がりが深かったわけでもない。その上、席が隣だったという事実も一月後の席替えで消えた。比較的、誰とでも仲良くする川橋と違い、小さな目立たない集団にいた雄太郎からは積極的に話しかける気もなく、このまま疎遠になるのだろうなと考えていた。

 しかし、予想に反し川橋は積極的に絡んできた。

「今日も眠そうな目してるねぇ。そんなんで昼間でもつの?」

 人と話していたりする時は遠慮してくれているらしかったが、雄太郎が一人でぼんやりとしていると軽やかな足取りでやってきて話しかけてくる。できれば、休み時間に寝ておきたかったものの、あまり邪険にするのもどうかと思い、相槌を打つだけのつもりで付き合う。すると、いつの間にか話は盛りあがり切りどころを見失い、休み時間の終わりまで話してしまう。そんなことが何度もあった。

 なんで、川橋は俺と話に来るんだろう。当然湧きあがる疑問をぶつけると、

「最初に隣だったから、これも縁かなって」

 あと下の名前も似てるし、などと嘘とも本当ともつかない答えを返してきた。

 似てるのって、ゆうってとこだけだろ、と雄太郎が返せば、川橋は、十分じゃん、となにがおかしいのかというくらい笑った。

 変な奴。それが二月程の付き合いで、少女に抱いた印象だった。

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